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「え、でも。そんな。迷惑でしょう」
「良いんです。今、ちょっと勉強してて、息抜きしたかったんです。お話し相手になってください」
「じゃあ、お言葉に甘えて」と玄関を潜る。
彼に導かれるように部屋へ上がり、草色のカーペットへ腰を下ろした。
「ちょっと待っててね」と彼が一言残し狭いキッチンで湯を沸かし始める。
ぐるりと部屋を見渡す。俺の部屋と作りは変わりないはずなのだが、どうもこちらの方が広く感じてしまう。
部屋の隅に置かれた簡易的な机と、小ぶりな本棚。部屋の中央に置かれたローテーブルと、シングルベッド。
それ以外に特に目立つものはなく、ごちゃごちゃとした自分の部屋とは全く違う印象を受けた。
チラリと机の方へ視線を投げる。ノートパソコンの隣に、分厚い本が積み上げられている。
きっと勤勉家なのだろう。彼が机に向かって勉強をしている姿が、安易に想像できた。
「お待たせしました。どうぞ」
小皿に分けられた菓子とミルクティーをローテーブルに置いた彼が、隣に座った。
「ミルクティー、甘くしすぎたかも。口に合わなかったらごめんね」と微笑む彼は、欠伸を一つした。
その仕草に、俺は背筋が固まる。
「あっ、あの。えっと、昨日は本当に、うるさくしてすみませんでした。眠れなかったでしょう? 昨日────いえ、貴方が越して来てから、ずっとうるさいですよね。本当に、なんと謝罪していいか」
額に滲む汗を服の袖で拭いながら、俺は顔を俯かせた。
彼は慌てて言葉を紡ぐ。
「あぁ、僕が欠伸してるから気になさってるんですね? これは昨日の夜遅くまで勉強してたから、寝不足なだけですよ」
彼が懸命に勉強に勤しむ中、俺の無様な喘ぎとベッドの軋む音がこの部屋に漂っていたのだと考えると、今すぐに包丁を心臓に刺してしまいたくなった。
深くため息を吐きながら両手で顔を覆う。衛藤が頬を掻いた。
「そ、それに。そんなに響いてないですよ。声」
「……でも。聞こえては、いるんですよね?」
「……ハイ」
長い沈黙の後、彼が気まずそうに頷く。
俺は再度、声を噛み殺しながら両手で顔を押さえた。
「恋人同士の営みなんて、恥ずべきことではありませんよ。それに、勉強に集中したら、気になりませんし」
「そういう問題じゃ────って、俺と笹原は恋人なんかじゃありません!」
ローテーブルを乱暴に叩き、俺は怒鳴ってしまった。
ズレた眼鏡をクイと上げ、目をまんまると見開いた衛藤と目が合う。
思わず「すみません」と肩を竦めた。
「……違うんですか?」
その言葉を皮切りに、俺は彼へ不満をぶちまけた。
酒に流され関係を持ったこと。笹原には彼女がいること。
その彼女に、俺は罪悪感を抱いているということ。
関係を終わらせて、昔のような友人関係に戻りたいこと。
俺が挿入されている側だとか、なんで易々と流されたくせに今頃になって文句タラタラなのか、とか。
そんな部分は横に置いといて、俺は全てを曝け出した。
既に喘ぎ声を聞かれているのだ。恥などない。
一通り話し終えた俺は、肩で呼吸をしながら彼を見つめた。真っ直ぐな黒々とした瞳が、レンズ越しに俺を射る。
初対面の頃には装着していなかったがメガネ姿も様になっているなぁ、とぼんやりと考えていると彼が口を開いた。
「良いんです。今、ちょっと勉強してて、息抜きしたかったんです。お話し相手になってください」
「じゃあ、お言葉に甘えて」と玄関を潜る。
彼に導かれるように部屋へ上がり、草色のカーペットへ腰を下ろした。
「ちょっと待っててね」と彼が一言残し狭いキッチンで湯を沸かし始める。
ぐるりと部屋を見渡す。俺の部屋と作りは変わりないはずなのだが、どうもこちらの方が広く感じてしまう。
部屋の隅に置かれた簡易的な机と、小ぶりな本棚。部屋の中央に置かれたローテーブルと、シングルベッド。
それ以外に特に目立つものはなく、ごちゃごちゃとした自分の部屋とは全く違う印象を受けた。
チラリと机の方へ視線を投げる。ノートパソコンの隣に、分厚い本が積み上げられている。
きっと勤勉家なのだろう。彼が机に向かって勉強をしている姿が、安易に想像できた。
「お待たせしました。どうぞ」
小皿に分けられた菓子とミルクティーをローテーブルに置いた彼が、隣に座った。
「ミルクティー、甘くしすぎたかも。口に合わなかったらごめんね」と微笑む彼は、欠伸を一つした。
その仕草に、俺は背筋が固まる。
「あっ、あの。えっと、昨日は本当に、うるさくしてすみませんでした。眠れなかったでしょう? 昨日────いえ、貴方が越して来てから、ずっとうるさいですよね。本当に、なんと謝罪していいか」
額に滲む汗を服の袖で拭いながら、俺は顔を俯かせた。
彼は慌てて言葉を紡ぐ。
「あぁ、僕が欠伸してるから気になさってるんですね? これは昨日の夜遅くまで勉強してたから、寝不足なだけですよ」
彼が懸命に勉強に勤しむ中、俺の無様な喘ぎとベッドの軋む音がこの部屋に漂っていたのだと考えると、今すぐに包丁を心臓に刺してしまいたくなった。
深くため息を吐きながら両手で顔を覆う。衛藤が頬を掻いた。
「そ、それに。そんなに響いてないですよ。声」
「……でも。聞こえては、いるんですよね?」
「……ハイ」
長い沈黙の後、彼が気まずそうに頷く。
俺は再度、声を噛み殺しながら両手で顔を押さえた。
「恋人同士の営みなんて、恥ずべきことではありませんよ。それに、勉強に集中したら、気になりませんし」
「そういう問題じゃ────って、俺と笹原は恋人なんかじゃありません!」
ローテーブルを乱暴に叩き、俺は怒鳴ってしまった。
ズレた眼鏡をクイと上げ、目をまんまると見開いた衛藤と目が合う。
思わず「すみません」と肩を竦めた。
「……違うんですか?」
その言葉を皮切りに、俺は彼へ不満をぶちまけた。
酒に流され関係を持ったこと。笹原には彼女がいること。
その彼女に、俺は罪悪感を抱いているということ。
関係を終わらせて、昔のような友人関係に戻りたいこと。
俺が挿入されている側だとか、なんで易々と流されたくせに今頃になって文句タラタラなのか、とか。
そんな部分は横に置いといて、俺は全てを曝け出した。
既に喘ぎ声を聞かれているのだ。恥などない。
一通り話し終えた俺は、肩で呼吸をしながら彼を見つめた。真っ直ぐな黒々とした瞳が、レンズ越しに俺を射る。
初対面の頃には装着していなかったがメガネ姿も様になっているなぁ、とぼんやりと考えていると彼が口を開いた。
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