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ヨウくんとまひろくん
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「蓮音、お前は危うい。そのうちふらっと誘拐されることだって考えられる」
「されないよー」
「いいや、されるかもしれない。俺はお前が心配なんだ。だから今度から、外へ出かけるときは俺がついていく。いいな?」
自分でも何を言っているんだと考え、頬が熱くなる。けれどこれで彼の合意のもと監視できるかもしれない。
────あの痴漢よりも俺の方がヤバいのでは……。
そこまで考え、かぶりを振る。俺は健全だ。ただ純粋に、まひろが愛しくて、心配なだけなのだ。
「本当? わー、いいね。ヨウくんとお出かけするの、素敵だねぇ。楽しみだなー」
なんの疑いもなく了承したまひろに罪悪感を抱いた。けれど、まひろを近くで監視できるなら好都合だ、と胸を撫で下ろす。
「あ、そういえば」とまひろが何かを思い出したように声を上げた。ズボンのポケットへ手を入れ、何かを引き摺り出した。
彼の手のひらに乗っているのは、いつぞやに見た絆創膏だ。
「これ、欲しかった柄でしょ。あげるー」
差し出されたそれを見て拍子抜けする。別に柄が好きだったわけじゃないが、彼から与えられるものならなんでも嬉しい。俺は受け取ろうと手を伸ばしたがピタリと止まった。
「貼ってくれ」
「え?」
「ここに、貼ってくれ」
ぐいと手のひらを差し出す。そこは少し赤らんでいた。先ほど男と揉めた時にどこかで擦ったあとだろう。
「貼って欲しいの? わがままだねぇ」
子供をあやすような口調で言われて、汗が滲んだ。しかし、恥ずかしさで滲んだ汗ではない。興奮が最骨頂に達し、体に熱が帯びたのだ。
まひろが俺だけのために絆創膏を貼ってくれる。その動向を目に焼き付けるように見つめた。
「はい、これでオッケー。って、また怖い顔してるよ、ヨウくん。嫌だった?」
彼の問いに首を横に振る。
「……こういうこと、俺以外にするなよ」
無意識に嫉妬が滲んだ声が出て、自分でも驚愕した。しかし、まひろはそんな俺の嫉妬心に気が付いてないのか「本当にこの柄が好きなんだね、分かったよ」と笑う。きっと彼の中で俺は「可愛い柄の絆創膏に執着する変なやつ」だと植え付けられただろう。
まひろが、手の中にあるゴミを見つめている。俺が代わりに捨てようかと問いかける前に、そのゴミを指先で三回折りたたんだ。ポケットにしまい、三回そこを叩く。
その様子を見ていた俺に気が付いたのか、まひろがハッとした顔つきになった。
「あ、ごめんねー変だったよね」
「別に、変じゃない。癖なんだろ? 気にすんなよ」
彼は以前、誰かに何かを言われた経験があるのだろうか。だから俺の目を気にしたのだろうか。そう考えると、胸がギュッと締め付けられた。
まひろがジィと俺を見つめ、目を弧にした。
「ヨウくんって優しいね、好き」
「ぐっ」
俺は喉に唾液を詰まらせ、咳き込んだ。ゲホゲホと噎せている俺をまひろが「大丈夫?」と心配する。
「今、なんてっ」
「大丈夫?」
「その、前っ」
「優しくて、好きー」
「ぐっ」
再び噎せる俺を見て、まひろが今度は指を差して笑った。やがて、意を決したように話し出す。
「僕のこと、馬鹿にしないのヨウくんだけなんだぁ。みんな、僕のこと変な子っていうし、僕も自分のこと他の子と違うって思ってた。だから、馬鹿にされても平気だったんだ」
まひろが目を伏せてポツポツと語り出した。いつものぽやんとした彼とは違い、どこか大人びて見えた。
「……ヨウくんはもう忘れちゃったかもしれないけど、前にね、君が僕に言ってくれたんだ。「お前はバカじゃないよ」って。その言葉がね、すごく嬉しかった。僕はあの日から、ずっとヨウくんのことが好きなんだよ」
ふわっと笑い、俺を見上げるまひろ。保健室で言った俺の発言を覚えているとは、と感慨深くなり、涙が出そうになった。俺はその日の出来事を一秒たりとも忘れていないし、まひろの表情筋の動きでさえも脳内に焼き付けられている。(────だなんて言ってしまえばきっと彼は引くだろうから、心の中で留めておこう)
「ごめんね、好きだなんて。気持ち悪いよねぇ」と肩を竦めるまひろにすかさず俺も口を挟んだ。
「俺も蓮音のこと、好きだよ」
「わー、すごーい両思いだねぇ」
子供のようにはしゃぐ彼を見て、俺の思う好きとは程遠い感情を持っているのだろうなと察し、けれど俺と彼の関係はこれで良いのではないかと納得する。俺の何気ない一言がまひろの心を射抜いたのなら、それだけで幸せである。
「ねぇ、ヨウくん」
まひろが不意に俺の手を握った。そのままぐいと引かれ、俺は言葉も出ないまま口をあんぐりと開ける。
「両思いだから、デートしようよ」
そう言いながら俺に微笑みかけるまひろを見て、俺は「あ、えっ……」と情けない声を上げる。彼の柔い手の温かさを感じながら、心臓を高鳴らせた。
────もしかしてこれ、俺の思う好きと同じ感情をまひろが抱いているのでは……。
意外と恋愛ってこうやって始まるものなのかなとしみじみ思いながら、緩む口元を隠すように抑えた。
「されないよー」
「いいや、されるかもしれない。俺はお前が心配なんだ。だから今度から、外へ出かけるときは俺がついていく。いいな?」
自分でも何を言っているんだと考え、頬が熱くなる。けれどこれで彼の合意のもと監視できるかもしれない。
────あの痴漢よりも俺の方がヤバいのでは……。
そこまで考え、かぶりを振る。俺は健全だ。ただ純粋に、まひろが愛しくて、心配なだけなのだ。
「本当? わー、いいね。ヨウくんとお出かけするの、素敵だねぇ。楽しみだなー」
なんの疑いもなく了承したまひろに罪悪感を抱いた。けれど、まひろを近くで監視できるなら好都合だ、と胸を撫で下ろす。
「あ、そういえば」とまひろが何かを思い出したように声を上げた。ズボンのポケットへ手を入れ、何かを引き摺り出した。
彼の手のひらに乗っているのは、いつぞやに見た絆創膏だ。
「これ、欲しかった柄でしょ。あげるー」
差し出されたそれを見て拍子抜けする。別に柄が好きだったわけじゃないが、彼から与えられるものならなんでも嬉しい。俺は受け取ろうと手を伸ばしたがピタリと止まった。
「貼ってくれ」
「え?」
「ここに、貼ってくれ」
ぐいと手のひらを差し出す。そこは少し赤らんでいた。先ほど男と揉めた時にどこかで擦ったあとだろう。
「貼って欲しいの? わがままだねぇ」
子供をあやすような口調で言われて、汗が滲んだ。しかし、恥ずかしさで滲んだ汗ではない。興奮が最骨頂に達し、体に熱が帯びたのだ。
まひろが俺だけのために絆創膏を貼ってくれる。その動向を目に焼き付けるように見つめた。
「はい、これでオッケー。って、また怖い顔してるよ、ヨウくん。嫌だった?」
彼の問いに首を横に振る。
「……こういうこと、俺以外にするなよ」
無意識に嫉妬が滲んだ声が出て、自分でも驚愕した。しかし、まひろはそんな俺の嫉妬心に気が付いてないのか「本当にこの柄が好きなんだね、分かったよ」と笑う。きっと彼の中で俺は「可愛い柄の絆創膏に執着する変なやつ」だと植え付けられただろう。
まひろが、手の中にあるゴミを見つめている。俺が代わりに捨てようかと問いかける前に、そのゴミを指先で三回折りたたんだ。ポケットにしまい、三回そこを叩く。
その様子を見ていた俺に気が付いたのか、まひろがハッとした顔つきになった。
「あ、ごめんねー変だったよね」
「別に、変じゃない。癖なんだろ? 気にすんなよ」
彼は以前、誰かに何かを言われた経験があるのだろうか。だから俺の目を気にしたのだろうか。そう考えると、胸がギュッと締め付けられた。
まひろがジィと俺を見つめ、目を弧にした。
「ヨウくんって優しいね、好き」
「ぐっ」
俺は喉に唾液を詰まらせ、咳き込んだ。ゲホゲホと噎せている俺をまひろが「大丈夫?」と心配する。
「今、なんてっ」
「大丈夫?」
「その、前っ」
「優しくて、好きー」
「ぐっ」
再び噎せる俺を見て、まひろが今度は指を差して笑った。やがて、意を決したように話し出す。
「僕のこと、馬鹿にしないのヨウくんだけなんだぁ。みんな、僕のこと変な子っていうし、僕も自分のこと他の子と違うって思ってた。だから、馬鹿にされても平気だったんだ」
まひろが目を伏せてポツポツと語り出した。いつものぽやんとした彼とは違い、どこか大人びて見えた。
「……ヨウくんはもう忘れちゃったかもしれないけど、前にね、君が僕に言ってくれたんだ。「お前はバカじゃないよ」って。その言葉がね、すごく嬉しかった。僕はあの日から、ずっとヨウくんのことが好きなんだよ」
ふわっと笑い、俺を見上げるまひろ。保健室で言った俺の発言を覚えているとは、と感慨深くなり、涙が出そうになった。俺はその日の出来事を一秒たりとも忘れていないし、まひろの表情筋の動きでさえも脳内に焼き付けられている。(────だなんて言ってしまえばきっと彼は引くだろうから、心の中で留めておこう)
「ごめんね、好きだなんて。気持ち悪いよねぇ」と肩を竦めるまひろにすかさず俺も口を挟んだ。
「俺も蓮音のこと、好きだよ」
「わー、すごーい両思いだねぇ」
子供のようにはしゃぐ彼を見て、俺の思う好きとは程遠い感情を持っているのだろうなと察し、けれど俺と彼の関係はこれで良いのではないかと納得する。俺の何気ない一言がまひろの心を射抜いたのなら、それだけで幸せである。
「ねぇ、ヨウくん」
まひろが不意に俺の手を握った。そのままぐいと引かれ、俺は言葉も出ないまま口をあんぐりと開ける。
「両思いだから、デートしようよ」
そう言いながら俺に微笑みかけるまひろを見て、俺は「あ、えっ……」と情けない声を上げる。彼の柔い手の温かさを感じながら、心臓を高鳴らせた。
────もしかしてこれ、俺の思う好きと同じ感情をまひろが抱いているのでは……。
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