旦那様には気付かれたくない!

紫蘇

文字の大きさ
9 / 17
嫁は隠れて活躍する

今日もどこかのお手伝い

 
 鎧を洗う仕事が済んで、修理のお手伝いもした。

「ほんと器用な、トマス」
「ありがとうございます!
 大体のところまでしか出来ませんが」
「充分だよ!ありがとうな」
「えへへ、どういたしまして」

 たくさんお礼を言ってもらえて嬉しい。
 こういうのを「やりがい」っていうのかな……
 あったかいもので心が満たされるっていうか。

「トマス!お前いつの間に整備係に転職したの」
「えへへ……実は今、事務の人手が足りてるので、する事が少なくて……。
 他のお仕事のことも知りたくなったんです」
「おっ、向上心あるなぁ」
「どっちかというと好奇心です!」

 整備係さんたちと働いているうちに、兵団の人たちとも色々話をして仲良くなった。

「なあ、トマスの生まれた国でも旦那様って有名だったんだろ?」
「ええ、その……一騎当千のお方だと」
「本当の事言って良いんだぞ?」
「……恐怖の大将軍、と」
「わはは!」
「そうだろそうだろ!」

 身の程知らずにも我が国は、ほんの数年前までこの国にちょっかいをかけていた。
 外敵を作る事で内政への批判を逸らそうとしているんだ、しかもウィアグランドにだなんて!
 ……と父が憤慨していたのを思い出す。

「正直、負けたためしが無いもんな」
「そうそう、士気が低いっつーか……」
「弱いんだよなぁ」
「ははは……でしょうね」

 それで父は王と対立して、10年前、事故に見せかけて殺された。
 その上、あの王は、あの馬鹿を送り込んで我が公爵家をボロボロにしたんだ。

「我が国の兵士たちも、失政への批判逸らしのために死ぬなんて嫌だと言いながら、出ていきました」
「……そうか」
「だから、いっつもすぐ降伏したんだな」
「ええ、あの王のために死ぬほど、馬鹿らしいことはないですから」
「ひでぇ王様だな」


 まあ、その王も3年前に死んだけどね。

 正室様の子・側妃様の子に加えて、婚外子までが継承権争いで揉めて、泥沼の中で愛人に刺されて死んだとか何とか……

 葬儀にお越しになったのは、側妃様のお子であり現王のフォーゲル様だけだったな。

「捕虜を手厚く保護して頂いたと聞いております。
 ですから、僕は旦那様を『恐怖の』ではなく『慈悲深い』将軍様だと思っています」
「そっか……」
「……ありがとな、トマス」


 ちなみにその葬儀の場で、うちの従妹様は胸を強調するような喪服を仕立ててフォーゲル様に媚を売って、大ひんしゅくを買った。
 あとあと『僕の言いつけに逆らえなくて』って泣いて同情を買うことで、事なきを得たらしいけど……

 多分、得られてないよ?
 そんなので騙されるほど、フォーゲル様もその周りも馬鹿じゃないもん。
 税務関係の書類にいちいち難癖をつけては、うちに乗り込んでこようとしてたんだから……

 ま、そのことで何度も叔父に鞭で打たれたから、正直フォーゲル様には恨みしかないけどね!

「皆さんに我が国を恨むお気持ちが無いなら、それが一番です」
「……そっか」

 ちょっと、湿っぽくなっちゃったな。
 けど、この人たちがフィッツラルドを恨んでないことが分かって良かった。

「だって、皆さんと仲良くなりたいのに、そういうわだかまりがあったら難しいですもんね」
「はは!そうだな、トマスがここに逃げて来られなくなっちまうとこだった」
「トマスがいなきゃ、寸志出てないしな!」

 そう言って、みんなが笑ってくれて、湿っぽいのはどこかへ行った。

 まあ、心配はしてなかったんだけどね。
 父さんが指揮官のみんなに「適当にやって、殺す殺されるの前に投降しろ」って言ってたからさ!


 ***


「さてと、今日はどこに手伝いに行こうかな……」
「お、もう仕事終わったのか?早いな!」
「だってディータさんの半分も無いですもん!」

 今日も事務の仕事は暇だ。
 来月あたりから旦那様の代わりに視察へ出なきゃならないから、来週あたりからは忙しくなると思うけど。

「どこか人手が足りなさそうなとこ無いですか?」
「そうだな~……まあ、厨房はいつでも忙しそうだけどな」
「じゃあ、厨房行ってみます!」

 厨房で今自分ができることは洗い物ぐらいだ。
 けど、何とか料理長さんと仲良くなってジャガイモ料理を教わりたい。

「厨房、厨房~」

 事務室を出て、1階の食堂まで歩く。
 途中で執事のベリタスさんに会う。

「おや、トマス。
 今日はどこで働くつもりだい?」
「はい、厨房に行ってみようかと」
「そうか、気を付けてな」
「はい、ありがとうございます!」

 ふんふふ~ん、ふんふふ~……ん?

「気を付けて、とは……?」

感想 2

あなたにおすすめの小説

「子守係風情が婚約者面をするな」と追い出された令嬢——公爵家の子供たちが全員、家出した

歩人
ファンタジー
「所詮、子守係にすぎない女だった」 公爵嫡男エドワードはそう吐き捨て、華やかな伯爵令嬢との婚約を発表した。 追い出されたフィオナは泣かなかった。前世で保育士だった記憶を持つ彼女は知っていた——子供は見ている。全部、覚えている。 フィオナが去って一週間。公爵家の三人の子供たちが、揃って家を出た。 長男は「フィオナ先生のところに行く」と書き置きを残し、次女は新しい婚約者に「あなたは僕たちの名前すら知らない」と告げた。 「お返しする気はございません——この子たちは、私を選んだのですから」

追放された私、実は最強の魔導師でした。今さら泣きつく家族も元婚約者も、踏みつけて差し上げます。私の愛は、拾ってくれた彼にしか捧げないので。

唯崎りいち
恋愛
「不気味な女」と家族や婚約者に虐げられ、離れに幽閉された伯爵令嬢の私。 生まれつき周囲の光を奪ってしまう体質のせいで婚約破棄され、夜の街へ放逐された。 そんな私を拾い、「君こそが伝説の魔導師だ」と歓喜して抱き寄せたのは、第一王子だった。 彼に愛され、私の中で眠っていた前世の記憶が覚醒する――。 迎えた夜会。光を吸い込み輝くドレスを纏った私の前に、自分を捨てたゴミ(家族)が再び現れて……。 「――『極夜の王(アビス・レイズ)』」 世界を闇に沈める最強の魔導師として、私を笑った者たちに絶望を。 執着心たっぷりの王子と共に、最強の二人が世界を塗り替える!

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

愛を感じないのに絶対に別れたくないイケメン俳優VS釣り合わないので絶対に別れたい平凡な俺

スノウマン(ユッキー)
BL
 平凡顔・ヒモ・家事能力無しの黒は、恋人であるイケメン俳優の九条迅と別れたがっている。それは周りから釣り合ってないと言われたり、お前の事を愛してない人間なんて止めておけと忠告されたからだ。だが何度黒が別れようとしても、迅は首を縦に振らない。  迅の弟である疾風は、兄は黒の事を特別扱いしてると言うが――。黒は果たして迅と別れることが出来るのか!?

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?