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学園6年目
【閑話休題】そのころの監き…逃走防止用の部屋
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王宮の一角。
第一王子の後宮の3階の一番端。
非常階段から最も離れたそこは、監き…ではなく、事情があって外に出せない側室がここから抜け出そうと思うことのないように様々な気遣いが施された部屋だ。
水回りが充実しているのは当然のことだが、ここだけ部屋が3つに分かれている…つまり、少し広い。
最も奥の部屋だからこその間取りは、側室と「従者」を一緒に監き…ではなく住まわせる事が可能だ。
湯を沸かせる魔道具に、パンを炙る魔道具もある。
1日3回届けられる食事に合わせ、検閲はあるが手紙も出せるし必要なものも頼める…
脱走に使われそうなもの以外は。
鉄格子の嵌った窓から外を眺めつつ、コーラスは言う。
「ねえミカ、そういえば今頃は始業式だね」
「…そう、ですね」
堂々としているコーラスに対して、ミカはどこか所在なげにしている。
「もー、敬語やめてってば」
「でも…僕が至らなかったせいで、コーラス様が」
「別にミカのせいじゃないでしょ。
うちの父さんたちがやりすぎたから…。
びっくりしちゃったよ、あんなにやらかしてたなんて」
「えっ、全部知ってたんじゃないんですか?」
「リード・ユーフォルビアの殺人教唆と、アルファードの立太子を阻止してたのは知らなかったよ」
「ほとんど知ってたんじゃないですか!」
「そりゃ、一人息子より大事なものって何なのか、知りたくなるのは当然でしょ」
「……それは」
コーラスはベッドの上に身を投げ出すと、ミカに話を続ける。
「僕はね、ユーフォルビアの事も散々調べたよ。
ユーフォルビア家は本来、不妊・不育治療の専門家なんだ。
7代目の王様が好き勝手したせいで、今は「苗床」なんて呼ばれているけどね」
「…はい」
「この国がまだローザンヌ帝国の一部だった頃、子どもが出来なくて悩んでた皇帝・正室の両陛下に子どもを3人も設けさせた凄腕の閨指導係…それが最初のユーフォルビア。
閨事で爵位を貰ったっていうのは、本当はそういう事なのさ」
ミカは罪悪感に満ちた顔で俯く。
「…知りませんでした」
「まあ、ミカは子どもの頃からユーフォルビアの悪評を聞かされて育ってるからね。
イフェイオン家の実情を知るまでは、公爵派はミカをアルファードの正室に考えてたっていうし。
あいつが3歳くらいから急にルースルース言いだして焦ったんだろうけど…
子どもに聞かせる話じゃ無かったよね」
「そう、ですよね…」
コーラスは投げ出した身体を上半身だけ起こして、また窓の外を見る。
そういえば生徒会の引継ぎも投げ出してしまったな…と、今更ながら考えて、それからまた、ミカを見て話を続ける。
「それがミカにとっての「幼少時教育」だ、ってルースが言ったとき、ああ確かになって思ったよ。
僕の場合は生まれた時から謀略の中心にいたからね、それが「幼少時教育」なんだろうね」
「その「幼少時教育」って何なんですか?」
ミカが尋ね、コーラスは答える。
「ああ…それはね。
ユーフォルビアは不妊・不育治療の研究過程で、自分たち自身を実験台にした結果、沢山の子どもが生まれる事になったから…
その子たちが路頭に迷わないように、平民になっても貴族になっても良いように鍛えるんだ。
その中でも変わっているのはね。
「親は子どもを愛するものだ」と刷り込む事さ。
平民になったら親は自分で子育てをしなきゃならないから、どうしても必要だったんだろうね。
一緒に食卓を囲み、風呂に入り、夜には本を読んでやりながら寝かしつける。
泣いていれば抱きしめてやり、根気よく話を聞いてやり、何か一つ出来たら褒めてやる。
そうやって親の愛を教えると同時に、学ぶことの基礎を教えるんだ」
「平民になったときの為に…?」
「そう、平民の社会は実力主義だからね。
常に学び続けていなきゃいけないんだってさ」
それがユーフォルビアの子孫の優秀さにも繋がっている、とコーラスは言い、それから話を続ける。
「ただ貴族の中には「我が家から平民になる者など出るわけがない」からって、そのやり方を否定する家も…特に領地持ちの家には多いんだよね。
5公爵家はもちろん…君の家も、多分」
子どもの頃にそうされたかった事が必然としてユーフォルビアの「幼少時教育」にあったと知り、ミカは呟く。
「…その「幼少時教育」を受けていれば、僕たちはもっと幸せだったんでしょうか」
「少なくとも…子どもの頃なら、そうだろうね。
ただ…ユーフォルビアの次期当主候補に施される「幼少時教育」には、もう一つ大事な点がある」
「もう1つ、とは?」
「…恋愛における感情の起伏を無くす事さ。
ルースを見たら分かるだろ?
完全に嫉妬という感情をコントロールしてる。
恋愛に限らず、学問でも、魔法でも、武術でも、自分より優れている人間に対して全く嫉妬しない。
逆に願いが成就しても浮かれたりしない。
淡々と努力し続ける……
異常だと思うけどね」
コーラスは皮肉っぽい笑顔を浮かべて言う。
ミカには、コーラスの言わんとしている事が分かった。
「でも、それが、必要なんですね」
「そりゃそうさ。
でなきゃ「苗床」なんて他人の家に都合が良いだけのものになるなんて出来やしない。
今代のユーフォルビアなんてね、養育費すらまともに支払われていないんだよ。
プリムラ公もフリージア公もバイオレット公もテナチュール侯も、もちろんエルム家も…
ユーフォルビアを金銭的に追い込もうという目的もあったけど、伴侶の怒りを避ける為…向こうから誘ってきたという言い訳を成立させる為でもあった。
テナチュール侯の伴侶殿なんか、だったら図々しく養育費の督促状を送ってくるユーフォルビアを訴えると言ってね、大騒ぎだったらしいよ」
「…そんなことが」
テナチュール侯爵の伴侶と言えば、真っ直ぐで苛烈な性格で有名だ。
さもありなん…と、ミカは少しだけフィーデの事を思い出す。
そういえばあいつも真っ直ぐな性格だったな…と。
「だから貧しい。
制服も教科書も文具も、お下がりで傷んでる。
だけど、新品を持っている子を羨んだりしない。
何を見せびらかされても欲しいと思わない。
それは美徳だろうけど…恋人としてはどうかな」
「どう…って?」
「可愛い我儘も言わない、やきもちも焼かない。
そんな恋人がいたとして、恋愛は楽しいかな?
王侯貴族の伴侶としては最高だろうけど…
僕には、無理だな」
「えっ……無理なんですか?」
意外な言葉に、ミカはコーラスを見る。
コーラスもミカの目を見て、言う。
「そう、僕には…ちょっとお馬鹿で、だけど僕の為に一生懸命になってくれる…
ミカみたいな子が、ぴったりだよ」
「…コーラス様…!!」
瞳をキラキラさせてコーラスに抱き着くミカ。
そのミカを受け止めて、コーラスは言う。
「だから、敬語は辞めてってば」
「はい!分かりました!」
「……」
だから敬語…と思いながら、
コーラスはミカの唇に、キスをした。
第一王子の後宮の3階の一番端。
非常階段から最も離れたそこは、監き…ではなく、事情があって外に出せない側室がここから抜け出そうと思うことのないように様々な気遣いが施された部屋だ。
水回りが充実しているのは当然のことだが、ここだけ部屋が3つに分かれている…つまり、少し広い。
最も奥の部屋だからこその間取りは、側室と「従者」を一緒に監き…ではなく住まわせる事が可能だ。
湯を沸かせる魔道具に、パンを炙る魔道具もある。
1日3回届けられる食事に合わせ、検閲はあるが手紙も出せるし必要なものも頼める…
脱走に使われそうなもの以外は。
鉄格子の嵌った窓から外を眺めつつ、コーラスは言う。
「ねえミカ、そういえば今頃は始業式だね」
「…そう、ですね」
堂々としているコーラスに対して、ミカはどこか所在なげにしている。
「もー、敬語やめてってば」
「でも…僕が至らなかったせいで、コーラス様が」
「別にミカのせいじゃないでしょ。
うちの父さんたちがやりすぎたから…。
びっくりしちゃったよ、あんなにやらかしてたなんて」
「えっ、全部知ってたんじゃないんですか?」
「リード・ユーフォルビアの殺人教唆と、アルファードの立太子を阻止してたのは知らなかったよ」
「ほとんど知ってたんじゃないですか!」
「そりゃ、一人息子より大事なものって何なのか、知りたくなるのは当然でしょ」
「……それは」
コーラスはベッドの上に身を投げ出すと、ミカに話を続ける。
「僕はね、ユーフォルビアの事も散々調べたよ。
ユーフォルビア家は本来、不妊・不育治療の専門家なんだ。
7代目の王様が好き勝手したせいで、今は「苗床」なんて呼ばれているけどね」
「…はい」
「この国がまだローザンヌ帝国の一部だった頃、子どもが出来なくて悩んでた皇帝・正室の両陛下に子どもを3人も設けさせた凄腕の閨指導係…それが最初のユーフォルビア。
閨事で爵位を貰ったっていうのは、本当はそういう事なのさ」
ミカは罪悪感に満ちた顔で俯く。
「…知りませんでした」
「まあ、ミカは子どもの頃からユーフォルビアの悪評を聞かされて育ってるからね。
イフェイオン家の実情を知るまでは、公爵派はミカをアルファードの正室に考えてたっていうし。
あいつが3歳くらいから急にルースルース言いだして焦ったんだろうけど…
子どもに聞かせる話じゃ無かったよね」
「そう、ですよね…」
コーラスは投げ出した身体を上半身だけ起こして、また窓の外を見る。
そういえば生徒会の引継ぎも投げ出してしまったな…と、今更ながら考えて、それからまた、ミカを見て話を続ける。
「それがミカにとっての「幼少時教育」だ、ってルースが言ったとき、ああ確かになって思ったよ。
僕の場合は生まれた時から謀略の中心にいたからね、それが「幼少時教育」なんだろうね」
「その「幼少時教育」って何なんですか?」
ミカが尋ね、コーラスは答える。
「ああ…それはね。
ユーフォルビアは不妊・不育治療の研究過程で、自分たち自身を実験台にした結果、沢山の子どもが生まれる事になったから…
その子たちが路頭に迷わないように、平民になっても貴族になっても良いように鍛えるんだ。
その中でも変わっているのはね。
「親は子どもを愛するものだ」と刷り込む事さ。
平民になったら親は自分で子育てをしなきゃならないから、どうしても必要だったんだろうね。
一緒に食卓を囲み、風呂に入り、夜には本を読んでやりながら寝かしつける。
泣いていれば抱きしめてやり、根気よく話を聞いてやり、何か一つ出来たら褒めてやる。
そうやって親の愛を教えると同時に、学ぶことの基礎を教えるんだ」
「平民になったときの為に…?」
「そう、平民の社会は実力主義だからね。
常に学び続けていなきゃいけないんだってさ」
それがユーフォルビアの子孫の優秀さにも繋がっている、とコーラスは言い、それから話を続ける。
「ただ貴族の中には「我が家から平民になる者など出るわけがない」からって、そのやり方を否定する家も…特に領地持ちの家には多いんだよね。
5公爵家はもちろん…君の家も、多分」
子どもの頃にそうされたかった事が必然としてユーフォルビアの「幼少時教育」にあったと知り、ミカは呟く。
「…その「幼少時教育」を受けていれば、僕たちはもっと幸せだったんでしょうか」
「少なくとも…子どもの頃なら、そうだろうね。
ただ…ユーフォルビアの次期当主候補に施される「幼少時教育」には、もう一つ大事な点がある」
「もう1つ、とは?」
「…恋愛における感情の起伏を無くす事さ。
ルースを見たら分かるだろ?
完全に嫉妬という感情をコントロールしてる。
恋愛に限らず、学問でも、魔法でも、武術でも、自分より優れている人間に対して全く嫉妬しない。
逆に願いが成就しても浮かれたりしない。
淡々と努力し続ける……
異常だと思うけどね」
コーラスは皮肉っぽい笑顔を浮かべて言う。
ミカには、コーラスの言わんとしている事が分かった。
「でも、それが、必要なんですね」
「そりゃそうさ。
でなきゃ「苗床」なんて他人の家に都合が良いだけのものになるなんて出来やしない。
今代のユーフォルビアなんてね、養育費すらまともに支払われていないんだよ。
プリムラ公もフリージア公もバイオレット公もテナチュール侯も、もちろんエルム家も…
ユーフォルビアを金銭的に追い込もうという目的もあったけど、伴侶の怒りを避ける為…向こうから誘ってきたという言い訳を成立させる為でもあった。
テナチュール侯の伴侶殿なんか、だったら図々しく養育費の督促状を送ってくるユーフォルビアを訴えると言ってね、大騒ぎだったらしいよ」
「…そんなことが」
テナチュール侯爵の伴侶と言えば、真っ直ぐで苛烈な性格で有名だ。
さもありなん…と、ミカは少しだけフィーデの事を思い出す。
そういえばあいつも真っ直ぐな性格だったな…と。
「だから貧しい。
制服も教科書も文具も、お下がりで傷んでる。
だけど、新品を持っている子を羨んだりしない。
何を見せびらかされても欲しいと思わない。
それは美徳だろうけど…恋人としてはどうかな」
「どう…って?」
「可愛い我儘も言わない、やきもちも焼かない。
そんな恋人がいたとして、恋愛は楽しいかな?
王侯貴族の伴侶としては最高だろうけど…
僕には、無理だな」
「えっ……無理なんですか?」
意外な言葉に、ミカはコーラスを見る。
コーラスもミカの目を見て、言う。
「そう、僕には…ちょっとお馬鹿で、だけど僕の為に一生懸命になってくれる…
ミカみたいな子が、ぴったりだよ」
「…コーラス様…!!」
瞳をキラキラさせてコーラスに抱き着くミカ。
そのミカを受け止めて、コーラスは言う。
「だから、敬語は辞めてってば」
「はい!分かりました!」
「……」
だから敬語…と思いながら、
コーラスはミカの唇に、キスをした。
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