魔法しかなかったから物理で叩いた

麦茶畑の緑茶園

文字の大きさ
15 / 20
山あり谷あり、平坦あり?

2

しおりを挟む

「海! いい加減にしなさい!」
「いだっ!?」
「何時だと思ってるの!」


 今読んでいる本がもう少しで読み終わるという所で、後ろから何かで頭を叩かれる。痛む頭を撫でながら後ろを振り返ると、鬼の形相の母がスリッパ片手に仁王立ちしていた。え、それで殴ったの?


 夕飯を食べてからまた書庫に篭っていた俺を心配して声をかけに来てくれたのだろう。もう心配というか怒りというか。色々と超えている気がするけれど。書庫には時間を知る術がない。それはじいちゃんが、意図的にそうしたのだが。集中しているのに、時間というものに縛られてはいけないという配慮だった。
 だからこそこうやって母が来るのだが。


「今何時だと思ってるのよ」
「あー……えっと、23時くらい……?」
「夜中の2時よ。2時! いい加減寝なさい!」
「は、はいいいぃい」


 引き攣らせた笑みで答えてみせたが、逆に噴火を促すだけのものだった。
 急いで机の上に置いてある本を本棚へと戻し、読み進めていた本には栞を挟んで机に置いたままにしといた。翌日またこの本を読むために。
 もう少しでこの本が読み終わる所だったのになんて言ったら、大変なことになるだろう。


「部屋に本を持ってくなんてご法度だからね」
「分かってる。この書庫からは本は持ち出さないよ」


 部屋に持って行ってまで読むな。という意味で母は言ったのだろうけど、俺の答えとは少し違う。書庫から本を持ち出すということは、本の寿命が短くなるということである。まだここの本達には世話になるだろう。末永く存在していてほしいものだ。


 書庫の明かりを消して扉を閉める。道幅の狭い階段を登ってリビングまで戻り、また扉を閉める。地下への扉は二重構造になっている。そんな強固なものではないけれど、書庫の本を守るためのものだとじいちゃんが言っていた。
 リビングの方の扉は何の変哲もない木製の扉。俺みたいなひ弱なやつでも蹴り破れるほどのもの。
 そしてその扉を超えた先にある地下への扉は、今では希少価値の高い鉄板で作られた扉。
 ずしりと重みがあり、開閉の度に床を引きずる程だ。


 その扉にいくつものパズル形式の鍵が仕組まれている。この鍵を開けられるのは俺と母、そして亡きじいちゃんの3人だけ。
 しかも、じいちゃんの悪戯心なのかなんなのか、一度パズルを解いた後に扉を再度閉めると、パズルの種類が変わる。パズルは15パターンあり、次にどのパズルが来るのかはランダムだった。
 俺も全部の答えとパズルのパターンを覚えるのに2年かかった。同じパズルが来たかと思ったら、なかなか出ないパズルがあったりする。


 じいちゃんに教えてもらいながら扉を開けていたのが懐かしい程に、今ではすんなりと扉を開けられるようになった。
 俺、成長したよ。じいちゃん。


 リビングの扉の鍵をかけると、近くに置いてあった黒い布を扉に合わせるようにして貼る。
 布は壁と同化するように消えていった。マジックアイテムの宝隠しである。この布を上から乗せると、周りの色や物と同化することによって布の中にあるものを完璧に隠すことが出来るという優れものである。布の耐久性はおろか、火に対しても水に対してもかなりの防護である。


 それほどこの書庫を守りたいというじいちゃんの思いだろう。この布一枚で豪邸が買えるほどの値段。母もこの布に関してはかなりの反発をしたのだが、じいちゃんの頑固さに折れたと言っていた。


「おやすみ、海」
「おやすみ」


 二階へと上がってそれぞれ自室へと入る。
 部屋の明かりは付けずにベッドに座る。目を閉じて、周りの音に意識を集中させた。外の風が靡く音、風を受けて家が軋む音などが耳に入る。そんな中で、隣から聞こえてくる音が無くなったのをいい事に俺は作業を開始した。


 母が完全に寝静まってからでないと、物音で気づかれてしまう。寝入りのいい母はすぐに寝付くのだが、たまに起きていたりする時があるので気をつけなくてはいけない。
 この間それで気づかれて落雷があった。細心の注意を払っていても危ない時があるのだ。


「さて……今日は何を作るかな」


 この間は狩猟の本を読んだおかげで弓を作れた。本当は狩猟銃というものがあったから作ってみようかと思ったのだが、如何せん材料が足りない。
 中途半端なものを作ったところで、使えなければただのゴミと化すし、下手したら暴発ということもあり得る。これは今手を出すべきではないと判断した。


 もう少し手軽に作れるものとして弓を作成したのだ。弓を作るのにそう時間はかからなかった。
 とりあえず近く森の木を何本か自宅へと運び、削った。弓の弦は植物の繊維から作ることが出来るというので、木を持って帰っている途中で見つけた適当な植物で弦を作った。
 本には竹で作るのが良いと記載されていたのだが、近くの森には竹なんて無かった。いつか竹でも作ってみようと思う。


 矢も木製。鳥の羽根をどこから調達しようかと悩んだが、森の中をさ迷っていたら意外と見つかった。それでも、5本分の羽しか見つけることはできなかった。まぁ、試しだから。うん。本格的に作る時はきちんと羽を見つけますよ。うん。


 細い枝から矢を作り、風の抵抗を減らすために羽をつけた。これだけで良いのかと悩み、また別の本を引っ張り出して改良を加えた。
 ただの矢でもそれなりの威力は出るのだが、矢が抜けずらくなるための効果として、矢の先端に返しを作った。無理に抜こうとすれば、刺さった以上の怪我を負うような仕組みである。


 弓、矢、そして矢筒を作って人気のない森へと入り、弓の試し打ちをした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界配信〜幼馴染みに捨てられた俺を導く神々の声(視聴者)

葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。 だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。 突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。 これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。

処理中です...