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助手と先生

助手の昔話 2

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いつまでそうしていただろうか。
俺はその男の顔をじっと見つめていた。

…みんなを守ろうとする優しさ。
…剣を抜いた俺に丸腰で飛びかかる度胸。
…階段を転げ落ちるドジさ加減。
…泣きそうな顔の艶っぽさ…
…細い、体。

目を離すことが出来なくて、エースが「いい加減そやつの上からどけ」と言うまで、見つめていた。

エースは言った。
「先生とやら…名は何と申される?」

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「人食い」の真実は、何とも不思議だった。


ずっと昔から、1つの屋敷がそこにあった。
当時は小さな屋敷だったらしいが、食い詰めた村人が口減らしに子どもを屋敷の前に捨て始めたのを境に、少しずつ大きくなった。

あの屋敷は子どもを食って大きくなるんだ…
村人は噂したが、口減らしは止められなかった。
ある日、無鉄砲な若者たちが、その屋敷に乗り込んだ。若者は帰らず、屋敷はまた少し大きくなった。

若者が帰ってこなくなった年の冬。
若者の出身の村に、贈り物が届いた。
豆、麦、干し肉、チーズ、堅いパン。
石のような形の芋…。

話は瞬く間に、山間部の村々へと伝わった。
若者を送り出せば食べ物がもらえる、と思った人々は、食べ物に困ると若者を屋敷に差し向けた。
時には女を幾人かまとめて送ることもあった。
女を追いかけて行くものもあったが、そのぶん屋敷が大きくなるばかりで…
帰って来るものはいなかった。


…この「人食い屋敷」の噂は、食べるために人を犠牲にし、不本意ながら屋敷を大きくし続けなければならない…という村々の困窮ぶりを表すものとして中央に伝わり、やがてどこかで「人食い屋敷」から「人食いがいる屋敷」に変わったのだろう…と言うことだ。


しかし、噂には続きがあった。
村人たちが敢えて隠していた真実だ。

どこの村でも、食べ物を送り届ける者は決まって大柄の男だった。

ある年、男は、食べ物を届けるついでに村の開いている畑を借りて何かを植えていった。
男の機嫌を損ねてはいけない、と村人たちはそれを遠巻きに見るだけで何もしなかった。

大柄の男が去ったあと、時々村に、見たことのないひょろりとした男が現れるようになった。
その男は、大柄の男が何かを植えた畑を見にきているようだった。

ひょろりとした男は、大柄の男が何かを植えた畑を指して、村人たちに言った。

「この畑がうまくいけば、来年から人を送らなくても済むようになると思いますよ」

村人たちは戦慄した。
食い物と人間を交換しているのは、どこの村でも1番の秘密だったからだ。
自分たちの秘密を知っていて、自分たちが知らない人間は…誰だ、と話が持ち上がり、ある結論が出た。

あの男が、あの人食い屋敷の主なのだ、と。

男は来年から、と言った。
つまり今年は、誰かを送らなければならない…
「今までで1番いいのを送らねばならん」
「今までで1番気にいるのを…」
村人は、話し合ったが結論は出ない。

「いっそ、みんなで行ったらいい」
今まで犠牲にしてきた者たちの事を、考えないふりをするのはもうやめよう…

とある村が出した結論は、他の村にも伝播した。
その年、周囲の村に住む者たちは皆、覚悟を決めて屋敷へと向かい……そこで見たものは、俺たちが見た光景に子どもたちが笑いながら走り回る姿を加えたもの、だったそうだ。

人を捧げるたび大きくなる「人食い屋敷」の真実は、人が増えたぶん家を増築し続けたから…という、何とも心温まるお話だった。

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