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需要と供給
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料理を作り、客に振る舞う。客の、美味しいと言う顔を見る。
それは前世だけではなく、今生でも好きなのだと認識したばかりだが――この店は、サマンサの夫の店で。その死後、料理人を雇わなかったのは夫以外に踏み込まれたくないのでは、と思ったからだ。
(『安形』が、店を閉めたのもそれでだったのよね……だから、サマンサさんもそうかなって)
そこまで考えて、アガタはハッと顔を上げて口を開いた。
「あのっ……確かに仕事は探してますし、ご飯も作りましたが……サマンサさんに、無理をさせるつもりはっ」
「え? ああ! 違う違う」
「……えっ」
慌てて言うと、サマンサはきょとんとして――次いで、アガタを宥めるように笑って手を振った。そして、戸惑って目を瞠るアガタにサマンサが言葉を続ける。
「確かにね? イーサンが亡くなって、周りは店を再開してほしいって言うけど……悪気はないんだろうけど、言うだけでこっちに丸投げで。思う存分悲しみたかったのもだけど、雑音を聞きたくなくて引きこもってたのよねぇ」
「はぁ……」
コロコロと笑っているのは可愛いが、なかなかの辛口発言だ。ただ、まあ、気持ちは解るし自分がされたら同じように腹が立つと思うので言及はしない。
「でも、あなたなら! イーサンみたいに、あったかくて美味しいご飯を作ってくれるし……あなたが料理人なら、ランさんも気兼ねなく来られるだろうし。どう? 名案だと思わない?」
「え、あの……」
「確かに名案」
「ランさん!?」
「……僕も! お金はいらないから、僕もこの店で雇ってくれませんか!?」
「メル!?」
確かに、良いことづくめなのだが――だからこそ、すぐに頷いていいかためらっていると、今まで黙って成り行きを見守っていたランだけではなく、メルまで立ち上がってそう言ったのにアガタは焦った。
自分から離れたくはないという気持ちは解るが、たとえ給金を払わないにしろサマンサへの負担が大きくなってしまう。
だが、サマンサはメルがこう言い出すと予測していたのだろう。特に驚いたり気を悪くする様子もなく、口を開いた。
「気持ちは解るけど、簡単にいらないって言っちゃ駄目よ? ただ、確かにお給金二人分は払えないから……代わりに、二人ともここで住み込みで働くのはどう?」
「いいんですか!?」
「ありがとうございますっ」
破格の申し出にアガタは驚き、メルは金色の瞳をキラキラと輝かせてお礼を言った。
「ええ。ただ、賄いはよろしくね」
「勿論ですっ」
そして食欲に忠実だが可愛くて憎めない老女に、アガタはようやく笑って頷くことが出来た。
それは前世だけではなく、今生でも好きなのだと認識したばかりだが――この店は、サマンサの夫の店で。その死後、料理人を雇わなかったのは夫以外に踏み込まれたくないのでは、と思ったからだ。
(『安形』が、店を閉めたのもそれでだったのよね……だから、サマンサさんもそうかなって)
そこまで考えて、アガタはハッと顔を上げて口を開いた。
「あのっ……確かに仕事は探してますし、ご飯も作りましたが……サマンサさんに、無理をさせるつもりはっ」
「え? ああ! 違う違う」
「……えっ」
慌てて言うと、サマンサはきょとんとして――次いで、アガタを宥めるように笑って手を振った。そして、戸惑って目を瞠るアガタにサマンサが言葉を続ける。
「確かにね? イーサンが亡くなって、周りは店を再開してほしいって言うけど……悪気はないんだろうけど、言うだけでこっちに丸投げで。思う存分悲しみたかったのもだけど、雑音を聞きたくなくて引きこもってたのよねぇ」
「はぁ……」
コロコロと笑っているのは可愛いが、なかなかの辛口発言だ。ただ、まあ、気持ちは解るし自分がされたら同じように腹が立つと思うので言及はしない。
「でも、あなたなら! イーサンみたいに、あったかくて美味しいご飯を作ってくれるし……あなたが料理人なら、ランさんも気兼ねなく来られるだろうし。どう? 名案だと思わない?」
「え、あの……」
「確かに名案」
「ランさん!?」
「……僕も! お金はいらないから、僕もこの店で雇ってくれませんか!?」
「メル!?」
確かに、良いことづくめなのだが――だからこそ、すぐに頷いていいかためらっていると、今まで黙って成り行きを見守っていたランだけではなく、メルまで立ち上がってそう言ったのにアガタは焦った。
自分から離れたくはないという気持ちは解るが、たとえ給金を払わないにしろサマンサへの負担が大きくなってしまう。
だが、サマンサはメルがこう言い出すと予測していたのだろう。特に驚いたり気を悪くする様子もなく、口を開いた。
「気持ちは解るけど、簡単にいらないって言っちゃ駄目よ? ただ、確かにお給金二人分は払えないから……代わりに、二人ともここで住み込みで働くのはどう?」
「いいんですか!?」
「ありがとうございますっ」
破格の申し出にアガタは驚き、メルは金色の瞳をキラキラと輝かせてお礼を言った。
「ええ。ただ、賄いはよろしくね」
「勿論ですっ」
そして食欲に忠実だが可愛くて憎めない老女に、アガタはようやく笑って頷くことが出来た。
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