リバース!

渡里あずま

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リバース!2

魔法、それとも?2

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「何だ?」

 椿の問いかけに、男は唇の端を上げるだけだった。
 年は、二十代前半くらいだろうか。
 肩までの脱色した髪に、骸骨のTシャツ。無造作に出された右手には、同様にゴツい骸骨の指輪がはめられている。

「「っ!?」」

 だが刹那、その手から赤い炎が吹き出したのに俺と椿は息を呑んだ。

(魔法? 無詠唱でか?)

 先に動いたのは俺だった。椿の前に出て、ビニール傘を構えながら相手を観察する。

(見たところ、文様は無い。『MSマジックシード』じゃないってことか?)

 まず、最初に俺が思ったのは四月の事件の時に使われたMSだった。
 前世の俺がいた、魔法の使える異世界――テルスの民の魔力を抽出したカプセルを摂取することで、地球人も魔法を使えるようになる。
 ただし力に限りはあるし、肉体への負担は大きい。更に使っている間、体の一部に刺青のように魔力の属性に合わせた『文様』が宿る。

(見えないってだけかもだけど、テルス人の可能性の方が高いか?)

 とは言え、見た目は地球人であり日本人にしか見えない。どういうことだ、と首を傾げる俺の前で男は笑いながら手を振り、炎を投げつけてきた!

「……っ」

 そこで、更に俺は驚くことになる。
 魔法の炎だったら、俺より強い魔力を持っていないと傷一つつけられない。だが、俺の左腕を掠めたその炎は微かに、けれど確かに火傷を残した。

「杏里!」
「平気だっ」

 背後の椿に答えながら、俺は下から上へとビニール傘を振り上げた。刹那、強風が巻き上がって目の前の男を襲う。

「おっと」

 俺の攻撃をバックステップで避けると男はそれ以上、襲って来なかった。そして笑みを絶やさないまま、身を翻して立ち去った。

(……俺より魔力が強いって、可能性はある。だけど)

 遠ざかる背中を見送りながら、俺はもう一つの可能性について考えていた。
 魔力での炎なら、こちらの力の方が上なら傷つかない。だけど、魔力『以外』の炎なら俺を傷つけられるんだ。
 現にテルスでは火の属性を持っていても火事で死ぬし、生まれ変わった俺も子供の頃、台所で火傷したことがある。

「何者だ……?」
「MSの可能性もあるが……お前と同じ、転生者かもしれない。あの幼女に、聞いてみろ」
「おう」
「……その前に、冷やしに行くぞ」
「うぉっ!?」

 言葉と共に、俺は椿に手を掴まれて引っ張られた。

「話を聞く時、あの幼女に治して貰え」

 ……それならそもそも今、冷やさなくて良い気がしたんだが。
 結局、近所の公園にあった水道で火傷を冷やし、腰の布を包帯代わりに腕に巻きつけるまで、椿は離してくれなかった。
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