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とある研究者の悲劇
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◇
目が眩むほど白い世界が、広がっていた。
この地下研究所へ招かれた時から、ずっと思っていたことだ。
ここは気が狂うほど、白い。
シミひとつない、無垢な世界。
気を抜いてしまえば、その白と同化してしまいそうな感覚に陥る。
眩む目を擦り、うつ伏せに倒れた身体を起こそうと腕を突っぱねる。
途端、視界の端に蠢く何かがあった。咄嗟に身体を起こし、後退りをする。その何かの存在は僕が一番よく知っている。踵を返し、閉ざされた扉を何度も力強く叩いた。
びくともしない扉は、まさしく怪物を閉じ込めておくには申し分ない頑丈さだ。内側には取手は無く、まっさらな壁に見えた。
扉の隙間に爪を引っ掛けこじ開けようと試みるが、しかし隙間がない。僕は声が枯れるまで叫び、手を打ちつけた。
「博士、博士! お願いします、あけ────」
開けてくれと懇願する前に、口元にぬるりとした触手が纏わり付く。
瞬間、脳の裏がサッと冷えた。全身に汗が滲み、死を予感する。
グイと引き寄せられ、扉から遠ざかった。
僕は抵抗もできないまま、彼────E-16の元へ引き摺られる。
そこで初めて、視界いっぱいに彼の姿を捉えた。
彼は部屋の隅に身を寄せ、壁に触手を張らせていた。床にも蠢く触手が広がっており、一面が黒く染まっている。
真正面から見た彼は監視室からガラス越しに見た姿より大きく見え、恐怖心をさらに煽る。
巨大な人型の塊は、こちらを見下ろすように前屈みになっていた。
塞がれた口元の触手が解かれ、必死に酸素を肺に送り込んだ。
「はっ、はっ、はっ」
彼に口を塞がれた上に、怯えと緊張感でまともに呼吸が出来ない。
額に滲んだ汗が頬を伝い、落ちる。足は今にも崩れそうなほど震えており、支えるのがやっとだ。
シュルリと触手が頬を撫でる。汗を拭うような仕草をした後、そのまま首元へ移動した。
殺される。そう確信した。首を締め付けられ、殺される。助けて、と叫ぶ前に彼は僕を締め殺す。
そう考えた途端、突発的に足が動いた。地面を蹴り、正面にある鏡へと縋りつく。
部屋全体を反射させているその鏡は、監視室からコチラを覗くために設置されているマジックミラーだ。
僕は鏡を叩き、叫ぶ。
「誰か、助けて! 殺されるっ、うわっ」
足首に触手が絡み付いた。グンと引っ張られ、前のめりに転び、鏡に額を強打する。痛みが全身に広がり、唸り声を上げた。そんな僕を無視し、触手がズルズルと体を引っ張る。艶やかな床に倒れたまま、泣きじゃくった。
「こんなの、こんなの、おかしい、やめて、死にたくない、ひゃっ!」
自分でも驚くほどの甲高い声をあげた。
それもそうだ。触手がベルトを緩め、ワイシャツの隙間から侵入していたのだ。あっという間に、臍からあばらへ、そして脇へ這う。
「ひっ、やめて、なにす────うあっ! あ、あっ!」
ぎゅうと胸の突起を摘まれ、口から喘ぎ声を漏らした。摘んだかと思えば、吸い付かれ、やがてまた摘む。
まるで人間が致すかのような緩急を仕掛けるE-16に、混乱する頭の片隅でこんな器用なことができるのか、と関心を抱いた。(最悪な状況下でも探求心を忘れないのは、研究者の悲しき定めと笑うべきか)
「あっ、あぁっ、は、はっ…!だめ、そんなところ、入れるなっ」
別の触手が臍へ滑り込む。グリグリと中へ入り込もうとする仕草に恐れを覚え、足をばたつかせ抵抗した。
「ダメだって、だめっ、ひぃっ!」
ズボンの中へ侵入した触手が下半身を弄る。臀部を這ったそれが、後孔へ無理やり入ろうと藻掻く。
だが、滑りもないそこには捩じ込むことが困難だと察したのか、触手の先から粘液を滲ませた。
滑りが良くなった後孔へ、一気に触手が突き立てられる。全身に電撃が走り、背中が弧を描くように反った。
今まで経験したことのない圧迫感と不快感、そして恐怖が僕を支配する。
床に立てた爪が血を滲ませた。
「しぬ、しぬぅッ……お゛っ!」
まるで「何か」に見立てた触手が後孔を出入りする。
ぬちぬちと粘っこい音が耳に届き、僕は顔を伏せ唇を噛み締めた。
鼻から短く息を漏らし、このふざけた悲劇に耐える。
────なんでこんなことを? どうして、どうして。
乖離しかける意識の中、どうしてE-16がこんなことをするのか分からず、パニックに陥る。
⬜︎⬜︎⬜︎
加筆+既存の作品が修正されたバージョンがKindleにて電子書籍で出ています。
読み放題でしたら無料となりますので、もしよろしければお暇つぶし程度に読んでいただけますと嬉しいです。
プロフィールのリンクから、もしくはAmazonで「侵食」で検索していただけますと幸いです。
目が眩むほど白い世界が、広がっていた。
この地下研究所へ招かれた時から、ずっと思っていたことだ。
ここは気が狂うほど、白い。
シミひとつない、無垢な世界。
気を抜いてしまえば、その白と同化してしまいそうな感覚に陥る。
眩む目を擦り、うつ伏せに倒れた身体を起こそうと腕を突っぱねる。
途端、視界の端に蠢く何かがあった。咄嗟に身体を起こし、後退りをする。その何かの存在は僕が一番よく知っている。踵を返し、閉ざされた扉を何度も力強く叩いた。
びくともしない扉は、まさしく怪物を閉じ込めておくには申し分ない頑丈さだ。内側には取手は無く、まっさらな壁に見えた。
扉の隙間に爪を引っ掛けこじ開けようと試みるが、しかし隙間がない。僕は声が枯れるまで叫び、手を打ちつけた。
「博士、博士! お願いします、あけ────」
開けてくれと懇願する前に、口元にぬるりとした触手が纏わり付く。
瞬間、脳の裏がサッと冷えた。全身に汗が滲み、死を予感する。
グイと引き寄せられ、扉から遠ざかった。
僕は抵抗もできないまま、彼────E-16の元へ引き摺られる。
そこで初めて、視界いっぱいに彼の姿を捉えた。
彼は部屋の隅に身を寄せ、壁に触手を張らせていた。床にも蠢く触手が広がっており、一面が黒く染まっている。
真正面から見た彼は監視室からガラス越しに見た姿より大きく見え、恐怖心をさらに煽る。
巨大な人型の塊は、こちらを見下ろすように前屈みになっていた。
塞がれた口元の触手が解かれ、必死に酸素を肺に送り込んだ。
「はっ、はっ、はっ」
彼に口を塞がれた上に、怯えと緊張感でまともに呼吸が出来ない。
額に滲んだ汗が頬を伝い、落ちる。足は今にも崩れそうなほど震えており、支えるのがやっとだ。
シュルリと触手が頬を撫でる。汗を拭うような仕草をした後、そのまま首元へ移動した。
殺される。そう確信した。首を締め付けられ、殺される。助けて、と叫ぶ前に彼は僕を締め殺す。
そう考えた途端、突発的に足が動いた。地面を蹴り、正面にある鏡へと縋りつく。
部屋全体を反射させているその鏡は、監視室からコチラを覗くために設置されているマジックミラーだ。
僕は鏡を叩き、叫ぶ。
「誰か、助けて! 殺されるっ、うわっ」
足首に触手が絡み付いた。グンと引っ張られ、前のめりに転び、鏡に額を強打する。痛みが全身に広がり、唸り声を上げた。そんな僕を無視し、触手がズルズルと体を引っ張る。艶やかな床に倒れたまま、泣きじゃくった。
「こんなの、こんなの、おかしい、やめて、死にたくない、ひゃっ!」
自分でも驚くほどの甲高い声をあげた。
それもそうだ。触手がベルトを緩め、ワイシャツの隙間から侵入していたのだ。あっという間に、臍からあばらへ、そして脇へ這う。
「ひっ、やめて、なにす────うあっ! あ、あっ!」
ぎゅうと胸の突起を摘まれ、口から喘ぎ声を漏らした。摘んだかと思えば、吸い付かれ、やがてまた摘む。
まるで人間が致すかのような緩急を仕掛けるE-16に、混乱する頭の片隅でこんな器用なことができるのか、と関心を抱いた。(最悪な状況下でも探求心を忘れないのは、研究者の悲しき定めと笑うべきか)
「あっ、あぁっ、は、はっ…!だめ、そんなところ、入れるなっ」
別の触手が臍へ滑り込む。グリグリと中へ入り込もうとする仕草に恐れを覚え、足をばたつかせ抵抗した。
「ダメだって、だめっ、ひぃっ!」
ズボンの中へ侵入した触手が下半身を弄る。臀部を這ったそれが、後孔へ無理やり入ろうと藻掻く。
だが、滑りもないそこには捩じ込むことが困難だと察したのか、触手の先から粘液を滲ませた。
滑りが良くなった後孔へ、一気に触手が突き立てられる。全身に電撃が走り、背中が弧を描くように反った。
今まで経験したことのない圧迫感と不快感、そして恐怖が僕を支配する。
床に立てた爪が血を滲ませた。
「しぬ、しぬぅッ……お゛っ!」
まるで「何か」に見立てた触手が後孔を出入りする。
ぬちぬちと粘っこい音が耳に届き、僕は顔を伏せ唇を噛み締めた。
鼻から短く息を漏らし、このふざけた悲劇に耐える。
────なんでこんなことを? どうして、どうして。
乖離しかける意識の中、どうしてE-16がこんなことをするのか分からず、パニックに陥る。
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