かべいちまい

なかあたま

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「じゃあ、セックスフレンドってやつですか?」
「そう。それ。それです」
「じゃあ、貴方は誰のものでもないんですか?」
「え? あ、はぁ。まぁ、そういうことに、なりますね」

 彼の問いに、俺は困惑した。
 友人同士(しかも男同士だ)(おまけに相手は彼女持ち)がだらだらとセフレを続けており、その喘ぎ声を聞かされているというのに、彼は気にしていないようだった。
 ジィと綺麗な眼に見つめられ、頬が引き攣る。
 ────どうしたのだろうか。
 あの、と口火を切ろうとした俺の耳に、彼の声が響く。

「じゃあ、僕の童貞を貰ってくれません?」
「へ、へぇ!?」

 素っ頓狂な声が響く。
 彼は口角を上げ、静かに笑った。

「声、大きいですね」

 なんだかその声色がやけに色気を帯びていて、俺は背筋に汗を滲ませた。

「な、何がどうなってそんな話になるんです!」
「だって、伊武さんはご友人とお付き合いなさってないんですよね? じゃあ、浮気ってことにならないし、一回だけでいいんで僕の相手をして欲しいんです」
「なんで!」

 彼の理解不能な思考回路に、眩暈がした。
 ていうか、こんなに作りの良い造形をした顔に、恵まれた体型。品の良さを滲み出した男が童貞? 世の女性には、彼が見えていないのだろうか。
 それとも、彼の理想が高い? いや、理想が高かったら俺みたいな男に童貞を奪ってくれなど言わないだろう。

「……ゲイなんですか?」
「いえ、違います」

 ハッキリとした口調で返される。
 衛藤が眼鏡をゆっくりと外した。
 その仕草に、思わず心臓の奥が脈打つ。

「……話を聞いてたら、僕もそういう行為に興味が湧きまして。────気持ちが良いから、ご友人との関係を続けているんですよね? じゃあ、僕に挿入されたらもっと気持ちいいかもしれませんよ?」

 天使のような穏やかさを滲ませた彼からは想像できないほどの、悪魔のような囁きだ。
 確かに、俺は笹原しか知らない。
 もし、他の人間に挿入されたら、別の何かが開花するかも。
 などという男の本能が、俺の正常な判断を鈍らせる。
 ────これだから、男ってやつは。
 自分を制御できない甘さに叱咤した。
 だが、その意識さえも、既に服に手をかけ始めている衛藤に乗っ取られつつある。
 なんとか抵抗しようとした俺の頬を、大きな手が包み込む。
 熱い掌に、俺は口を噤んだ。
 そのまま、カーペットに押し付けられる。
 柔い素材のそれは、彼の微笑みのように俺を受け止めた。

 「ちょ、ちょっと」

 雰囲気に流されかけ、俺は声をあげた。
 彼の体を押し返そうと、胸板に手を置く。
 程よくついた筋肉が手のひらに触れ、思わず喉を鳴らした。
 彼の無垢な瞳が俺を見下ろす。

「……駄目ですか?」
「いや、ダメでしょう」
「……僕、貴方達のせいで寝不足だし、喘ぎ声で勉強に集中できないんですよ」

 急にしゅんとした顔つきになり、目を伏せた。
 そんな彼の様子に当惑する。
 胸板に置いていた手を離し、その手の行き場が見当たらずそのまま自分の服を握りしめる。

「そ、それは本当に申し訳ないです。だから、今日、謝罪しに────」
「菓子折りだけで、許されると思ってますか?」

 自身の服を握りしめていた手を掬い取られ、カーペットに押し付けられる。
 指の間に彼の長い指が入り込み、ぎゅうと握り込まれた。
 唐突な恋人繋ぎに、耳が赤く染まる。

「え、えっと」
「だから、僕の言うこと聞いてくれませんか? ね? 贖罪だと思って……」

 確かに。彼は被害者で、俺は加害者だ。
 彼の新生活を握りつぶした罪を、そこら辺に売っている菓子折りで償われるとは思っていない。
 ────だからと言って、話が飛躍しすぎている。
 そう思うが、口には出せない。
 フフとほんの少し意地悪げに微笑んだ彼の顔が近づき、柔い唇が口に触れる。
 そのまま、ぬるりとした舌が前歯を擽った。
 漏れた吐息に、彼の口角が上がるのが分かり、額に汗が滲む。
 手を握る力が強まり、更に舌が口内に侵入する。
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