当て馬にも、ワンチャンあってしかるべき!

紫蘇

文字の大きさ
466 / 586
学園6年目

マリッジ・ブルー的なやつ

しおりを挟む
学園に戻る2日前。
俺はポンコツフォーから試験問題を受け取る為に実家へ戻った。

「リチャードさん、ベルガモット教授と4つ子ちゃんの様子はどうかな」
「ええ、魔法侯爵様たちが頑張ってオムツを変えたり寝かしつけたりしておられますよ」

おお、ちゃんと父親してるじゃん!
さすが俺の手伝いを断っただけのことはある。
俺はもう一つの気がかりを執事リチャードに聞く。

「最近は代替乳ミルク、あまり買わなくなったって聞いたけど」
「ええ、乳の出が良くなったそうで…できるだけ自分の乳で育てると仰いまして」
「そっか…」

どうやら、その昔身体強化魔法を探してた時に見つけた古代魔法が役に立ったらしい。
豊胸の魔法なんか何に使うんだと思ったけど…思い出せて良かった。

この世界、人の乳と代替乳には大きな差がある。
魔力含有量だ。
魔力が成長にどう左右するかと言えば、まあ魔法を使えるようになるのが早くなるって事くらいだけど…
魔法侯爵家の血を引く子ならやっぱり早い方が良いだろう、って、ベルガモット教授が頑張ってるんだ。

「…魔力を抽出できる方法があればなあ」
「魔石を砕いて飲むわけにはいかないんですか?」
「成人にも使った事のない物を、乳幼児に与えるわけにはいかないよ。
 安全のうえに安全を重ねていかないと、赤ちゃんってすぐ死んじゃうから…
 あっ」
「どうしました坊ちゃま」
「乳は血液から作られるんだ。
 その仕組みが解明できたら…魔力抽出に繋がるかも…?」
「それ、どうやって解明するんですか」
「それはまだ分からないけど、アイデアだけでもあると違うからさ…」

詠唱によれば水と雷の精霊…電気分解?
いや体内でそれは無理…、だけど、神経伝達は電気…だからワンチャン…

……ワンチャン、か。

「はあ」
「どうしました坊ちゃま」
「俺、本当に王子様と結婚していいのかな」
「何を急に…」
「俺、やっぱ政治とか無理…研究のほうが好き」
「坊ちゃま」
「俺、貧乏貴族だから許されてきた事いっぱいあると思って。
 1人で何でもできる方が偉いと思ってたし。
 仕事や身分で人を見るなって言われたから、年上には誰でも「さん」付けでやってきたし。
 でも、結婚したら仕事に集中するのに掃除や片付けを人にやってもらわなきゃいけないし。
 今度からリチャードさんの事もリチャードって呼べって…」
「坊ちゃま…」

ただただ、不安だった。
自分で本当に務まるのか。
ユーフォルビアという、の子が。
貴族らしい優雅さも品も無い人間が。
ローズという大国の、たった一人の王子様の正室になるプレッシャーが苦しい。

「何をするにしても経済効果だとか政治的思惑だとか…ついてくるし。
 確かに、経済学も政治学もさんざんやってきたし、学者さんの知り合いもいる、だけど…、俺、俺みたいな凡人、パッとしない見た目の、こんなんが…流行作るとかって、笑い話にもならないし」
「そんなこと…ありませんよ」
「ううん、自分の見た目は自分が一番分かってる。
 兄弟の中で一番地味だし」
「そうですかね?」

兄たちはどうだったんだろう。
みんなその国で最高峰の一人っ子に嫁いだ。
プレッシャーは?

「リチャードさんは、兄さんたちが結婚するとき…どうだったか、分かる?」
「…そうですね、この国を出てゆかれる時の事なら…多少は。
 皆様、不安を抱えられて…出立の日が来るまで、泣いていらっしゃいました。
 でも…どなたも、恋人と別れて仕方なくという事はありませんでしたから…
 そこは、救いだったかもしれません」
「そっか」
「ローズから出れば恋が出来ると…相手は決まっていても、恋が出来るということを希望に、皆様ここをお発ちになりました。
 皆様、子どもを産む事だけを期待されて輿入れなさいました…
 産む以外の事を期待されて輿入れされるのは、ルース坊ちゃまが初めてです」
「…そっか」
「ユーフォルビア家は産む以外の事を期待されない家だと…ゼフ様は、悲し気に言っておられました。
 産む・育てる以外の仕事は取り上げられて、残されたのは年に1回、ハーブティーを紹介する茶会だけだと…」
「あっ…」

そうか、それだ。

出産と子育て以外の仕事を取り上げられたら、自分のしてきた事が無になる気がしたんだ。
不安の元はきっとそれだ。
今まで色んな人と繋がって、色んな事をしてきた。
それが無くなったら…殿下の隣にいるのは俺じゃなくてもいいんじゃないかって、考えてしまうんだ。
だって、王家がユーフォルビアの血縁だけを必要とするなら、ダグさんだってそうだから。

だけど、俺には何を取り上げられても使命が1つ残っている。
王の隣を譲れない理由がある。

それは、この家の当主としての使命。

「…もう二度と、そんな家にはさせない」
「坊ちゃま?」
「その為に、ユーフォルビアに王家の血を入れる。
 父さんを子どもを産む奴隷にした奴らには報いを受けさせる。
 俺はその為にもこの地位に着くんだ。
 ……知らんけど」

「知らないんですか?」
「うん、でもそんな気がする…だけ」
「そうですか」
「うん、腹をくくれた気がする。
 俺は次期国王の正室にならなきゃいけないんだ。
 何としてでもね」
「それは何よりです」

そう言って執事リチャードはニッコリ笑った。

その笑顔を見て、うちの執事の良い所は「左様で御座いますか」って言わないところだな…と、



ふと思った。



============

身体強化魔法を探してた時に見つけた古代魔法のお話しは
学園3年目の7話「武術棟と古代魔法」ご参照ください!

しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

発情薬

寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。  製薬会社で開発された、通称『発情薬』。  業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。  社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...