洗濯夫【完全版】

水野酒魚。

文字の大きさ
上 下
6 / 7

第六話

しおりを挟む
 洗濯夫──ウェールは仮面の客に召し上げられた。洗濯をしなくて良い代わりに、毎夜毎夜、仮面の客は彼を抱く。それが寂しくて、苦しくてたまらない。 
 ウェールが騎士団長であったことを、仮面の客は初めから知っていた。ならば、彼こそが大国の軍の大将。この国で、最も権威のある騎士であったのだから。
 ウェールを弄びながら、仮面を脱いだ客は自分はオルディナリオで有ると名乗った。
 その顔と名前に、ウェールは覚えがあった。戦場で相まみえた時、互いに敵同士だった男達は、今、抱く者と抱かれる者とになっていた。

「……初めて戦場でお前の横顔を見た時、私は天啓を受けた。『ああ、この男をどうしても手に入れたい』と」
「……?」

 その日も散々に抱かれ、半ば意識を飛ばしていたウェールは、その言葉にゆっくりとまぶたを上げた。

「だから、お前を生かした。だからお前の身体を作り変えさせた。全て、お前を手に入れるための下準備だ」
「だから、俺を……洗濯夫に、した……?」

 ぼんやりと、ウェールはオルディナリオの口許を見つめた。彼が何を言っているのか。聞こえているのに、理解できない。

「ああ、そうだ。淫売のように振る舞いながら、それでもまだ心底に清廉を隠し持つお前は……本当に愛しい。愛している」

 ──愛している。オルディナリオの唇からこぼれた台詞に、ウェールは戦慄する。

「……ああ……ああ……死なせてくれ……俺を愛しいと、思ってくれる、なら……っ」

 ウェールは両手で顔を覆った。苦しくて、恐ろしくて。泣き出してしまいそうだ。
 出来るならあの戦場で。騎士として名誉を保ったまま、男なぞ知らぬまま死にたかった。

「ふん。愚かなことを。お前を手放すと思うか? ようやくこの手にしたというのに!」

 オルディナリオの愛は、ゆがんでいる。それは愛とは呼べない。醜い独占欲だ。

「ウェール。私の淫らな騎士よ。……お前にはいずれ私の子をはらんでもらおう。そのためにお前に種を注ぎ続けよう」
「……は……くっ! ……嫌だ……! 絶対に! 誰がお前の子など孕むものか!」

 泣きながら、ウェールのひとみが強い光を帯びる。それがオルディナリオを喜ばせると知ってか知らずか、かつて騎士であった洗濯夫は堅く唇を結んだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

二人の騎士

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:16

この恋は決して叶わない

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:45

猫耳のおじさん護衛騎士

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:154

転生したら激レアな龍人になりました

BL / 完結 24h.ポイント:397pt お気に入り:3,001

異世界は醤油とともに

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:67

おっさんが願うもの

BL / 連載中 24h.ポイント:874pt お気に入り:15

六色の竜王が作った世界の端っこで

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:9

異世界転生騒動記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,314pt お気に入り:15,863

処理中です...