弟はバケモノ【完結】

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 ひどく腹が痛む。それは腹痛とは少し違うような気もした。気持ち悪さと不快感に思わず顔を顰める。
  あと数日でこの家とはおさらば出来て、尚且つ念願の一人暮らしが出来るというのに嫌な気分である。今の俺はきっと、苦虫を噛み潰したかのような顔をしているに違いない。
 あらかた片付いてきた部屋はいつの間にか薄暗くなっていた。辺りをぐるりと見渡した俺は、ずっと過ごしてきた部屋に侘しさを感じつつ息を漏らし、ベッドへ腰を下ろす。ベッド近くにある小窓から風が吹き、頬を掠めた。夜に足を踏み入れた世界は静けさを孕ませ、空には輝きが散っている。少し肌寒いなと思い窓を閉めた俺の耳に、ドアの開閉音が聞こえた。
 振り返るとそこにはバケモノが立っていて、その姿が弟のユウイチであるものだと察し胸を撫で下ろす。廊下から漏れる電気で逆光になった彼は、映画に出てくる宇宙人のようでとても不気味だ。

「……ビックリさせんなよ」

 吐き捨てるように呟き、視線を逸らす。部屋の電気を付けようとベッドから立ち上がり、壁際にあるスイッチに近づいた。不意に、明かりをつけようとした俺の手に何かが這う。ぬるりとしたそれを払い除け弟を睨んだ。

「キモい、やめろ」

 大きな目が、ジィとこちらを見つめる。伸びた触手が首に絡まり、気道を絞められた。後ろへ勢いよく引かれ、俺は喉の奥から潰れたカエルのような声を漏らす。そのままベッドに引きずり戻され、シーツに押し付けられた。首に巻き付いた滑りのある触手を解こうと爪を食い込ませるが、力が入らない。ユウイチは俺の表情を観察し、裂けた口から鋭い歯を溢した。愉快げにあげる声が不愉快で眉を歪めた。
 その口の隙間から長い舌が伸び、唇を割いて中へ侵入する。なんとも言い難い味が広がり、吐き気を催した。しかし、吐き出そうとするたびに喉に絡まった触手が締まる。反射的に足がバタバタと蠢き、埃が舞った。

「はっ、はっ、はっ、ゆ、ユウっ……」

 唾液を啜りながら離れたユウイチを、懇願するように見上げる。けれど、声を上げようとした途端に首を絞められ、呼吸ができなくなった。

「ーッ! ッ、ー……!」

 下半身に触手が伸び、器用に服を脱がし始めた。霞んだ意識の中、必死に払おうと藻掻く。拙い抵抗はあっさりと退けられ、別の触手が手首に絡んだ。

「……はぁっ、やめろ。はっ、今日は、体調が悪い、んだ……っ」

 ようやく首に巻き付いていた触手が解かれた俺は、酸欠になりながら言葉を紡ぐ。肩を揺らしながら咳き込み、ベッドシーツを握りしめた。

「だから、いやだ。やめろ。頼むか、らっ……!」

 ユウイチによって脱がされた衣類が床に落ちる。体をうつ伏せにされ、ベッドに押し付けられた。そのまま彼の触手がジワリと太ももを這い、後孔へ伝う。ぬるりと入り込んだそれに、全身が痺れた。鳥肌が立ち、悲鳴が漏れる。嫌だと繰り返す俺の後頭部を押さえつけ、枕へ沈めたユウイチが耳元へ近づいた。金切り声が何を言っているのか、俺には分からない。
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