19 / 24
試す言葉と夫の愛
「──聖書や神話ではなく、人間自身が織りなす恋愛物語や悲劇、あるいは喜劇が観たいんです。人間が主人公ですから、歌は必須ではありません。台詞や演技による役者のかけあいで、物語が展開する舞台が観たい」
「…………」
「その望みを叶えてくれるのなら、我がベルトラン家はあなたたちの劇団を支援いたします」
オペラやミュージカルを否定する訳ではないが、元々の宗教劇にも歌が入っていたようだし、人同士のやり取りならやはり台詞だとエレーヌは思う。そしていずれは生まれるかもしれないが、どうせならすぐに観たい。アーロンが許してくれたので、ここはわがままを言ってみよう。
そんな彼女の言葉に昨日、話をしていたアーロンは平然としているが、給仕をするのに控えているシルリーは驚いたようだった。彼女はエレーヌが転生者だと知っているが、そもそもの芝居の概念と違うので話すのに躊躇した。だからいきなり聞かされたので、当然驚いただろう。申し訳なく思う。
一方、バートは何かを考えるかのように目を伏せて──しばしの沈黙の後、その金茶の瞳で真っ直ぐエレーヌを見返して口を開いた。
「それは確かに新しいし、目立ちますね……ただ、新しいものだからこそ今までの芝居のように元になる話がない」
「それは、確かにそうで」
「……ですので、若奥様と若君が結ばれるまでのお話を劇にさせていただけませんか?」
「えっ?」
バートの突然の申し出に、エレーヌは思わず声を上げた。まさかそう来るとは思わなかったので、咄嗟にアーロンへと目をやってしまう。
(いや、言われてみればそうなんだけど……私はともかく、アーロンは嫌よね? 結婚前のすれ違いなんて舞台になったら、黒歴史よね?)
そう思ったエレーヌだったが、アーロンは違ったらしい。安心させるように頷くと、彼女の肩を抱き寄せてバートに答えた。
「劇か……いいぞ。エレーヌの素晴らしさを、他の者たちにも披露出来るからな」
「……あなたも、心が広くて素晴らしいですよ」
エレーヌの言葉は、本心だった。まさか自分の黒歴史より、妻のわがままを優先するなんて──そう思っていたら、不意にバートが噴き出した。爆笑するのを堪えているが、肩も声も震えている。
「し、失礼……」
「ただ、妻は身重なのでこの後は許してほしい。明日以降、何度かこうしてお茶会を開くから城に来てくれ」
「……あ、ありがとう、ございます……っ」
真顔で続けるアーロンだが、真面目に面白いことを言われるのは笑いのツボを刺激する。その為、バートは何とか堪えるがらもそうお礼を言った。
「…………」
「その望みを叶えてくれるのなら、我がベルトラン家はあなたたちの劇団を支援いたします」
オペラやミュージカルを否定する訳ではないが、元々の宗教劇にも歌が入っていたようだし、人同士のやり取りならやはり台詞だとエレーヌは思う。そしていずれは生まれるかもしれないが、どうせならすぐに観たい。アーロンが許してくれたので、ここはわがままを言ってみよう。
そんな彼女の言葉に昨日、話をしていたアーロンは平然としているが、給仕をするのに控えているシルリーは驚いたようだった。彼女はエレーヌが転生者だと知っているが、そもそもの芝居の概念と違うので話すのに躊躇した。だからいきなり聞かされたので、当然驚いただろう。申し訳なく思う。
一方、バートは何かを考えるかのように目を伏せて──しばしの沈黙の後、その金茶の瞳で真っ直ぐエレーヌを見返して口を開いた。
「それは確かに新しいし、目立ちますね……ただ、新しいものだからこそ今までの芝居のように元になる話がない」
「それは、確かにそうで」
「……ですので、若奥様と若君が結ばれるまでのお話を劇にさせていただけませんか?」
「えっ?」
バートの突然の申し出に、エレーヌは思わず声を上げた。まさかそう来るとは思わなかったので、咄嗟にアーロンへと目をやってしまう。
(いや、言われてみればそうなんだけど……私はともかく、アーロンは嫌よね? 結婚前のすれ違いなんて舞台になったら、黒歴史よね?)
そう思ったエレーヌだったが、アーロンは違ったらしい。安心させるように頷くと、彼女の肩を抱き寄せてバートに答えた。
「劇か……いいぞ。エレーヌの素晴らしさを、他の者たちにも披露出来るからな」
「……あなたも、心が広くて素晴らしいですよ」
エレーヌの言葉は、本心だった。まさか自分の黒歴史より、妻のわがままを優先するなんて──そう思っていたら、不意にバートが噴き出した。爆笑するのを堪えているが、肩も声も震えている。
「し、失礼……」
「ただ、妻は身重なのでこの後は許してほしい。明日以降、何度かこうしてお茶会を開くから城に来てくれ」
「……あ、ありがとう、ございます……っ」
真顔で続けるアーロンだが、真面目に面白いことを言われるのは笑いのツボを刺激する。その為、バートは何とか堪えるがらもそうお礼を言った。
あなたにおすすめの小説
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。