演劇少女は、新妻(ジュンヌ・マリエ)の人生を紡ぐ

渡里あずま

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試す言葉と夫の愛

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「──聖書や神話ではなく、人間自身が織りなす恋愛物語や悲劇、あるいは喜劇が観たいんです。人間が主人公ですから、歌は必須ではありません。台詞や演技による役者のかけあいで、物語が展開する舞台が観たい」
「…………」
「その望みを叶えてくれるのなら、我がベルトラン家はあなたたちの劇団を支援いたします」

 オペラやミュージカルを否定する訳ではないが、元々の宗教劇にも歌が入っていたようだし、人同士のやり取りならやはり台詞だとエレーヌは思う。そしていずれは生まれるかもしれないが、どうせならすぐに観たい。アーロンが許してくれたので、ここはわがままを言ってみよう。
 そんな彼女の言葉に昨日、話をしていたアーロンは平然としているが、給仕をするのに控えているシルリーは驚いたようだった。彼女はエレーヌが転生者だと知っているが、そもそもの芝居の概念と違うので話すのに躊躇した。だからいきなり聞かされたので、当然驚いただろう。申し訳なく思う。
 一方、バートは何かを考えるかのように目を伏せて──しばしの沈黙の後、その金茶の瞳で真っ直ぐエレーヌを見返して口を開いた。

「それは確かに新しいし、目立ちますね……ただ、新しいものだからこそ今までの芝居のように元になる話がない」
「それは、確かにそうで」
「……ですので、若奥様と若君が結ばれるまでのお話を劇にさせていただけませんか?」
「えっ?」

 バートの突然の申し出に、エレーヌは思わず声を上げた。まさかそう来るとは思わなかったので、咄嗟にアーロンへと目をやってしまう。

(いや、言われてみればそうなんだけど……私はともかく、アーロンは嫌よね? 結婚前のすれ違いなんて舞台になったら、黒歴史よね?)

 そう思ったエレーヌだったが、アーロンは違ったらしい。安心させるように頷くと、彼女の肩を抱き寄せてバートに答えた。

「劇か……いいぞ。エレーヌの素晴らしさを、他の者たちにも披露出来るからな」
「……あなたも、心が広くて素晴らしいですよ」

 エレーヌの言葉は、本心だった。まさか自分の黒歴史より、妻のわがままを優先するなんて──そう思っていたら、不意にバートが噴き出した。爆笑するのを堪えているが、肩も声も震えている。

「し、失礼……」
「ただ、妻は身重なのでこの後は許してほしい。明日以降、何度かこうしてお茶会を開くから城に来てくれ」
「……あ、ありがとう、ございます……っ」

 真顔で続けるアーロンだが、真面目に面白いことを言われるのは笑いのツボを刺激する。その為、バートは何とか堪えるがらもそうお礼を言った。
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