灰かぶり君

渡里あずま

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嫌われるのも悪いばかりじゃない3

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「うるさい、黙れ!」

 内心、焦った俺の耳にチワワの苛立った声が届く。
 そして、声の方を見た俺は――慌てて真白の前へと飛び出した。

「……っ!」
「谷!?」

 次の瞬間、俺の右のこめかみにチワワが投げつけた石が当たる。
 悲鳴みたいな真白の声に、石のぶつかったところを触ると血がついた。
(チッ、こうきたか)
 チワワ俺と真白逃亡者に触ったら、問答無用でペアになる。だから直接、触らずに口論で収まると思ったけど――まさか石、投げてくるなんて。

「何よ平凡! あんたも、僕達に逆らうの!?」
「生意気っ」

 真白を庇ったのが癪に障ったのか、他のチワワ達も俺に石をぶつけてくる。

「谷……っ、お前ら、やめろ!」
「真白、前出るな……眼鏡、危ないから」

 あと、言わないけど鬘もあるし。怪我したら、変装してるのバレるからな。
 ってか、風紀。チワワ達がご乱心だぞ。地味に痛いから、見回ってるんなら早く来い。

「……眼鏡」

 と、頭と目を庇ってた俺の耳に真白の呟きが落ちる。
 いつもとは違う低い響きに、驚いて目をやると――真白が、瓶底眼鏡とモジャモジャ頭を投げ捨てた。

「ま、しろ?」

 ……サラサラの銀の髪。時折、赤く見える茶色の目。
 王道転校生らしく可愛い系を想像してたけど、どちらかって言うと綺麗に整った顔だった。それが、声同様に無表情なもんだから相当な迫力だ。

「嘘……毬藻ってば、あんなに綺麗だったの?」

 空気を読まないチワワの言葉に、真白がキッと顔を上げる。
(って、マズい!)
 チワワ達に殴りかかろうとした真白に、俺は慌ててしがみついた。

「離せ、谷! 眼鏡かけてないんだから、もういいだろ!?」

 頭に血は昇ってるみたいだけど、何とか俺を認識してくれてはいるらしい。それなら、と俺は振りほどかれないよう腕に力を込めて言った。

「殴ったら、あいつらとデートだぞ?」
「…………えっ?」

 退学も心配だったけど、あえて空気を壊すことを言った。目を真ん丸くして真白が固まったその隙に、見上げて言葉を続ける。

「お前、嫌ってたあいつらが見惚れるくらい綺麗なんだぞ? デートしたいなら止めないけど、どうせなら好きな奴とした方がいいだろ?」
「……谷ぃ……」

 表情を無くしてた顔が、クシャッと泣きそうに歪む。その銀色の頭を、血のついてない方の手で撫でてやると――思いがけない、声がした。

「……だ……火事っ……火事、だっ!」
「「「緑野様っ!?」」」

 必死に声を張り上げる書記に、チワワ達がうろたえる。
 だけど、逃げようとしたその足は短い、でも凛として逆らえない声に遮られた。

「止まれ」
「「「草薙くさなぎ様っ!?」」」

 チワワ達が声を上げた途端、声の主の背後に控えてた生徒達がチワワ達を捕まえた――あ、風紀って腕章してる。ってことは、あの草薙って呼ばれてたのが委員長か?(茶髪だけど)
(遅い……けど、助かった)
 ホッとした途端に、血が流れたせいか力が抜けて目の前が暗くなる。そんな俺に、書記が駆け寄ってきた。

「……大、丈夫!?」
「はい……ありがとうございます、書記様」

 真白もだけど、この書記も素直だな。まさか、ここまで頑張ってくれると思わなかった。最初はどうなるかと思ったけど、これなら真白を任せられるな。
 ビー、ビー、ビー!
 そんな保護者みたいなことを考えてたら、今更ながらに受信機の音が気になった。俺、怪我で棄権するからこれ外しちゃ駄目かな?
(……あ、もう、俺が駄目だ)

「谷っ!?」
「谷君!」
「りぃ君っ」
「谷!」
「緑野……と、誰だ?」

 血の気の引く感覚に逆らえず、目を閉じた俺の耳に複数の声と足音が近づいてくる。
 ヤバい、逃げないと――そう思っても、体は動いてくれなくて。
 刹那、体が浮いたと思ったところで意識を手放した俺は、自分の受信機が鳴り止んだことに気づかなかった。
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