タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま

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立場が逆なので最初、気づかなかったけれど

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 こうして、無事にアガタの就職が決まったが――次に話題に上がったのは、イーサンの料理をどこまで引き継ぐかだった。いや、アガタとしては自分では食べていないが、亡きイーサンの料理を知っているサマンサとランがいるので、出来る限り寄せて作ろうと思っていた。

(この店の再開を望んでいる常連さん達の為にも、その方が良いわよね)

 そう思ったアガタだったが、そこでサマンサから待ったがかかった。

「アガタちゃんの気持ちは嬉しいし、メニューの参考にはしてほしいけど……わたしももう、おばあちゃんじゃない? 先のことを考えると、アガタちゃんがやりやすいように作ってくれた方が良いと思うのよね」

 サマンサの言葉に、アガタは薄茶の目を瞠った。それはアガタが、いや安形が子供に店を譲る時に言ったことと同じだったからだ。

(そうか……そう言えば婿君も最初、安形のメニューをそのまま引き継ごうとしたんだった)

 それに安形はサマンサと同じことを言い、安形の娘婿は恐縮しつつも自分の味で店を再開――いや、彼の新しい店を始めたのだ。
 だからアガタも、あの時の娘婿に倣おうと思った。

「ありがとうございます……でも、一品だけ。イーサンさんの作っていた、スープかサラダを教えて下さい」
「「え?」」

 アガタの申し出にサマンサと、ランが驚いて声を上げる。そんな二人に、アガタは答えた。

「主食になる料理は、私が作るとして。イーサンさんの料理も、残したいんです」
「……解ったわ。何にしようかしらねぇ?」
「芋のサラダは? つまみに出してましたよね?」
「美味しそうですね!」
「ええ、美味しいのよぉ」
「アガタ姉様のも美味しいですっ」

 サマンサの呟きに、ランがそんな提案をする。それにアガタが反応しサマンサが答えると、メルが拳を握って力説した。

「メル、まだ作ってないから……でも、美味しくなるよう頑張るわね」

 そんなメルの白い頭を、アガタは優しく撫でてそう言った。



 王宮での酷使の影響で、アガタは年の割に小さく細い。
 それ故、あまりたくさんの種類は体力的に作れないと思ったので、パンと豆のスープ。あと、イーサン仕込みのポテトサラダまでは必ずつけて(マヨネーズなしで驚いたが、逆にカロリーを気にせずサッパリ食べられた)メインを週替わりにした定食だけ提供することにした。ちなみに再開した週は肉団子のトマト煮込みにし、来週はチキンソテー。再来週はロールキャベツにし、最終月はカツレツにする予定だ。そして飲みたくて、つまみだけ欲しいという客にはポテトサラダかメイン料理だけを単品で出している。
 ……正直、定食のみでの勝負は賭けだったが、酒を出しこそするが元々が食堂だったのが幸いした。サマンサが給仕に復帰したことで常連客が訪れたが、イーサンのポテトサラダがまた食べられることもあり、客の足が離れることはほぼなかった。

「アガタ姉様の料理も、美味しかったからですっ」
「ふふ、ありがとうねメル」

 身内贔屓だと解っているが、メルからの言葉が嬉しくて――けれど慢心しないよう気をつけようと、アガタは強く心に誓った。
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