魅了と君と

なかあたま

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「なんだこれ」

 俺は開いた魔導書に書かれた文字を見て、顔を顰めた。そこには「魅了」と記載されている。
 そんな魔法あったかな、と唸る。記憶を呼び起こしてみても、知り合いの魔術師が使っているところを見たことがない。
 もしかして、禁忌魔法なのか? と思い、ページを捲る手を止める。
 書かれている内容を読んでみたが、危なっかしい魔法には感じなかった。
 効果は、文字通り「魅了」。相手を精神的に惹きつけ、こちらへ好意や愛情を持たせるものだ。
 「魅了」にかかった魔物はその間、無防備になる。魔物が惚けている隙を突き、仕留める魔法らしい。
 ────あんまり使えない魔法だな。
 「魅了」で無駄な魔力を使うより、攻撃魔法を打ち込んだ方がいいに決まっている。
 だからこそ、だれも習得しないのだろう。この魔法を使っている魔術師を見かけなくて当然だ、と思いページをめくろうとした。
 そこで、手が止まる。
 ────これ……。
 ふと、ある考えが浮かぶ。
 俺は、思わず口角を緩ませていた。



「今度の依頼、隣町まで行かなきゃいけないらしいぜ。本当、面倒くせぇよな」

 親友であるシルリルが肩をすくめた。その度に、背負っている大剣が揺れる。
 銀髪が靡き、太陽光でキラキラと輝く。
 「な、本当、面倒くせぇよな」。俺は彼の表情を眺め、小さく頷いた。
 シルリルは、同じギルドに在籍している幼馴染だ。決して大きいとは言えない体格で大剣を振る舞う彼は、同じギルドメンバーとして誇らしい存在である。

「そういえば、ギルド受付嬢のセツナ、辞めるらしいぜ。なんか、色々仕事押し付けられてたっぽかったもんなぁ」

 シルリルのどうでもいい世間話を聞きながら、俺たちはいつもの稽古場に来ていた。(稽古場と言っても、人気がない川のほとりだ。終わった後は汗を流せるから、ここを稽古場にしている)
 俺は、いつ彼に「あのこと」を切り出そうかと考え、落ち着けずにいた。
 ソワソワした俺を気にしていないシルリルは大剣を下ろし、服を脱ぎ始める。いつも通りの軽装になった彼は、目を細めて俺へ視線を投げた。

「どうした? 今日は稽古サボって、鹿でも狩りに行くか?」
「いや、あぁ……ちょっと、話したいことがあるんだが、いいか?」

 俺も服を脱ぎ、軽装になった。ぐるりと首を動かし、目を泳がせる。

「俺さ、ここ最近、魔法も学ぶようになっただろ?」
「あぁ、そうだな。タギルはすげぇよな、剣も魔法も使えてさ」

 シルリルは「俺、全く使えないから羨ましいよ。手から炎とか出してみてぇ」と、白い歯を見せる。
 そんな彼を見て、ごくりと唾液を嚥下した。

「……で、ちょっと、学んだ魔術を、試したくてさ」
「は? 俺に? ちょっと、待てよ。避け切れるかなぁ」

 シルリルは浮ついた声を上げ、軽やかにステップを踏んだ。
 さぁ、来い。そう言いたげに俺へ構えのポーズを取る。

「あ、いや、学んだのは攻撃魔法じゃないんだ」
「なんだよ。つまんね」

 シルリルは肩をすくめて構えのポーズを解いた。「で? どんな魔法だよ? 花を咲かせるとか?」と馬鹿にしたような笑みを浮かべるシルリル。
 そんな顔の前で、手を翳した。

「……こんなやつ」

 シルリルが口を開く前に、魔法をかける。
 俺は、魔法を使えるが得意な方ではない。故に、本当に習得できたか、そしてその魔法が使えるか、わからなかった。
 一か八かを、この瞬間にかけた。

「……ッ!」

 魔法をかけた途端、シルリルの目がとろんとした。明らかにいつもの彼とは違う目つきと、口元の緩さに心臓が跳ねた。

「シ……シルリル……?」

 おずおずと、俺は彼へ問うた。シルリルはぼんやりとした目のまま、俺をジッと見つめている。
 その顔つきが幼くもあり、妖艶だった。
 下半身が重くなり、ゾクゾクとした何かが背中を駆ける。
 彼へ手を伸ばす前に、シルリルが俺の首へ腕を絡ませた。そのまま、唇を奪われる。

「んっ……」
「……ッ」

 温かく、そして湿った唇。漏れた吐息に、脳が破裂しそうになった。
 自分でもわかるほど、勃起している。
 ジンジンと熱を孕んだそこに、体を密着させたシルリルの皮膚が触れる。
 俺は咄嗟にシルリルの肩を掴み、離した。力任せで引き剥がし、シルリルと見つめ合う。
 潤んだ瞳と、濡れた唇。彼の白い頬が、今まで見た事ないぐらいに朱に染まっている。

「シ、シルリ……」

 言い終える前に、再びシルリルが抱きつき、唇を吸った。
 俺は耐えきれなくなり、彼の口内に舌を捩じ込む。音を立てて唾液を飲みながら、舌を絡めた。
 上顎から舌下まで。くまなく彼の口を俺の舌で占領する。
 シルリルは嫌な顔を一つもせず、俺の唾液を必死に飲み下している。
 ジンジンと痛む脳と下半身を押さえ込み、俺はシルリルの背中に手を回して、強く抱きしめた。
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