演劇少女は、新妻(ジュンヌ・マリエ)の人生を紡ぐ

渡里あずま

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初演と天使の祝福と

 来月が予定日なので、エレーヌのお腹はすっかり膨らんでいる。
 そんな彼女の為に、バート達は城の一室で簡単な背景道具を組み立てて、芝居の準備を始めた。どこにでも劇場がある訳ではないので、普段は他の貴族の城でもこうやって部屋の規模に合わせて準備をし、演じるのだと言う。
 そしてエレーヌとアーロン、あと伯爵夫人と何かあった時の為に控えるシルリーの前で、この世界で初めての戯曲が始まった。

「っ!?」

 暗くなった部屋に鳴り響く、鐘の音。刹那、明るくなったかと思うと喪服に身を包んだ役者たちが現れた。鐘の音がした方を見ると、バートが振鈴を手にしていた。劇場の舞台ではないが、幕が開けたことを示す演出だと気づき、エレーヌは感激のあまりニヤケそうになるのを必死にこらえた。
 そんな中、伯爵夫人役の女優と、アーロン役(名前は変えたが)の美青年がエレーヌの前でそれぞれの台詞を口にする。

「息子を送り出すのは、私にとって二人目の夫の埋葬です」※
「僕にとっても、母上、立ち去るのは、父の死に改めて涙することです」※

 前世で観たのと同じ、台詞のやりとり。いや、あの時は学生だったが、今は大人の美男美女が演じていて、本当に目の保養だ。元が自分たちだというのは、ひとまず置いておく。

(素敵……! でも、これで終わりじゃないわよね。次は、何を書こうかしら?)

 そう思っている間にも台詞は、そして役者たちの演技は続く。
 やがて、最後のエピローグの台詞をバートが言って戯曲が終わった。ずっと観たいと思っていた戯曲の誕生に感激し、立ち上がって拍手をしたエレーヌだったが、不意にお腹が痛くなって座っていた椅子に再び腰かけた。

「エレーヌ!?」
「若奥様!?」
「バート、ごめんなさい。素晴らしい戯曲だったわ……ただ、ごめんなさい。アーロン……生まれる、みたい」

 予定日より早いが、陣痛が来たようだ。エレーヌがそう伝えると、その場にしばし沈黙が落ちて──次いで、騒然とした。アーロンもだが、伯爵夫人も初孫故に動揺してしまっている。一番落ち着いていたのはシルリーで、すぐに産婆(侍医は男性なので、アーロンから事前に手配するよう言われていた)を呼びに走った。いや、呼ぶだけではなく、少しでも早く城に連れてくる為に、小柄な老婆とは言え、何とシルリーは産婆をおんぶして城まで走って戻ってきた。

「シルリー、戯曲って良いでしょう?」
「若奥様、話はこれが終わったらいくらでも聞きますから……まずは、出産に集中してください!」
「侍女さん、お湯を追加しておくれ」
「かしこまりましたっ」

 病院でもなく、前世と違って夫の立ち合い出産と言うのもないので、貴族である伯爵夫人とアーロン。あと、当然と言えば当然だがバートたちは立ち入ることを許されず。産婆と、手伝いに入ったシルリーたち侍女に見守られ、励まされながらエレーヌは無事に出産を終えたのだった。


※『終わりよければすべてよし』第一幕 第一場より引用 (ちくま文庫 シェイクスピア全集33 松岡和子訳)

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