灰かぶり君

渡里あずま

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恋心は下心1

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 観覧車に乗っている時間は、意外と短い。

「言えばいいって……ふざけるな、お前に借りなんて作れるか!」
「すみません。いらないもの押しつけられる方が、迷惑です」
「……失礼な奴だな」

 とりあえず、キスをするのは止まってくれたが、会長が俺に覆い被さったまま睨んでくる。
 さて、どうするか。貸し借りってこだわるんなら、食費ってことで金貰えばいいのかって思っていたら。

 ……ガラッ。

 言い合っている間に、下に着いていたらしい。遊園地のスタッフらしい人が、観覧車のドアを開け――俺達を見て、固まった。あ、そうだ、押し倒されたままだった。

「すみません、もう一回乗ります」
「はっ、はいっ」

 俺がそう言うと、慌ててドアを閉めてくれた。本当は駄目なんだろうけど、まあ、貸し切りだからってことで許して貰おう。

「……おい?」
「会長様、とりあえずどいて下さい……どうして、俺の作ったものが食べたいんですか?」

 そもそも、食べさせた覚えがない。ただ、こうなると弁当のリクエストも、単純に食いたかったからってことだよな?
 俺がそう尋ねると、会長はようやく俺から離れてくれて――だけど向かい合わせじゃなく、俺の隣に座って口を開いた。

「……美味かった、から」
「えっ?」
「双子にケーキ、持たせたろう?」

 言われて新歓前日に、炊飯器で作ったバナナケーキを空青と海青に持たせたことを思い出した。そっか、あれ食ってたのか。

「美味くて、媚びてなかったから」
「媚び?」

 そう思ってたら、会長が何やら不思議なことを言い出す。
 食後の感想らしからぬ内容に首を傾げていると、ため息と共に会長が口を開いた。

「昔から料理食ったら、作った奴が考えてることが解るんだよ。別に、信じなくていいけどな」
「……はあ」
「料理人だと、こだわりくらいだから気にならない。けど、手作りだと……媚びまくりで、味なんてろくに解らねぇ」

 だから、お前の作ったものがもっと食いたくなった――そう言って、俺を見つめてくる会長を見返す。
(そう言えば、真白を気に入った理由も媚びてないからだよな)
 感覚の話なんで、会長の話が本当かどうかなんて解らない。ただ、会長がそう感じるって言うんならそうなんだろうし、俺の作ったものが食いたいって理由も理解出来たけど。

「……子供ガキですか? 会長様、やることやってるんでしょう?」

 そう言った俺に、会長が大きく目を見開いた。

「気に入った相手に渡すのに、媚び……って言うと、言葉が悪いですけど。喜んで欲しいとか振り向いて欲しいって思うのは当たり前ですよ」
「……知るかよ」
「そう言っちゃうのが、子供なんです。会長様が媚びって感じてる気持ちの奥は、純粋ですよ? まあ、気になって美味しく食べられない会長様としては、困るかもしれませんけど。プロが作ったものなら、食べられるんですよね? 餓死する訳じゃないんですから、いいじゃないですか」

 チワワ達のことがあったんで、つい口を出してしまった。
 そして拗ねたような返事を返されて思った通り、いや、思った以上に子供なんだって痛感する。
(こうなると、チワワ達抱いてたのも『来る者拒まず』なのかもな)
 あとは借りって言うか、弱みを見せたくないのかもしれない。見た目は大人(高校生)中身は子供って面倒だな。逆だと名探偵になるのに。

「お前のは、食わせてくれないのか?」

 だから余計なお世話だって怒られるかと思ったけど、代わりにまだ俺の作ったものを食いたいって言われてちょっと驚いた。
 うん、まあ、迫ってはこなくなったし。こっちの話を聞いて貰えるんなら。

「借りが嫌なら、食費貰いますね。明日にでも、何か作りますか? 食べたいものあります?」
「……嫌だ」
「は?」
「今夜、飯作れ」

 ……そう言った会長の唇が、何故だか俺の左頬へと触れてきた。
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