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第一話
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かつて大国に飲み込まれた、小さな王国が有った。
王国には騎士がいた。王国を、民を、家族を守るために勇敢に戦って、最後は破れた。
王国は大国の一地方となり、王は人質として大国の監視下に置かれた。
多くの騎士達は戦場に倒れた。だが、その騎士は大国の軍に捕らえられ、生かされた。
「……ん……あ、あぁ……っ」
男はかつて、王国の騎士団長であった。勇敢で剛直、真っ直ぐな鋼の剣のようだと評されていた騎士であった。
「あっ、あ、ぁん……早くっ……あ……」
床に這ったまま淫らに腰を突き出して、男はねだる。自らの秘所をさらすように指先で押し広げ、誘っている。
彼を取り囲んでいた三人の男達は、猥笑し合ってその痴態を眺めていた。
「あ……どうぞ……? お慈悲を……どうか……っ」
肉欲を堪えきれず、男は唇を舐めた。癖のある黒い髪を三つ編みに結っていて、その先端が背中で揺れる。男の首には、奴隷の証である鉄製の輪。男は奴隷で有った。
男の身体には、不思議な場所が有った。体格も顔立ちも声も。男性そのもので有るのに、ただ足の付け根、ひっそりと息づく性器だけは形が違っていた。
ひくりと震えて口を開けるそれは、蜜を垂らして男を誘う。それは確かに女の形で有った。
大国の兵士たちに捕らえられた騎士は、衣服を剥ぎ取られ、隠し持った武器が無いかと徹底的に改められた。それが済むと、拷問代わりに輪姦された。
男同士の快楽など知りもしなかった騎士は、困惑し、抵抗し、とうとう屈服させられる。
その頃には、王国は降伏を決めていた。騎士が戻るべき国も、忠誠を誓った王も、全ては過去になっていた。
最も苛烈に戦い、最後に屈した騎士は身分を剥奪され、見せしめに大国で奴隷とされた。
騎士でなくなった男は、大国ではもっとも卑しい職とされる『洗濯夫』として、大国の片隅で生きることになった。
彼が生きて洗濯夫でいる間は、虜囚となった王も、捕虜達もみな無事を保障される。
否も応もない。ただ受け入れるしか無かった。
洗濯夫は、昼間は人々の汚れた衣服を洗い清める。それだけでは糊口をしのげずに、夜は客を取って人々を慰める。言ってみれば洗濯夫は『娼夫』の別名で有った。
男が洗濯夫となることが決まった翌日。男の元に一人の魔法士が訪れた。
彼は男に小瓶を渡してこう言った。
「それを一息にお飲み下さい。そうすれば、貴方のこれからの生活がずっと、お楽になるでしょう」
男はぼんやりと魔法士を見上げて、小瓶を受け取った。
もう、どうすることも出来ない。すでに国は無く、帰るべき場所は無い。それに、この身はもう、十分に汚されてしまった。この上に、どんな苦しみが待っているというのだろう。男は何も考えられずに、無造作に小瓶の中身を飲み干した。
「……な、んだ……あ、あ、あぁ……!?」
ぎしぎしと。身体が作り変えられる、音がする。魔法士の薬は男の身体を、彼の男の部分をすっかり女のそれに変えてしまった。グロテスクな事に、性器以外は全て男のまま。
「……あ、あぁ……いや、だ……いやだ……いや、だああぁぁ……!!」
男の叫びは牢獄の闇に、微かに木霊した。
王国には騎士がいた。王国を、民を、家族を守るために勇敢に戦って、最後は破れた。
王国は大国の一地方となり、王は人質として大国の監視下に置かれた。
多くの騎士達は戦場に倒れた。だが、その騎士は大国の軍に捕らえられ、生かされた。
「……ん……あ、あぁ……っ」
男はかつて、王国の騎士団長であった。勇敢で剛直、真っ直ぐな鋼の剣のようだと評されていた騎士であった。
「あっ、あ、ぁん……早くっ……あ……」
床に這ったまま淫らに腰を突き出して、男はねだる。自らの秘所をさらすように指先で押し広げ、誘っている。
彼を取り囲んでいた三人の男達は、猥笑し合ってその痴態を眺めていた。
「あ……どうぞ……? お慈悲を……どうか……っ」
肉欲を堪えきれず、男は唇を舐めた。癖のある黒い髪を三つ編みに結っていて、その先端が背中で揺れる。男の首には、奴隷の証である鉄製の輪。男は奴隷で有った。
男の身体には、不思議な場所が有った。体格も顔立ちも声も。男性そのもので有るのに、ただ足の付け根、ひっそりと息づく性器だけは形が違っていた。
ひくりと震えて口を開けるそれは、蜜を垂らして男を誘う。それは確かに女の形で有った。
大国の兵士たちに捕らえられた騎士は、衣服を剥ぎ取られ、隠し持った武器が無いかと徹底的に改められた。それが済むと、拷問代わりに輪姦された。
男同士の快楽など知りもしなかった騎士は、困惑し、抵抗し、とうとう屈服させられる。
その頃には、王国は降伏を決めていた。騎士が戻るべき国も、忠誠を誓った王も、全ては過去になっていた。
最も苛烈に戦い、最後に屈した騎士は身分を剥奪され、見せしめに大国で奴隷とされた。
騎士でなくなった男は、大国ではもっとも卑しい職とされる『洗濯夫』として、大国の片隅で生きることになった。
彼が生きて洗濯夫でいる間は、虜囚となった王も、捕虜達もみな無事を保障される。
否も応もない。ただ受け入れるしか無かった。
洗濯夫は、昼間は人々の汚れた衣服を洗い清める。それだけでは糊口をしのげずに、夜は客を取って人々を慰める。言ってみれば洗濯夫は『娼夫』の別名で有った。
男が洗濯夫となることが決まった翌日。男の元に一人の魔法士が訪れた。
彼は男に小瓶を渡してこう言った。
「それを一息にお飲み下さい。そうすれば、貴方のこれからの生活がずっと、お楽になるでしょう」
男はぼんやりと魔法士を見上げて、小瓶を受け取った。
もう、どうすることも出来ない。すでに国は無く、帰るべき場所は無い。それに、この身はもう、十分に汚されてしまった。この上に、どんな苦しみが待っているというのだろう。男は何も考えられずに、無造作に小瓶の中身を飲み干した。
「……な、んだ……あ、あ、あぁ……!?」
ぎしぎしと。身体が作り変えられる、音がする。魔法士の薬は男の身体を、彼の男の部分をすっかり女のそれに変えてしまった。グロテスクな事に、性器以外は全て男のまま。
「……あ、あぁ……いや、だ……いやだ……いや、だああぁぁ……!!」
男の叫びは牢獄の闇に、微かに木霊した。
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