ワガママな人達の交響曲

三箱

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第五章 三つ目

ユメトアンゴウ

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「ソラを見てないって。ソラ君居なくなったの?」
「そ、そう」
「あんた見張っていたんじゃないの?」
「そうだよ。だけどトイレに行っている間に居なくなってたの!」
「えっ。嘘でしょ。北条先生は?」
「一旦家に帰ったんだよ」

 玄関から聞こえる二人の声、何の話をしているのかわからないけど、誰か居なくなったということはわかった。
 一旦会話が止まるとドタドタと足音が近づいてきた。

「ちょっとソラ君が居なくなったって……」

 俺の顔を見つめて、途中まで開いてた口を静かに閉じる。

「ソラ君ってあのもう一人の男の子だよね」
「そうだよ。あんたも探すの手伝って! 元を辿ると……」
「わかった。わかった。手伝うよ」

 梶原さんが言う前に佐嶋さんが慌てて歩き始めた。

「響ちゃんは……。そうだね家に居てね」
「あー。そうだな。そうする。ちょっと疲れたし」
「わかった。ごめんね連れ回して、ゆっくり休んで」

 そう言って、梶原さんは佐嶋さんを連れて玄関に走っていった。そしてバタンと扉の音だけが響いた。

「ふー」

 静かになった途端に出てきたため息、ずんと重たくなった体。
 疲れた。
 純粋にそう思う。
 俺はベットに向かって歩き、ボフッと顔から突っ込んだ。
 ね、眠い。本当に眠い。前の俺はあの二人に何をしたのだろうか、正直ちょっと恨みそうだ。
 好かれること事態に関しては悪いことではない。ただ何か怖い。
 理由はわからない。ただ怖い。自分という人間がわかっていないせいなのか、それとも彼女たちがわからないせいか、どちらな気もするが。
 まあいい。今日は寝よう。寝たら思い出すのかな。いやそんな都合よくはないか。けど寝るしかないか。学校には行かないでいいか。早い話行き方わからない。
 俺は頭を悩ませていたが、気がつくと意識を失っていた。


 そういえば、ピアノってなんだろう。

 ふと思う。音楽とかピアノとかカラオケとか言っていたけど、何だろうか。
 楽しいものだろうか。どんなものなのか。ふと興味が沸いた。
 けど現状聞こえないらしい。まあピアノの鍵盤というやつも見えないし聞こえなかったのだからそうだろう。
 何でそんなことを思うのだろうか。
 何でだろうな。
 人間見えないものを見たくなるものじゃないのかな。たとえば禁止されたらされるほど気になって仕方なくなるものとか。記憶がないのも知りたいとか、その延長線だと思う。
 というかあれ?
 何でこんなことを考えているのだろうか。
 寝ているんだよな今。
 夢か。夢で意識があるのか。考えすぎて夢にまで持ってきてしまったのか。
 アホだな。
 記憶がないから今もアホか。
 それでどうしようか。

「君はどうしたい?」

 何だ。今どこからともなく声が聞こえたような。

「君はどうしたい? 知りたい? それともこのままがいい?」

 まただ。また聞こえる。
 どうしたいと言われてもな。どうしようもないのが現状だよ。それに君は誰だよ。

「誰でもいい。誰でもいいよ。それよりも君がどうしたいのか」

 自分のこと誰でもいいって投げやりだな。

「そうであって。そうでもない。曖昧だよ。でも君がどうしたいかは君しか決められないし、君しかできない。これだけは曖昧ではない」

 言い方が非常に回りくどい。けど確かに決めるのは俺しかない。だが決めるとしても何をどうしたいかなんて今の俺にはわからない。
 記憶を取り戻すために何かをするということなのか。

「まだわかってないみたいだね。本心でもない偽りの気持ちのしたいなんてすぐに飽きるよ」

 考えを否定されるとイラッとする。

「怒らない怒らない。君が素直にしたいことを思えばいいんだよ」

 素直にしたいことか。素直に思うこと。
 それは……。


 気がつくと天井がはっきりと見えていた。しばらくは頭がボーッとしたままだった。
 何だろうか。何か変な夢を見た気がする。何だったんだろうか。わからないな。
 昨日の記憶は……。あるみたいだ。
 あれ。
 ムクッと体を起こす。昨日と同じ部屋だ。けど誰もいない。どれくらい寝たのだろうか。まだ探しているのか。それとも学校に行ったのだろうか。
 自然と横を眺めてみるとぼんやりとカーテンの隙間から光が漏れていた。朝か昼か。
 まあどっちでもいいか。

「……」

 静かだ。
 誰もいないのか。それに親もいないのか。
 そもそも親がいるのか。その事も訊いていなかったな。まあ昨日起きた状況からして、大まかには理解できるが……。詳しいことはまたあの二人に聞いてみるか。

「……」

 このままいるだけだと暇だしな。
 何か……。記憶の手がかりになるものないだろうか。
 脚の上にタオルケットをのけてのそっと起き上がり、部屋をぐるっと見回してみる。
 汚い……。
 服や何やらいっぱい散らかっている。昨日全く気がつかなかった。いやまあ、昨日はあの二人が強烈すぎたせいか。
 とりあえず手当たり次第探してみるか。
 バサッと近くにある服を拾い上げる。白く固めの服。

「ふむ」

 見つめてみるが、直ぐに端に寄せる。次は黒い固めのズボン。とりあえず何も思い出せない。しばらく見つめたあと、ぽいっと後ろに投げ捨てる。
 服だと全く思い出せない。他に何があるのだろうか。
 服の中に手を突っ込むと、指先に感じる他とは違う硬質でざらっとした触感。まっすぐ前になぞり、端を確認するとそのままつまんで服の中から引き抜いた。
 ぐしゃぐしゃになった白く薄い四角いやつ。
 そこに書き込まれた黒い線が並んでいた。五本一括りなのか。そしてその上には何だろうか。黒丸と垂直にぶった切る線がセットになったものが、多く並んでいる。それは同じ位置にはなく上にずれたり下にずれていたり、繋がっていたり、何か変な形、旗みたいなのがついていたりした。
 なんだこれ。何かの記号。暗号かな。よくわからない。
 でもなんだろうか。気にはなる。パズルなのか、解けば何かわかるのか。よくわからないけど、わかりたい気がする。
 本当に何だろうか。

「ふーむ」

 暫くにらめっこするが全くわからない。でも解きたい。解けないのは負けた気がする。精神的に。
 他にそれらしきものは無いのだろうか。
 散らばった服の中を漁り始める。
 手元にある服を次々に後ろに投げていく。そして他にも似たようなものを二枚見つけた。
 何枚もあるのか。そうなるとめんどくさいな。
 今度は上に視線を向けてみる。ぐるっと見回しある程度の場所でピタッと止まる。
 昨日言っていたピアノといわれるモノの上に先程の黒の線等書き込まれた白い四角くいのがたくさん立て掛けられていた。
 俺はそこにむかい手前にある椅子に座った。
 たくさんある。ここに立て掛けられている。ということはピアノというものと何か関係があるのだろうか。
 そういえば梶原さんはこの蓋を開けていたな。
 茶色い板をつかみ上に持ち上げる。
 あれ動かない。
 上でないなら下かな。
 違うな、どうやっていたっだろう。
 今度は斜めに引っ張る。
 ガガッとビミョーに動いた。ということはたぶん。
 奥に向かってスライドさせてみた。ガラガラッと板は奥に吸い込まれるように開いた。そして中を眺めると……。
 ただただ真っ暗な空間だった。
 そういえば、全く見えないのだったな。それに……。
 バタンとすぐさま蓋を閉じた。そして体に感じる脱力感。ゆっくりと天井を仰ぎ見る。
 何なんだろ音楽って、ピアノって、一体なんだろう。聞くことができない。できないからこそ気になってしまう。本当に一体なんだろうか……。急激にやる気がなくなった気がした。
 また寝ようか。のんびりとしようか。それでいいか。
 のそっと立ち上がり、布団に向かった。

「ピンポーン」

 これは昨日と同じやつか。そういえば、昨日梶原さんが奥に向かっていったような。

「ピンポーン」

 俺は昨日梶原さんが向かった方向と同じ場所に向かった。そして銀色の丸いのを握り大きい板を開けた。
 パッと瞳に光が入り込み、眩しくなったあと、落ち着いてきた視界。そして目の前にいるのは一人の男性。
 視線が合い暫くの間無言になる二人。

「えっと。誰ですか?」

 俺がそう言うと、男性は目を大きく見開いた。そして急に目を涙ぐませた。

「風間くん。僕のこと覚えていないの?」
「あー。もしかして知り合いだったらごめん。俺記憶がないみたいで、だから名前を教えてくれないか?」
「そ、そう。本当に記憶がないんだ」
「そうみたいだ」
「わかった。僕は紅月空。君の友達。あだ名はソラと呼ばれていたよ」
「ソラ……」

 あれ。昨日梶原さんが何か言っていたな。だから一応全くの無関係の人ではないのか。俺の名字をすぐに言ったし。

「それでどうした?」
「あー。うん。ちょっとばかり用があるんだけど、ちょっと外に一緒に出て、ついてきてくれないか?」

 ソラ君の顔はとても複雑そうだった。それには気がついたけど、断る理由はないし、ちょうど暇だったからな。それに何か手掛かりが見つかるかもしれないし。

「わかった。行こうか」
「ありがとう」

 ソラ君はペコリと頭を下げた。あの二人と違ってかなり真面目だなと思った。

「それじゃあ。何か準備はいるか?」
「いや。いいよ。とりあえずついてきて」

 するとソラ君は俺の腕を握り、少し強引に引っ張った。俺は手を引かれるまま、彼の後姿を眺めながらそのままついていったのであった。 
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