ムテキのオタクくん

なかあたま

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「き、もちいいですッ、ぅ゛、あ゛」
「おっきいの、中に入ってて、気持ちいいんだ?」
「は、い゛」

 ぬぶぬぶと下品な音が、後孔から聞こえる。性器が出入りするたびに、縁に溜まったローションが擦れているのだ。
 城上はカメラを挿入部分に向け、わざとらしく亀頭を出し入れする。その都度、ぐぽっと言う音が響いた。耳を塞ぎたくなった俺は、しかし学生証を落とせず、作っているピースを崩せないままだ。

「あ゛、あっ、あっ、あー……ッ」

 名前と学校名と住所を言えと城上に指示されて、ぼんやりと靄がかかった脳を回転させ、言葉を漏らす。レンズを見つめながら、学生証を掲げ、途切れとぎれに言葉を吐いた。
 城上が俺の頬を撫でる。「かわいいねぇ」と口角を緩ませる彼が、スマホを下ろした。

「もう、我慢できないよ」

 城上が腰を掴んだ。そのまま、動きを激しくする。あ、達するのだな。と、頭の片隅で思った。腹の奥を突き破らんとする性器に恐怖を覚えながらも、けれど確実に前立腺を抉る仕草にどうしようもない感覚に襲われる。

「あー……イきそう、いきそう。ねぇ、河崎くん、イきそう。中に出していい? いいよね?」

 熱を帯びた声が蛞蝓のように鼓膜を這う。気持ち悪さに吐き気を覚えつつ、しかし抵抗できない俺は何も言えないまま、喘ぎを漏らさぬため唇を噛み締めた。

「ぎっ……!」
「中に出していいかって聞いてんだよ」

 拳で顔面を殴られる。何度も殴られた鼻先が、再び強い力を加えられた。顎を掴まれ、その衝動で鼻血が垂れる。固まっていたものと混じり、更に呼吸がしづらくなった。
 呼吸をするたびに、スピスピと場に似合わない間抜けな音が漏れる。

「いい?」
「はい゛」
「違う、中に出してくださいってお願いするんだよ」

 顎を掴む指先に力が籠る。骨を砕かれそうなほどの力に、涙が溢れた。

「なかに、出して、ください」

 満足した城上はニタリと不気味に笑った。そのまま、腰を掴み、奥へ叩きつける。「あぁ、最高だよ。かわいいよ河崎くん。本当に、かわいい。大好き」。呪いのように繰り返され、夢なら早く醒めてくれと懇願する。しかし鼻の痛みも腹を抉る苦しみも、全ては現実だった。

「あ゛────」
「ッ……」

 亀頭が最奥まで到達し、そこで射精する。ビクビクと蠢く性器と放たれる熱い精液が粘膜越しに伝わり、指先が震えた。種付けするように何度も内部に精液を塗りつけた城上は、名残惜しそうに腰を引く。
 ごぽりと下品な音がして、後孔から粘り気のある精液がこぼれた。
 それを見て、城上は笑う。

「気持ちよかったよ、河崎くん」

 その笑みが不気味で、全身に鳥肌が立った。「あーあ、顔ぐちゃぐちゃだね」と言いながら、腫れた頬と何度も殴られた鼻を指先で撫でる。まるで長年大切にしてきた宝石を愛でるような愛撫に、なんとも言えない感情が湧き上がる。
 ────本当に、なんなんだコイツは。
 訳のわからない城上の行動を、今さら理解しようとは思わない。だから、すぐにでも離れて欲しいと願った。

「これ、痛いね? 解いてあげる」

 血が滲んだ麻縄を解き、俺の手をとった。そのままべろりと傷跡を舐められ、痛さに喉が引き攣る。

「ごめん。でも、河崎くんって痛がってる顔も可愛いね」

 抑揚のない声でそんなことを言われても、なんと返して良いかわからない。俺は身を捩らせ、なんとか彼から離れようとした。
 俺を引き摺り戻し、自身のスマホを目の前に掲げる。
 画面には、先ほど撮影されたであろう俺の動画が映っていた。鼻水と鼻血、涙と唾液でぐちゃぐちゃな顔の俺が、必死に自分の名前を言っている。ご丁寧に画面には、俺の後孔に城上の性器がみっちり挿入されている部分が収まっていて、悲鳴をあげそうになった。

「今日のことバラしてもいいよ」

 城上が熱のない声でそう呟く。その声は、真冬の朝のように冷たくて、俺は身震いをした。

「別に、僕はもう何も失うものがないからね。好きに言ったらいいさ。多少は湾曲しても構わないよ。でも────」

 画面の中で、俺が必死に言葉を漏らし喘いでいる。漏れる光が目を焼いた。額に滲んだ汗が、じわりと伝い落ちる。

「その時は、この動画をばら撒く。君の親、親の職場、友人────ネット上の人たちにも見てもらおうよ」

 その言葉に、全身が固まった。脳みそが揺れ、一瞬、時が止まる。

「お父さんは五行座工業の営業。お母さんは主婦をやりながら生花教室の先生をやってる」

 ドキリと心臓が跳ねる。なんでそんなことまで知っているのだ。だって、城上は俺と接点がない。学校で連む連中ですら、俺の両親の仕事を知らないはずだ。
 何故、何故────。

「それぞれに動画を送って、ついでに関わってる人たちにも送っちゃおうかな」

 そんなこと、できる訳ない。でも、でも。彼ならできるかもしれない。

「あとは、いつも仲良くしてる友人だね。いや、クラス中の人にばら撒こうかな。あとはネット。不特定多数がこの動画を見ることになるよ」

 震えが止まらない。ばら撒いたら、直接的なダメージを受けるのが俺だとしても、のちに痛い目を見るのは彼だ。それであるにも関わらず、彼はその制裁を受け入れる覚悟がある目をしている。
 何故なら────。

「僕はね、捨てるものがない。だから、何でもできるよ」

 彼は無敵の人だからだ。俺を陥れるためなら手段を選ばない。それが破滅の道に進んでいたとしても、だ。
 俺は眩暈を覚えた。何故、ここまでして俺に固執するのだろうか、この男は。

「な、んで……」

 ひとりごちた言葉は、静かな教室の天井に張り付き、やがて消えた。
 城上が笑う。唇の隙間から見える歯がやけに白く見えた。

「ずっと好きだったんだ。初めて会った時に、一目惚れをしたんだ。いつかこうやって、抱きたいって思ってた」

 「は────」。俺は咄嗟に息を漏らし、黙ってしまった。行為中にも言っていたが、こいつは本当に俺のことを「好き」なのか。うまく言葉を噛み砕けず、俺は狼狽えた。

「君から、別に好かれたいだなんて思ってないから、安心して。でも、僕は君のことを、好きだよ。それだけを、知っていてくれればいいから」

 城上はいつも教室で見るような無の表情に戻った。

「明日も同じ時間、ここに来て。いいね?」

 俺は固まった鼻血をズピッと鳴らし、頬を引き攣らせることしか出来なかった。
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