灰かぶり君

渡里あずま

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恋心は下心2

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(油断した……真白もされてたけど、不意打ち得意なんだな)

 とりあえず、唇にじゃなくて良かった。そう思いながら、俺は手でキスされた頬を拭って口を開いた。

「あの、だからこういうのいらないです……あんまりやるんなら、作るのやめますよ? 別に会長様、俺が飯作らなくても死ぬ訳じゃないんですし」
「やったんじゃない」
「えっ?」
「美味そうだったから」
「……お腹空いてるんですか?」

 そっか、弁当ほとんど食えてないからな。仕方ない、真白達に夕飯作った後、届けに行くか。
 ちなみに、俺の部屋で一緒に食べるって選択肢はない。真白と一茶が(それぞれ違う意味で)騒ぎそうだからな。

「解りました。夕飯作って、持って行きますね。何、食べたいです?」
「……スルーか?」
「? えっと、嫌いなものとかあります?」
「ピーマン」
子供こどもか!」

 どうも会話が成り立たないので、質問を変えた。その答えに、思わず突っ込んだ俺は悪くないと思う。

「……お前に、言われたくない」
「俺は、好き嫌いないですよ」
「そうじゃなくて……キスされたのに、動じないとか」
「だって、あなたにとっては飯の代金でしょう? でも、キスは双方の同意が必要ですからね。親衛隊の皆さんならともかく、俺には必要ないですから……また、真白に怒られますよ?」
「違う」
「えっ?」
「今のは、違う」

 そう言うと、会長はその両手で俺の両手を掴んだ。
 それから状況が解らず、戸惑う俺をジッと見つめたまま唇の端を上げた。

「成程な、これが俺様が媚びだって思っていたことか」
「会長、様?」
「触りたいし、振り向かせたい……お前の目や耳こそ、飾り物だ。これだけ、俺様が口説いてるのに気づかないなんて」
「って……あの、真白は?」
「あ? 確かに、面白いが……あいつは飯、作れないし」
「ブレないですね、会長様」

 一見、淡々と会話しているように見えるかもしれないが内心、俺は滝のような汗をかいていた。
 振りほどけない手と、密着しているせいで上がらない足。そして会長の顔が息が触れるくらいまで近づいたのに、俺は一か八かで口を開いた。

「……ハンバーグ」
「っ!?」
「ロールキャベツに、クリームシチュー。モンブランに、ガトーショコラ……これ以上、するなら作りませんよ?」
「……っ」

 悔しそうに顔をしかめたかと思うと、会長は俺の肩にグリグリと頭を擦りつけてきた――良かった、とりあえず思い留まってくれたみたいだ。
(食いしん坊万歳)
 そんなことを考えていた俺の耳に、再びガラッと言う音が聞こえる。

「すっ、すすす、すみませんっ、もう一回乗りますか!?」
「いえ、お構いなく」

 さっきのスタッフさんと目が合ったのに、会長に懐かれたまま俺は動揺する相手を宥めるように返事をした。



「……我慢したんだから、全部、作れよ?」
「解ってます」

 観覧車を降りた後、俺の横を歩きながら会長は言った。料理は、仕事に出た母親の為にするようになったけど――うん、覚えておいて良かった。芸は身をたすくって本当だな。

「満足しなかったら、お前を食ってやる」
「どんな千夜一夜ですか」
「むしろ、赤ずきんじゃないか? この口は、お前を食う為にあるってな」
「……料理って、言って下さいね」

 恋は、下に心があるんで下心とも言うけれど――会長のは、随分と食欲の比率が高いと俺は思った。
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