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助言と決断2
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「海道から、Fクラスの子が他校受験の為に自宅学習になったって聞いたけど……そう言う事情だったのね」
念の為、俺の個人スペースで安来さんの話をすると、紫子さんは納得したように呟いた。
それにしてもサラッと理事長の名前が出たけど、もしかして岡田さんみたいに同級生なのか?
「そう、アタシ達同級生で、生徒会役員だったのよ。岡田は、高校卒業後に警備会社に入ったけど」
疑問に返された紫子さんの答えに、俺は少し驚いた。さっきは何気なく聞いてたけど、この金持ち校にいたってことは岡田さんも良家のご子息ってことで――それが何で、高卒で警備員になってるんだ?
(……って、これじゃあ俺も踏み込みすぎか)
疑問を打ち消した俺に、紫子さんがあっさりと答える。
「アイツの場合、家庭の事情がね……確か、安来君もでしょう?」
『家庭の事情』で、安来さんも。それで解ったのは(おそらくだけど)本妻さんの子じゃないってことだ。
かー君もだけど、ここで刃金さんが出てきたってことは『父親に認知されていない』ってことなんだろう。金持ちの坊ちゃん校な白月学園では、割とよくある話だって一茶が前に教えてくれた。
「安来さんの場合、あのカリスマなんで父親はむしろ跡継がせる気満々らしいけど……母親が、頑として拒否してるんだって。訳あり不良って本当、良いよな!」
……なんて、一茶の萌えについての力説はともかく。
(そう考えると、刃金さんよく家との縁切れたな)
しかも、キチンと学校に話を通して受験対策まで――本気なんだって、改めて実感する。
「俺、刃金さんを応援したいんです」
だから、邪魔をしたくない。社会に出るんなら、男に好かれるなんて迷惑にしかならないだろう。
そんな俺の話を聞いていた紫子さんが、しばしの沈黙の後で口を開く。
「それで、本当に良いの? 駄目だから、寝不足にまでなるんじゃないの?」
「限界になったら、気絶して寝ると思います」
良いとか悪いとかって問題じゃない。だからそう答えると、紫子さんはやれやれって言うようにため息をついた。
「医者としてはそう言う無茶は止めたいし、アタシ個人としては谷君の恋を応援したいけどね」
「……すみません」
「良いわよ。恋は尊く素晴らしいって思うけど、確かにマイノリティが生き難いのは事実だし」
マイノリティは生き難い。紫子さんが言うと、すごく重みがある台詞だな。
「オネェだからってだけじゃないわよ? この学校では当たり前だけど、恋愛対象が男って言うのもそうだしね」
「やっぱり、そうですよね……」
「だけど、そんな理屈が通用しないのも恋よ?」
続けられた言葉に、俺は驚いて紫子さんを見返した。そんな俺に、紫子さんが優しく笑いかけてくる。
「知り合いに『考えるな、感じろ』って言われました」
「まぁ、勇ましい」
コロコロと笑う紫子さんのさっきの言葉は、マイノリティ発言以上に説得力があった。
聞けないけど、紫子さんも誰かに、そして男に恋してるんだと思う。
「アタシの愛しいハニーは、異母弟君と同じ子を好きになっちゃったりしてるしね」
「……はぁ」
「理屈じゃないし、止められないわよねぇ……アタシ達、つき合ってる訳じゃないし。ま、おかげでつけ込む隙が出来たけど」
そう話を締め括った紫子さんは、笑ってはいたけど何だか悪い顔をしていた。
(ご愁傷様)
誰かは知らないけど、紫子さんに好かれている『ハニー』さんとやらに、俺は心の中で合掌せずにはいられなかった。
※
「いきなり薬って訳にもいかないから、まずはコレ、試してみて?」
そう言って、紫子さんが淹れてくれたのはハーブと紅茶のブレンドティーだった。ハーブはレモンバームって、心の疲れを癒してくれるものらしい。
効果を先に聞かされてたのもだけど、紫子さんに話を聞いて貰ったからなのか――おかげで俺は、昼までグッスリ眠ることが出来た。久しぶりに腹が空かなければ、もっと寝ていたかもしれない。
コンコンコン。
そんな訳で、差し入れのおかゆを食べていた俺の部屋のドアが、不意にノックされる。
時計を見ると、昼休みの時間帯で――誰だろう、と首を傾げた俺の耳に、思いがけない声が届いた。
「いず、大丈夫か?」
「……マリア、さん?」
念の為、俺の個人スペースで安来さんの話をすると、紫子さんは納得したように呟いた。
それにしてもサラッと理事長の名前が出たけど、もしかして岡田さんみたいに同級生なのか?
「そう、アタシ達同級生で、生徒会役員だったのよ。岡田は、高校卒業後に警備会社に入ったけど」
疑問に返された紫子さんの答えに、俺は少し驚いた。さっきは何気なく聞いてたけど、この金持ち校にいたってことは岡田さんも良家のご子息ってことで――それが何で、高卒で警備員になってるんだ?
(……って、これじゃあ俺も踏み込みすぎか)
疑問を打ち消した俺に、紫子さんがあっさりと答える。
「アイツの場合、家庭の事情がね……確か、安来君もでしょう?」
『家庭の事情』で、安来さんも。それで解ったのは(おそらくだけど)本妻さんの子じゃないってことだ。
かー君もだけど、ここで刃金さんが出てきたってことは『父親に認知されていない』ってことなんだろう。金持ちの坊ちゃん校な白月学園では、割とよくある話だって一茶が前に教えてくれた。
「安来さんの場合、あのカリスマなんで父親はむしろ跡継がせる気満々らしいけど……母親が、頑として拒否してるんだって。訳あり不良って本当、良いよな!」
……なんて、一茶の萌えについての力説はともかく。
(そう考えると、刃金さんよく家との縁切れたな)
しかも、キチンと学校に話を通して受験対策まで――本気なんだって、改めて実感する。
「俺、刃金さんを応援したいんです」
だから、邪魔をしたくない。社会に出るんなら、男に好かれるなんて迷惑にしかならないだろう。
そんな俺の話を聞いていた紫子さんが、しばしの沈黙の後で口を開く。
「それで、本当に良いの? 駄目だから、寝不足にまでなるんじゃないの?」
「限界になったら、気絶して寝ると思います」
良いとか悪いとかって問題じゃない。だからそう答えると、紫子さんはやれやれって言うようにため息をついた。
「医者としてはそう言う無茶は止めたいし、アタシ個人としては谷君の恋を応援したいけどね」
「……すみません」
「良いわよ。恋は尊く素晴らしいって思うけど、確かにマイノリティが生き難いのは事実だし」
マイノリティは生き難い。紫子さんが言うと、すごく重みがある台詞だな。
「オネェだからってだけじゃないわよ? この学校では当たり前だけど、恋愛対象が男って言うのもそうだしね」
「やっぱり、そうですよね……」
「だけど、そんな理屈が通用しないのも恋よ?」
続けられた言葉に、俺は驚いて紫子さんを見返した。そんな俺に、紫子さんが優しく笑いかけてくる。
「知り合いに『考えるな、感じろ』って言われました」
「まぁ、勇ましい」
コロコロと笑う紫子さんのさっきの言葉は、マイノリティ発言以上に説得力があった。
聞けないけど、紫子さんも誰かに、そして男に恋してるんだと思う。
「アタシの愛しいハニーは、異母弟君と同じ子を好きになっちゃったりしてるしね」
「……はぁ」
「理屈じゃないし、止められないわよねぇ……アタシ達、つき合ってる訳じゃないし。ま、おかげでつけ込む隙が出来たけど」
そう話を締め括った紫子さんは、笑ってはいたけど何だか悪い顔をしていた。
(ご愁傷様)
誰かは知らないけど、紫子さんに好かれている『ハニー』さんとやらに、俺は心の中で合掌せずにはいられなかった。
※
「いきなり薬って訳にもいかないから、まずはコレ、試してみて?」
そう言って、紫子さんが淹れてくれたのはハーブと紅茶のブレンドティーだった。ハーブはレモンバームって、心の疲れを癒してくれるものらしい。
効果を先に聞かされてたのもだけど、紫子さんに話を聞いて貰ったからなのか――おかげで俺は、昼までグッスリ眠ることが出来た。久しぶりに腹が空かなければ、もっと寝ていたかもしれない。
コンコンコン。
そんな訳で、差し入れのおかゆを食べていた俺の部屋のドアが、不意にノックされる。
時計を見ると、昼休みの時間帯で――誰だろう、と首を傾げた俺の耳に、思いがけない声が届いた。
「いず、大丈夫か?」
「……マリア、さん?」
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