6 / 7
第六話
しおりを挟む
洗濯夫──ウェールは仮面の客に召し上げられた。洗濯をしなくて良い代わりに、毎夜毎夜、仮面の客は彼を抱く。それが寂しくて、苦しくてたまらない。
ウェールが騎士団長であったことを、仮面の客は初めから知っていた。何故ならば、彼こそが大国の軍の大将。この国で、最も権威のある騎士であったのだから。
ウェールを弄びながら、仮面を脱いだ客は自分はオルディナリオで有ると名乗った。
その顔と名前に、ウェールは覚えがあった。戦場で相まみえた時、互いに敵同士だった男達は、今、抱く者と抱かれる者とになっていた。
「……初めて戦場でお前の横顔を見た時、私は天啓を受けた。『ああ、この男をどうしても手に入れたい』と」
「……?」
その日も散々に抱かれ、半ば意識を飛ばしていたウェールは、その言葉にゆっくりと瞼を上げた。
「だから、お前を生かした。だからお前の身体を作り変えさせた。全て、お前を手に入れるための下準備だ」
「だから、俺を……洗濯夫に、した……?」
ぼんやりと、ウェールはオルディナリオの口許を見つめた。彼が何を言っているのか。聞こえているのに、理解できない。
「ああ、そうだ。淫売のように振る舞いながら、それでもまだ心底に清廉を隠し持つお前は……本当に愛しい。愛している」
──愛している。オルディナリオの唇からこぼれた台詞に、ウェールは戦慄する。
「……ああ……ああ……死なせてくれ……俺を愛しいと、思ってくれる、なら……っ」
ウェールは両手で顔を覆った。苦しくて、恐ろしくて。泣き出してしまいそうだ。
出来るならあの戦場で。騎士として名誉を保ったまま、男なぞ知らぬまま死にたかった。
「ふん。愚かなことを。お前を手放すと思うか? ようやくこの手にしたというのに!」
オルディナリオの愛は、歪んでいる。それは愛とは呼べない。醜い独占欲だ。
「ウェール。私の淫らな騎士よ。……お前にはいずれ私の子を孕んでもらおう。そのためにお前に種を注ぎ続けよう」
「……は……くっ! ……嫌だ……! 絶対に! 誰がお前の子など孕むものか!」
泣きながら、ウェールの眸が強い光を帯びる。それがオルディナリオを喜ばせると知ってか知らずか、かつて騎士であった洗濯夫は堅く唇を結んだ。
ウェールが騎士団長であったことを、仮面の客は初めから知っていた。何故ならば、彼こそが大国の軍の大将。この国で、最も権威のある騎士であったのだから。
ウェールを弄びながら、仮面を脱いだ客は自分はオルディナリオで有ると名乗った。
その顔と名前に、ウェールは覚えがあった。戦場で相まみえた時、互いに敵同士だった男達は、今、抱く者と抱かれる者とになっていた。
「……初めて戦場でお前の横顔を見た時、私は天啓を受けた。『ああ、この男をどうしても手に入れたい』と」
「……?」
その日も散々に抱かれ、半ば意識を飛ばしていたウェールは、その言葉にゆっくりと瞼を上げた。
「だから、お前を生かした。だからお前の身体を作り変えさせた。全て、お前を手に入れるための下準備だ」
「だから、俺を……洗濯夫に、した……?」
ぼんやりと、ウェールはオルディナリオの口許を見つめた。彼が何を言っているのか。聞こえているのに、理解できない。
「ああ、そうだ。淫売のように振る舞いながら、それでもまだ心底に清廉を隠し持つお前は……本当に愛しい。愛している」
──愛している。オルディナリオの唇からこぼれた台詞に、ウェールは戦慄する。
「……ああ……ああ……死なせてくれ……俺を愛しいと、思ってくれる、なら……っ」
ウェールは両手で顔を覆った。苦しくて、恐ろしくて。泣き出してしまいそうだ。
出来るならあの戦場で。騎士として名誉を保ったまま、男なぞ知らぬまま死にたかった。
「ふん。愚かなことを。お前を手放すと思うか? ようやくこの手にしたというのに!」
オルディナリオの愛は、歪んでいる。それは愛とは呼べない。醜い独占欲だ。
「ウェール。私の淫らな騎士よ。……お前にはいずれ私の子を孕んでもらおう。そのためにお前に種を注ぎ続けよう」
「……は……くっ! ……嫌だ……! 絶対に! 誰がお前の子など孕むものか!」
泣きながら、ウェールの眸が強い光を帯びる。それがオルディナリオを喜ばせると知ってか知らずか、かつて騎士であった洗濯夫は堅く唇を結んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる