当て馬にも、ワンチャンあってしかるべき!

紫蘇

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新婚旅行

2人の義祖父

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エランティス領に入ってから6日、ついに辺境伯の本邸へ到着した。
出迎えてくれたのは正室陛下の兄君で現当主のラウル様だ。

「ようこそエランティス領へ、王太子殿下、王太子正室殿下」
「こちらこそご挨拶が遅くなりまして申し訳ありません、エランティス辺境伯様」
「父上たちもお二人が来られるのを楽しみにしておりました。
 お茶の用意が出来ておりますから、まずはそちらへ」

ここには殿下のお父様である国王正室陛下のお兄様とそのお父上たちがお住まいになられている。

「お二人がお越しになるということで、子どもたちも伴侶と共に屋敷へ戻っております。
 お部屋へご案内しましょう、側付きの方も是非ご一緒に」
「えっ」
「ささ、こちらですよ」

俺のスケジュール他諸々を管理しているアレクさんも同席を求められてしまい緊張が倍増する。

「失礼の無いようにしないと…」
「うっす、ワタクシお黙っとくっす」
「……それが良いだろうな」

ついに来たお義祖父じい様との対面。
一歩一歩現場へ近づく。
ラウル様が何個目かの扉の前で足を止める。

「さて、こちらのお部屋でございます…どうぞ」
「うむ、では失礼する」
「失礼致します…」

殿下に続いておっかなびっくり部屋に入る。
すると…

「おお、良く来たなアルファード。
 …これ、じいじイタイイタイよ、めっ」
「初めましてルース殿下。
 コラコラ~じいじハゲちゃいまちゅよぉ?」

そこには確かに厳格そうなご老人2人と、その2人の髪の毛を容赦なく引っ張って食べる幼児がいた…。

***

俺と殿下が席について執事さんがお茶とお菓子を運んで来た。

「貴殿があのルース殿か…噂はかねがね」
「ええ、この辺境まで届いておりますぞ」
「それは…光栄に御座います」

義祖父じい様2人の言葉に「見定められてる感」がにじみ出る。
俺は居住まいを正して2人に対峙する。
対峙するんだけど…

「これ、じいじのおヒゲおいちくないよ、メッよ」
「いけまちぇんよ、これはアチチでしゅからね~」

緊張感が、保てないというか…。
そんな2人を見て、殿下は言った。

「…すっかり曾祖父ジジ馬鹿ですな、お祖父様」

するとお義祖父じい様たちは笑いながら返した。

「うむ、孫までは厳しくと思ったが、曾孫になればもう何の責任も無く甘やかしても良かろうと思ってな」
「カルロス前国王様もアルファード殿を甘やかした事は無かろう?」

あ~、そういえばクリビアさんちのお子さんを見て、おじいちゃんが「曾孫はこんな感じなのかな」みたいな事言ってたなあ。
あれは幼子を甘やかしたい熱の表れだったのか…
もし俺に子どもが出来たら、存分に甘やかさせてあげよう。

そんな事をつらつらと考えながら幼児と戯れるご老人を見ていると、ご当主様が突然俺に切り出した。

「そんな事より、ルース殿下。
 ひとつ「思い付き」をお願いしたいのですが…」
「はっ?」

あっ、やばい。
うっかり地が出た。

しかし、自分の所業に動揺する俺に構うことなく、当主様は続けた。

「最近『災禍の大穴』への観光客が増えて困っているんです」
「えっ……困る?」
「ええ、あの「地底の皇」という小説が出てから徐々に増えて参りまして。
 小説のモデルになっている場所だということで、ファンがやって来るのは良いのですが…宿泊場所が足りず、野宿する者も出る始末で。
 以前は自殺や殺人などに気を配るだけで良かったのが、そちらの見回りも必要になり…」
「ちょ、ちょっと待って下さい!?」

今めっちゃ不穏当な言葉無かった?

「いえ、それが待てないのです。
 『災禍の大穴』は常にゴブリンの脅威がある場所、襲われる者が出てからでは遅いのです」
「えええええ」

こりゃ優雅に茶ぁしばいてる場合じゃねえ!
俺は外面をかなぐり捨てて言う。

「…ラウル様、お義祖父じい様。
 今から『災禍の大穴』へ視察に行きます。
 アレクさん、カレンデュラ先生に出撃の準備をお願いしてきて」
「うっす、行ってくるっす!!」
「殿下、お疲れ等ありませんか?」
「問題ない、いつでも行ける」
「ではすぐにでも準備を…。
 ラウル様、ここから『災禍の大穴』までは馬車でどの程度ですか?」
「え、ええ…2日もあれば、着くかと」
「では、細かい事は馬車の中で考えましょう。
 この件に詳しい方に同行願えますか?」

すると、想定外の事態が起きた。
義祖父じいたちが立ち上がったのだ。

「それでは私たちが行こう」
「ふむ、我々なら死んでも大した影響は出んしな」
「カルロス殿下には負けられん」
「ラウル、他にご助言頂きたい事があれば今のうちに書き出しておきなさい」
「はい、父上」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って」


俺は「年寄りの冷や水」という言葉を何とか飲み込んで、お義祖父様たちと共に来賓室を出た。
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