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それぞれの道【前】
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リュカオン視点。
本日二話更新&本編完結です。
※
リュカオンは皇太子だ。つまり、皇帝は別にいる。
しかし父である皇帝には母である皇妃がいるし、恵や優菜とはそれこそ親子ほど年が離れていた。それ故、皇太子であるリュカオンが異世界から召喚した聖女を娶ることに決まったのだ。一応、リュカオンが好みに合わなかった時の為に他の候補も用意していたが、可能な限り皇族で囲い込むつもりだった。
しかし一人目の聖女である恵は、リュカオン達になびくどころか皇国から逃げ出してしまった。だからこそリュカオンは焦り、二人目の優菜を早々にお披露目し、しかも恵のように逃げられない為に娶ったのである。
……だがそんな優菜はこの世界から、元の異世界へと強制的に戻されてしまった。
「は?」
「聞こえなかったか? そなたは廃嫡とし、一代限りの男爵位を与える。領地は与えるが、今後の皇都への立ち入りは禁止とする」
「聞こえています! ただ、何ですかその内容は!? 私が、何をしたというのですかっ……それに! 父上の子供は、私しかおりません!」
リュカオンが王の私室に呼ばれると、そこには彼の母である皇妃もいた。
そんな母の前で、父はとんでもない話を切り出してきて――悲しげな表情をしつつも、反対しない母に内心、幻滅しながらもリュカオンは父に負けじと声を張り上げた。
「聖女を御せず、よりによって魔国に亡命させた! しかも今後は、魔族が瘴気を封印するので聖女召喚自体必要がなくなる! 今後、魔国に目をつけられない為なら皇位はそなたの従弟に譲る」
「亡命は、私だけのせいではっ……な、なら、せめてアクイラと! アクイラと私を、添い遂げさせて下さい!」
「皇族でなくなったそなたが、侯爵令嬢の名を気安く呼ぶんじゃない! 聖女を召喚した時に諦めるよう言ったし、そなたも頷いた……もっとも、隠れて会っていたようだがな。そんなことだから、聖女に逃げられたのだ愚か者め!」
「そ、れはっ」
「もっともアクイラ嬢も、そなたと二人目の聖女であるユウナが式を挙げたことでそなたを見限ったそうだ。新しい婚約者を探すので、もう連絡しないよう言われている」
「……そんな」
直接の原因ではないが確かに恵も、更に追求されるまで黙っていたが複数の侍女も、二人の逢瀬を目撃している。
しかしそのことをマズいと思ったのは一瞬で、すぐに恋人のアクイラの話を聞いて肩を落とした。確かに恵の時は婚姻は形だけのものとし、一年経ったら子供を理由に彼女を側妃として招くと約束していたが――優菜を逃がすまいと焦るあまり、解ってくれるだろうとアクイラに説明せずに優菜を妻とした。それで見限られたと言うのなら、完全に自業自得である。
だが、父親が続けた言葉にリュカオンは再び耳を疑った。
「もっとも二人目の聖女は死んだ訳ではないので、そもそもリュカオンは妻を娶ることが出来ん。正統な後継者を遺せないのも、廃嫡の理由だ……カニスとクオンも、其方の領地に行かせる。ユウナを失って立ち直れないことにするから、三人で領地で静かに暮らせ。娶れはしないが、身の回りの世話をさせるのなら女性と付き合っても良いが……子が生まれたからと、皇都に来て魔王の不興を買ったら困るのだ。くれぐれも、分を弁えろ。断種せんのは、せめてもの情けだと思え」
「なっ!?」
たまらず声を上げたリュカオンに、向けられたのは怒りと――恐怖の、眼差しだった。けれどその恐怖は当然、リュカオンに向けられたものではない。
「我ら人族だと、同じ場所にいないと相手に魔法を使えないが……魔王は、遠く離れた魔国からそなたらに魔法を使った。魔王がその気になれば、我々も……勿論、そなたらも簡単に寝首を掻かれてしまう訳だ」
「そ、それは」
確かにあの時はただ驚いたが教皇であるカニエからも、冒険者ギルドで魔法使いと接する機会があるクオンからも、あんな風に離れた場所から魔法で攻撃出来るなど聞いたことがない。魔王がその気になれば、リュカオンはあの時に死んでいてもおかしくなかったのだ。
そのことを今更ながらに理解して、リュカオンも恐怖に総毛だった。
「良いな? くれぐれも、大人しくしておれ」
魔王に怯える父からの言葉を聞いてリュカオンは以前、自分が恵に似たようなことを言ったと思い出し――目の前が真っ暗になり、リュカオンはたまらずその場に膝を着いた。
今度はリュカオン達が、あの時の恵のように飼い殺しにされるのだと理解した。
本日二話更新&本編完結です。
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リュカオンは皇太子だ。つまり、皇帝は別にいる。
しかし父である皇帝には母である皇妃がいるし、恵や優菜とはそれこそ親子ほど年が離れていた。それ故、皇太子であるリュカオンが異世界から召喚した聖女を娶ることに決まったのだ。一応、リュカオンが好みに合わなかった時の為に他の候補も用意していたが、可能な限り皇族で囲い込むつもりだった。
しかし一人目の聖女である恵は、リュカオン達になびくどころか皇国から逃げ出してしまった。だからこそリュカオンは焦り、二人目の優菜を早々にお披露目し、しかも恵のように逃げられない為に娶ったのである。
……だがそんな優菜はこの世界から、元の異世界へと強制的に戻されてしまった。
「は?」
「聞こえなかったか? そなたは廃嫡とし、一代限りの男爵位を与える。領地は与えるが、今後の皇都への立ち入りは禁止とする」
「聞こえています! ただ、何ですかその内容は!? 私が、何をしたというのですかっ……それに! 父上の子供は、私しかおりません!」
リュカオンが王の私室に呼ばれると、そこには彼の母である皇妃もいた。
そんな母の前で、父はとんでもない話を切り出してきて――悲しげな表情をしつつも、反対しない母に内心、幻滅しながらもリュカオンは父に負けじと声を張り上げた。
「聖女を御せず、よりによって魔国に亡命させた! しかも今後は、魔族が瘴気を封印するので聖女召喚自体必要がなくなる! 今後、魔国に目をつけられない為なら皇位はそなたの従弟に譲る」
「亡命は、私だけのせいではっ……な、なら、せめてアクイラと! アクイラと私を、添い遂げさせて下さい!」
「皇族でなくなったそなたが、侯爵令嬢の名を気安く呼ぶんじゃない! 聖女を召喚した時に諦めるよう言ったし、そなたも頷いた……もっとも、隠れて会っていたようだがな。そんなことだから、聖女に逃げられたのだ愚か者め!」
「そ、れはっ」
「もっともアクイラ嬢も、そなたと二人目の聖女であるユウナが式を挙げたことでそなたを見限ったそうだ。新しい婚約者を探すので、もう連絡しないよう言われている」
「……そんな」
直接の原因ではないが確かに恵も、更に追求されるまで黙っていたが複数の侍女も、二人の逢瀬を目撃している。
しかしそのことをマズいと思ったのは一瞬で、すぐに恋人のアクイラの話を聞いて肩を落とした。確かに恵の時は婚姻は形だけのものとし、一年経ったら子供を理由に彼女を側妃として招くと約束していたが――優菜を逃がすまいと焦るあまり、解ってくれるだろうとアクイラに説明せずに優菜を妻とした。それで見限られたと言うのなら、完全に自業自得である。
だが、父親が続けた言葉にリュカオンは再び耳を疑った。
「もっとも二人目の聖女は死んだ訳ではないので、そもそもリュカオンは妻を娶ることが出来ん。正統な後継者を遺せないのも、廃嫡の理由だ……カニスとクオンも、其方の領地に行かせる。ユウナを失って立ち直れないことにするから、三人で領地で静かに暮らせ。娶れはしないが、身の回りの世話をさせるのなら女性と付き合っても良いが……子が生まれたからと、皇都に来て魔王の不興を買ったら困るのだ。くれぐれも、分を弁えろ。断種せんのは、せめてもの情けだと思え」
「なっ!?」
たまらず声を上げたリュカオンに、向けられたのは怒りと――恐怖の、眼差しだった。けれどその恐怖は当然、リュカオンに向けられたものではない。
「我ら人族だと、同じ場所にいないと相手に魔法を使えないが……魔王は、遠く離れた魔国からそなたらに魔法を使った。魔王がその気になれば、我々も……勿論、そなたらも簡単に寝首を掻かれてしまう訳だ」
「そ、それは」
確かにあの時はただ驚いたが教皇であるカニエからも、冒険者ギルドで魔法使いと接する機会があるクオンからも、あんな風に離れた場所から魔法で攻撃出来るなど聞いたことがない。魔王がその気になれば、リュカオンはあの時に死んでいてもおかしくなかったのだ。
そのことを今更ながらに理解して、リュカオンも恐怖に総毛だった。
「良いな? くれぐれも、大人しくしておれ」
魔王に怯える父からの言葉を聞いてリュカオンは以前、自分が恵に似たようなことを言ったと思い出し――目の前が真っ暗になり、リュカオンはたまらずその場に膝を着いた。
今度はリュカオン達が、あの時の恵のように飼い殺しにされるのだと理解した。
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