魅了と君と

なかあたま

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「あーダル。隣町ってなんでこんなに遠いんだよ。ナナマ、瞬間移動の魔法とかないのか?」
「シルリルくんは治癒師を、なんでもできる便利屋だと思ってるでしょう?」

 ギルドの依頼を受けた俺たち一行は、隣町まで来ていた。
 隣町まで馬車に揺られていた俺たちは、痛む体をなんとか起こし、屋形から降りた。
 治癒師であるナナマが、シルリルの問いかけに肩を竦めた。困ったみたいに笑う仕草は、春に咲く花のようだ。
 「うん、治癒師ってなんでもできる便利屋だと思ってる」と笑ったシルリルに「困ったさんね。私たちにもできないことぐらい、あるわ」とナナマは首を傾げた。

「シルリル、あんまり変なことを言ってナナマを困らせるな」
「だって、瞬間移動ぐらいできると思ったんだよ」

 昨日のことがまるで無かったかのように振る舞う俺は、シルリルの友人失格かもしれない。
 頬を引き攣らせながら話しかける俺に、シルリルは不信感を抱いていなかった。
 逢魔が時にさしかかった空を見上げ、一息つく。

「早く、宿へ行こう。荷物を下ろして、食事を済ませよう」

 俺の声かけに、メンバーが賛同した。
 目的の宿へ向かう間、俺は弓使いのエリカと楽しげに会話しているシルリルの背中を眺める。
 シルリルの頭を掴んだ感触が、まだ手のひらに残っている。
 目を閉じると昨日の出来事が過り、鼻息が荒くなりそうになった。

「────タギル、どう思う?」

 エリカの鈴の鳴るような声で、我に返る。顔を上げると、シルリルとエリカがこちらを見ていた。
 「え?」と声を漏らすと、シルリルがニヤリと笑った。

「おい、何ぼーっとしてんだよ」

 目を細めたシルリルは、何ものにも代え難いほど美しい。
 俺は思わず視線を逸らす。「別に」と言ったきり、口を閉ざした。
 宿屋にたどり着いた俺たちは、受付を抜け二階へ上がる。ドアの前で「部屋割りはいつも通りでいいか」と強張った声を漏らす。
 悟られていないかとシルリルたちへ視線を投げたが、彼らは気がついていないようだ。

「ナナマ、部屋の中を見てみよう」
「エリカ、ちょっと。腕を引っ張らないで」

 浮かれた様子で部屋へ消えていったナナマとエリカを見届け、俺とシルリルも部屋へ入る。
 中は殺風景でベッドが二つと化粧台、窓際に椅子がポツンとある程度だ。

「ふぃ~疲れた~」

 シルリルがベッドにダイブする。軋んだベッドに、心臓が跳ねた。
 いつもなら気にもしない軋みが、やけに艶かしく聞こえた。
 そんな自分に、嫌悪が込み上げる。

「どうした? タギル。なんかボーッとしてるな」

 シルリルが頬杖をつき、俺を見つめた。「べ、別に」と口篭った俺に、シルリルは笑みを浮かべる。

「この依頼が難しいから、悩んでんのか?」

 確かに、今回の依頼は難しいものだ。とある魔物を退治してほしいというものである。
 その魔物は強く、手強い。故に、彼の言うことはあながち間違ってはいない。
 変に悟られぬように「そうだな」と肩を竦めた。

「ははは、弱虫め。俺という大剣使いがいるから安心しろ」

 高飛車に笑い、鼻を鳴らしたシルリルに苦笑いを漏らす。「そうだな、お前を頼りにしてるよ」と冗談っぽく言うと、シルリルはさらに鼻を高くした。
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