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山あり谷あり、平坦あり?

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 ゆっくりと息を吐いて、真剣な面持ちで弓を構える。
 弓の構え方は本で見たものを思い出しながら、見様見真似の構え。じいちゃんがよく流していた映画にも、弓を扱っている場面があったのだが、弓の構え方を一から教えてくれるような教材映像のようなものなんかなかった。
 故に全て独学である。


 的として置いたのは薄っぺらい円形に削った木の的。距離は30メートル先に置いた。近すぎても簡単に当たってしまうだろうし、まだ矢の飛距離が分からない為、あまり遠くに置きすぎてもダメだろう。厚さは5センチにも満たず、大きさも直径30センチ程の板。
 的に二重の円を書いて、真ん中に矢が刺さるか当たれば大当たりということである。
 真ん中に当てるまでは何度か練習が必要だろう。


「さっ、物は試しだ」


 左手で弓本体を持ち、右手で弦を引いて的に当たるように弓の角度を調整をする。
 キリキリと弓のしなる音、吹き込む風のタイミング。ここだという時に矢を離す。
 耳元で聞こえる羽が風を裂く音。そして突然の痛み。


「え?は?めっちゃ痛いんだけど!?」


 矢は的に当たること無く、後方へと飛び抜けて行った。距離としてはまずまずだろう。あの的を飛び越えたということは、的の距離をもっと遠くにできるということだ。あとはコントロール出来るだけの練習を積めばいい。当初、考えていた問題は何とかなりそうだという結果になった。
 そしてまた新たな問題にぶち当たる。


 この痛みである。
 なんだこれは。聞いてないぞこれは! と内心焦りながらも、冷静さを取り戻すために一つ一つ確認しようと、頭を動かす。
 弦を離して矢が飛んだ後に耳に鋭い痛みが襲った。そして右手にもじんわりと熱を持つような痛み。弦を離した時の擦れでの痛みだろう。
 手はまだ我慢出来る痛みだが、耳の痛みは咄嗟に弓を落とすほどの痛みだった。


 あまりの痛みに耳が取れたのでは? と思い、耳に触れる。あ、まだついてる……うん?
 耳がついてることに一安心してからの違和感。指先にヌルッとした感触。最初は痛みを感じた時に出た冷や汗かと思ったが、なんだか違う。ぬめりを帯びた指先を見てみると、少量だが朱がついていた。


 口を半開きにして数秒固まる。落とした弓と、的と矢を回収してそそくさと家へと戻った。
 心の中でやばいやばいやばいと連呼しながら、過去一番の脚力で走った。


 家に帰って即、二階の自室へと転がり込むようにはいる。荷物を放り投げるように置いてから洗面台へと向かう。急いで耳の周りの髪をかきあげて怪我を確認する。
 多少血が出てはいたが、対した怪我ではないのに安堵。なんだ、大袈裟に騒いだだけだったかと一人、胸をなでおろしていた。


 耳の手当を済ませてから、自室に置きっぱなしになっていた弓を手に取り書庫へと下りる。
 改善しなくてはいけないことが増えた。弓の関連書籍を本棚から全て取り出して机に置く。また一から弓の作り方や射る方法などを調べた。


 どうやら弓には種類があるらしい。
 今回俺が作った弓は和弓。最初に見つけた資料に載っていた弓で、サイズがかなり大きく、持ち運ぶとき気をつけないと、持ち手の部分が折れてしまう。先程、急いでいたとはいえ少し雑な運び方をしてしまったが傷はついていなかった。


 そして次に見つかったのが短弓。
 これは和弓のものよりもうんと小さく、持ち運ぶのも楽である。しかも、和弓よりも扱いやすく、初心者でもある程度練習を積めば簡単に的に矢を当てることが出来るようになるらしい。そして、弦が耳に当たらなさそうである。
 ただし、威力が和弓よりも多少劣る。
 短弓での威力や飛距離を伸ばすのであれば、複合弓というものを作るといい。との事だった。


「このサイズの持ち運びは確かに大変なんだよなぁ。けど、複合弓か……材料があるのか? これ」


 複合弓には動物の骨や角、鉄などをしようする。
 動物の骨はなんとかなるとして、鉄はどこから入手するか。もしくは鉄ではなく、ミスリルやオリハルコン、ヒヒイロカネなどでも代用出来るのではないだろうか。これならまだ入手することは可能は可能である。ただ、どうやって入手するかが問題になってくるが。


 存在を消された鉄よりかはまだ希望が持てるはずだ。ミスリルやオリハルコンは魔道士が使うスタッフなどに組み込まていることが多い。ただの木製のスタッフでは強度に問題があるとして、金属の導入が最近行われた。
 ただ、スタッフを持つ人間も限られている為、金属も世の中に出回ることもない。金属の管理は国が行っている。スタッフ作成には国に申請をだしてからである。


「そりゃそうだよなぁ。スタッフなんて上級魔法が使える人間が、詠唱を簡略化させるために使うようになったんだから。普通の人達は低級魔法で詠唱はいらねぇんだからさ」


 魔道士でも持っている人間と持っていない人間がいるくらい稀有な存在。
 それと同じくらいに前述した金属も希少価値の高いものである。
 それをどうやって手に入れろというのか。


「仕方ない。今は木で作るしかないか」


 金属や動物の骨などはまた今度改めて考えるとしよう。それよりも今は和弓から短弓へと切り替えることが第一優先である。そして、手への負担軽減としてグローブも作らなくては。
 弓を作ってやっふーい! と喜んでいたのも束の間。改善すべき点がいくつも出てきたことによって、まだまだ勉強不足なのだと痛感させられた。



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