〇〇なし芳一

鈴田在可

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7 和尚さんへの気持ちと小坊主の行方 ⬆

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「ふっ…… ううっ……」

 後孔に入り込む節くれ立った指の感触に芳一は声を漏らさないように耐えていたが、それでも他ならぬ和尚さんの指だと思うと身体の中が熱くなってくるようで、声が漏れるのを完全には我慢できなかった。

 現在芳一は下履きを脱いでいて、ふんどしも取った状態で四つん這いになり、和尚にお尻を向けていた。

「痛いですか? すみません、すぐに終わります…… ほら、終わった」

 ぬちっ…… と音を立てて秘孔から指が引き抜かれるが、指が抜かれると同時に強い快感を感じてしまった芳一は、股関が暴走しそうになるのを何とか耐えていた。

 芳一は自分の身体の反応に、ただ薬を塗っているだけで邪な思いなんてないはずの和尚さんの指を汚してしまっているように感じて、いたたまれない気持ちになっていた。

 小坊主に犯されたお尻の内部には擦り傷が出来ていて血も滲んでいた。最初は自分でするつもりだったのだが、一人では上手く塗れないだろうと説得されて、毎回和尚に塗ってもらっていた。

 後孔に挿れられた指の感触のせいで芳一の陰茎はずっと勃起していた。

 どう頑張って抑えようとしてもいつも反応してしまうので、毎回塗布中は脱いだ着物で局所を隠していた。

 和尚もそのことには気付いていて、「生理現象ですから気にしなくて大丈夫ですよ」と言ってくれるのだが、毎回恥ずかしい。

 勃起が収まらないとふんどしを上手く履けない。気を利かせているのか、和尚は薬を塗った後はいつもしばらく部屋――――和尚の部屋で一緒に過ごすように言われているので現在いるのは和尚の私室なのだが――――から退席してくれるので、芳一は自分で自分を慰めるようになっていた。

 陰茎を扱きながら思い出すのは小坊主に貫かれた時のことではなくて、先程まで自分の中に入っていた大好きな人の指のことだった。

 芳一は、自分が和尚をそういう対象として見ていることに既に気付いていた。

(和尚さんのことが好き)

 自分はどうやら女の人ではなくて男の人が好きらしい。

 小坊主の本性を見抜けずに彼を芳一の世話係にしてしまった責任は自分にあると、現在和尚は住職としての仕事を周りの者に割り振りながら、芳一の世話を誰にも任せずにほとんど一人でやっていた。

 芳一としては、大好きな和尚と長い時間一緒にいられるのは嬉しかったが、和尚に迷惑をかけていることを忍びなく思っていた。










 あの時、小坊主に襲われたあの日、芳一たちの次に入浴するはずだった僧侶の一人が、入れ違いに出ていく芳一たちの様子がどこかおかしいことに気付いていたらしい。

 何だか胸騒ぎがした僧侶は、二人の様子を伺いに来たそうだ。

 襖の隙間から中を覗いてみると大変なことになっていて、僧侶は慌てて和尚を呼びに行って、和尚が飛んできたというわけだった。

 一時期は小坊主に対して凄まじい怒りを見せていた和尚だったが、芳一の傷も癒えた頃には幾分か冷静になり、次の行き先も面倒見ずに追い出してしまったのはやりすぎだったと周囲の僧侶に溢すようになった。

 小坊主は見目麗しく、近隣の別の流派の僧侶たちにもよく知られた存在だった。それに和尚はとても人徳が高く立派な住職であると評判だったので、そんな彼に破門にされて追い出されたなどと聞けば、一体何をやったのかと訝しがられて、門戸を叩いたとしても、おそらく受け入れてもらえない可能性の方が高い。 

 和尚は頭も冷えた頃に弟子たちに小坊主の行方を探させたり、人に頼んで探してもらったりしたが、小坊主がどこへ行ったのかは結局わからず終いだった。

 和尚や小坊主のことを全く知らない遠くの寺へ行くか、それとも僧侶とは全然関係のない職に就いて穏やかに暮らせていればいいが、まだまだ物騒な世の中である。

 かつての自分のように、破落戸たちに襲われたり人に騙されたりしていなければいいと、自分に酷いことをしてきた相手ではあったが、芳一は小坊主のことがずっと気がかりだった。
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