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第1章/笑うピエロ Missing children
1ー②/The circus is about to begin
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──さあ、寄っておいで。
良い子のみんな、寄っておいで。
お菓子をあげるよ。
風船をあげるよ。
楽しいね。
もっと欲しい?
いいとも。沢山あるからね。
でもひとつ、約束をしてほしいんだ。
──このことは、誰にも言わないでくれるかい?
──Missing children
◆◆◆
閑静な住宅が建ち並ぶ、昔ながらの雰囲気を色濃く残す町──比恵呂町。一つの土地、同一敷地内に同じマンション郡が広がる、言わゆる『団地』というやつだ。
ファミリー層が多く住んでいる為、子供の騒ぎ声が至る所から聞こえてくる。
そんな住宅街での、集団失踪事件。それはさながら、『ハーメルンの笛吹き男』のようだ。──と、神津さんは言う。
「ハーメルンの笛吹き男········。聞いたことあります。グリム童話でしたっけ?」
「ああ。ネズミを退治した笛吹き男が、報酬を払わなかった町の人々へ報復するために、子供たちを笛を使って連れ去ったっていう事件だな。この物語に関しては実際に起こった出来事が元になってるっていう話だ」
「ただ今回は、笛吹き男じゃなくて『ピエロ』·········」
「あと正確には『集団』じゃなくて『個別』の失踪だがな。いずれにせよ、そのピエロが事件の鍵なのは間違いないが、今は情報が無さ過ぎる。まずは聞き込みだ」
そう言って、神津さんは団地の地図を広げる。
「俺はこの棟とこの棟を聞き込んで回るから、君はこの棟を──」
「──え。·········え!? 二手に別れるんですか!?」
あまりに自然に話し始めたことに仰天だ。こちらへの提案を飛ばして、既に命令である。
先程は聞き流してしまったが、桐弥さんは別の依頼の対応の為に今回の件には帯同しない。付いてくれると勝手に思っていたので、起こること全てが寝耳に水だ。
「無理ですよ私聞き込みなんてしたこと──」
反論しようとする私の言葉を遮るように、神津さんは大きく息を吐く。
「初日のバイトか」
神津さんは近くのベンチに腰掛けると、睨みつけるように私を見上げる。
「『後悔しない為に、真実を明らかにしたいんです』だっけ? さっきの所長への威勢はどうした。これは部活でもなければバイトでもない。『やったことないから無理、助けてくれ』って言ったら優しく教えてもらえるような世界を想像してるなら、今すぐ帰った方がいい」
鋭い指摘。·········返す言葉もない。確かに、最もだ。
常に危険と隣り合わせの桐弥さんに対して、無理を言って手伝わせてもらってるのは自分の方だ。
これぐらい自力で何とか出来なきゃ、楓さんの事件の手伝いなんて務まる訳がない。
──覚悟を決めたんじゃないのか! 浅見朱莉!
ぱんッと、軽く自分の頬を叩く。気合い入れ直しだ。
「分かりました。やります」
「よし。じゃあまずここから·········」
神津さんは丁寧に指示をくれた。
──この団地は、同じ形のマンション六棟が、等間隔で建ち並んでいる。一棟四階建てとあまり大きくないのが救いか、聞き込みもそこまで時間は掛からないと思う。
神津さんがA~D棟、私がE棟とF棟を担当することになった。
数を四対二にしてくれたのは、彼なりの気遣いだろうか?
ともかく、E棟にもF棟にも、実際に行方不明になった子どもが住んでいる家族の部屋がある。心してかからねば。
私はまず、E棟の一階、馬場さん宅を訪れた。
そこの一人息子── 馬場 幸太郎くん。行方不明になった子どもの一人だ。しかも話を聞く限りでは、一番最初に被害に遭った子だという。
この後の台詞も行動も特に考えぬまま、私はチャイムを鳴らした。
「·········はい」
消え入りそうなほど静かな返事が、インターホン越しから聞こえてきた。
「あ、あの·········、私、明智探偵事務所の浅見と申します。幸太郎くんの事で少し話を伺いたく──」
「──話すことは何もありません」
声色からも分かる、明確な拒絶。ついさっき桐弥さんからもされたから、本日二回目·········、悲しい。
最初の被害者宅だ。恐らく何度もこういった訪問があり、その度に同じ話を繰り返ししただろう。疲弊してしまうのも仕方ない。
ただ、被害者宅が全部この調子だとすると、聞き込みどころではない。
「参ったな·········」
前途多難だが、悄気てる場合ではない。数打てば当たると割り切って、その棟の他の部屋を回ってみる。
不在の部屋、門前払いを喰らう部屋が殆どの中、快く話をしてくれる人もいた。
E棟四〇二号室、林田 風花さん。家族暮らしが多いこの団地では珍しく、一人暮らしの女性だ。なんでも漫画家志望で、閑静なこの場所が執筆が捗って気に入ってるんだとか。
「失踪事件ねぇ·········。私、あんまり外出ないから、噂話とか疎くて詳しくは知らないけど、皆が言ってるピエロってのは多分見たかも」
「え? 見たんですか? ピエロ」
「うん。日が落ちた直後ぐらいかな。気分転換に外の空気吸おうと思ってベランダ出たら、風船持ったピエロの格好した奴がさ、子どもの手引いてて。向こうに歩いて行ったの」
指差す先には、団地の隣に位置する廃工場。
黒く長い煙突が特徴のその工場は、明るい今の時間に見ても、何とも言えない不気味さが漂っている。
あの廃工場に行けば、何か手掛かりが掴めるかもしれない。
「ありがとうございます! 助かりました!」
「いーえ、こんな話が役立つかは分かんないけど」
私は深々とお辞儀をして、颯爽とE棟を後にする。
外に出たところで、ちょうど神津さんと鉢合わせた。
「終わったのか? 随分早いが」
その台詞、そっくりそのままお返ししたい。アナタ私より二倍の量の人達に聞き込んでいるハズでは?
「あ、えーっとですね、子供達が連れ去られたかもしれない場所が分かりまして──」
「──あの廃工場のことか?」
私が指差すより早く、神津さんはその廃工場に目を向けていた。
「知ってたんですか?」
「いや、俺もさっきその話を聞いた。ピエロの目撃情報自体はそれほど多くないが、目撃者は決まってあの廃工場の話をしている。手掛かりがある可能性は高い」
神津さんは迷いなく廃工場に歩みを進める。
「でも、あの、入るのは大丈夫なんでしょうか? 廃墟なんですよね?」
「それは行ってから考える」
私の不安をよそに、神津さんは既に廃工場の方へと足を進めていた。意外と考え無しに突っ走る人か·········? 私は一抹の不安を抱きつつも、その後ろを追いかける。
廃工場に近づくにつれ、その不気味さが増してくる。日中にも関わらず、周囲には誰もいない。静寂が支配する中、風の音だけが耳に響く。
不気味さを紛らわす為、私は意を決して話題を振る。
「あ、あの。工場以外の手掛かりとかって何か聞き出せましたか?」
「いや、どの住人もあまり協力的じゃない。殆ど最低限の話しかしてくれないな」
「そうですか·········」
まさか、聞き込みの時もそんな仏頂面でやってたんじゃないでしょうね·········? めちゃめちゃ低姿勢聴き上手の私ですら成果無しなんだから、そんな態度の聴取で聞き出せてたまるか──と、心の声が漏れそうなのを察知されたのか、神津さんがふと、立ち止まる。
そして唐突に振り返る神津さんに、ビックリして肩の震えと共に変な声が出た。
「え、あ、いや、別に不満がとかそんな──」
「そういえば、名簿渡してなかったな」
「へ? 名簿?」
出てきたのは全然関係ない台詞で、またしても変な声が出た。
「行方不明の児童の情報だよ。さっき車内で見せてもらってただろ」
そう言って神津さんは、カバンからA4サイズの茶封筒を取り出す。でも、私には必要のない物だ。
「あー、大丈夫です。全部覚えてるので」
神津さんは資料を取り出そうとする手を止める。
「覚えてる·········?」
手にしてる資料は、およそ二十枚。
行方不明になった被害者は全部で五人。それぞれの世帯の家族構成、子供の通っている学校、学童、両親の勤め先の会社始め、家族全員の詳細な情報が書いてある。こんなに細かく、よく調べたものだ。
私は目を閉じ、車で見せて貰った資料の内容を思い返す。
「行方不明になった順番で、E棟一〇六号室の馬場 幸太郎くん、A棟三〇四号室の利原 愛生ちゃん、B棟二〇七号室の安東 汰玖海くん、同じくB棟四〇五号室の猪野 光晟くん。そして最後に──依頼者の乃村さんの一人娘、F棟四〇八号室の乃村 リコちゃん。被害者達の共通点は、親が共働きで帰りが夕方になる事。あ、乃村さん宅だけ一人親世帯でした。リコちゃんの母親の茉希さんが今回依頼に至った経緯が──」
「──もういい。充分だ」
神津さんの声に、我に帰り、ゆっくり目を開く。
「驚いたな。『カメラアイ』ってヤツか?」
カメラアイ──『写真記憶』や『瞬間記憶能力』とも言われるが、目を引いた情報を写真のように鮮明に記憶する能力のことである。
「えーっと、私の場合はそんな大層なものじゃなくて、ただ人より少し記憶力が良いぐらいのもんですよ」
「いや、それでも調査には充分過ぎるぐらい使える特技だ。後で聞き込み内容のメモも覚えておいてもらっていいか?」
「あ、はい。もちろん」
数秒の沈黙が流れ、神津さんが再度口を開く。
「·········悪い。正直、足手まといとしか思ってなかった」
バツが悪そうに、神津さんは目線を逸らす。
そんな事、気にしなくていいのに。足手まといになってるのは事実だし。
「いえ、たぶんこの後も迷惑かけると思うので、お気になさらず·········」
謝られると、逆にこっちが申し訳なくなる。
私が返答に困っていると、神津さんの口元が少し、緩んだ気がした。
「陸奥大学四年、神津 葵だ。改めて、よろしく頼む」
「あ、浅見 朱里です。時生大学二年です。よろしくお願いします·········」
改めての自己紹介に、少し照れる。
ただの感じ悪い奴だと思っていた反面、その律儀さに驚く。ますます、蒼空に似てるな。
ここまでずっと気まずい雰囲気だったが、これで少しは、溝が埋まっただろうか。
1-②/The circus is about to begin~サーカスが始まる~
良い子のみんな、寄っておいで。
お菓子をあげるよ。
風船をあげるよ。
楽しいね。
もっと欲しい?
いいとも。沢山あるからね。
でもひとつ、約束をしてほしいんだ。
──このことは、誰にも言わないでくれるかい?
──Missing children
◆◆◆
閑静な住宅が建ち並ぶ、昔ながらの雰囲気を色濃く残す町──比恵呂町。一つの土地、同一敷地内に同じマンション郡が広がる、言わゆる『団地』というやつだ。
ファミリー層が多く住んでいる為、子供の騒ぎ声が至る所から聞こえてくる。
そんな住宅街での、集団失踪事件。それはさながら、『ハーメルンの笛吹き男』のようだ。──と、神津さんは言う。
「ハーメルンの笛吹き男········。聞いたことあります。グリム童話でしたっけ?」
「ああ。ネズミを退治した笛吹き男が、報酬を払わなかった町の人々へ報復するために、子供たちを笛を使って連れ去ったっていう事件だな。この物語に関しては実際に起こった出来事が元になってるっていう話だ」
「ただ今回は、笛吹き男じゃなくて『ピエロ』·········」
「あと正確には『集団』じゃなくて『個別』の失踪だがな。いずれにせよ、そのピエロが事件の鍵なのは間違いないが、今は情報が無さ過ぎる。まずは聞き込みだ」
そう言って、神津さんは団地の地図を広げる。
「俺はこの棟とこの棟を聞き込んで回るから、君はこの棟を──」
「──え。·········え!? 二手に別れるんですか!?」
あまりに自然に話し始めたことに仰天だ。こちらへの提案を飛ばして、既に命令である。
先程は聞き流してしまったが、桐弥さんは別の依頼の対応の為に今回の件には帯同しない。付いてくれると勝手に思っていたので、起こること全てが寝耳に水だ。
「無理ですよ私聞き込みなんてしたこと──」
反論しようとする私の言葉を遮るように、神津さんは大きく息を吐く。
「初日のバイトか」
神津さんは近くのベンチに腰掛けると、睨みつけるように私を見上げる。
「『後悔しない為に、真実を明らかにしたいんです』だっけ? さっきの所長への威勢はどうした。これは部活でもなければバイトでもない。『やったことないから無理、助けてくれ』って言ったら優しく教えてもらえるような世界を想像してるなら、今すぐ帰った方がいい」
鋭い指摘。·········返す言葉もない。確かに、最もだ。
常に危険と隣り合わせの桐弥さんに対して、無理を言って手伝わせてもらってるのは自分の方だ。
これぐらい自力で何とか出来なきゃ、楓さんの事件の手伝いなんて務まる訳がない。
──覚悟を決めたんじゃないのか! 浅見朱莉!
ぱんッと、軽く自分の頬を叩く。気合い入れ直しだ。
「分かりました。やります」
「よし。じゃあまずここから·········」
神津さんは丁寧に指示をくれた。
──この団地は、同じ形のマンション六棟が、等間隔で建ち並んでいる。一棟四階建てとあまり大きくないのが救いか、聞き込みもそこまで時間は掛からないと思う。
神津さんがA~D棟、私がE棟とF棟を担当することになった。
数を四対二にしてくれたのは、彼なりの気遣いだろうか?
ともかく、E棟にもF棟にも、実際に行方不明になった子どもが住んでいる家族の部屋がある。心してかからねば。
私はまず、E棟の一階、馬場さん宅を訪れた。
そこの一人息子── 馬場 幸太郎くん。行方不明になった子どもの一人だ。しかも話を聞く限りでは、一番最初に被害に遭った子だという。
この後の台詞も行動も特に考えぬまま、私はチャイムを鳴らした。
「·········はい」
消え入りそうなほど静かな返事が、インターホン越しから聞こえてきた。
「あ、あの·········、私、明智探偵事務所の浅見と申します。幸太郎くんの事で少し話を伺いたく──」
「──話すことは何もありません」
声色からも分かる、明確な拒絶。ついさっき桐弥さんからもされたから、本日二回目·········、悲しい。
最初の被害者宅だ。恐らく何度もこういった訪問があり、その度に同じ話を繰り返ししただろう。疲弊してしまうのも仕方ない。
ただ、被害者宅が全部この調子だとすると、聞き込みどころではない。
「参ったな·········」
前途多難だが、悄気てる場合ではない。数打てば当たると割り切って、その棟の他の部屋を回ってみる。
不在の部屋、門前払いを喰らう部屋が殆どの中、快く話をしてくれる人もいた。
E棟四〇二号室、林田 風花さん。家族暮らしが多いこの団地では珍しく、一人暮らしの女性だ。なんでも漫画家志望で、閑静なこの場所が執筆が捗って気に入ってるんだとか。
「失踪事件ねぇ·········。私、あんまり外出ないから、噂話とか疎くて詳しくは知らないけど、皆が言ってるピエロってのは多分見たかも」
「え? 見たんですか? ピエロ」
「うん。日が落ちた直後ぐらいかな。気分転換に外の空気吸おうと思ってベランダ出たら、風船持ったピエロの格好した奴がさ、子どもの手引いてて。向こうに歩いて行ったの」
指差す先には、団地の隣に位置する廃工場。
黒く長い煙突が特徴のその工場は、明るい今の時間に見ても、何とも言えない不気味さが漂っている。
あの廃工場に行けば、何か手掛かりが掴めるかもしれない。
「ありがとうございます! 助かりました!」
「いーえ、こんな話が役立つかは分かんないけど」
私は深々とお辞儀をして、颯爽とE棟を後にする。
外に出たところで、ちょうど神津さんと鉢合わせた。
「終わったのか? 随分早いが」
その台詞、そっくりそのままお返ししたい。アナタ私より二倍の量の人達に聞き込んでいるハズでは?
「あ、えーっとですね、子供達が連れ去られたかもしれない場所が分かりまして──」
「──あの廃工場のことか?」
私が指差すより早く、神津さんはその廃工場に目を向けていた。
「知ってたんですか?」
「いや、俺もさっきその話を聞いた。ピエロの目撃情報自体はそれほど多くないが、目撃者は決まってあの廃工場の話をしている。手掛かりがある可能性は高い」
神津さんは迷いなく廃工場に歩みを進める。
「でも、あの、入るのは大丈夫なんでしょうか? 廃墟なんですよね?」
「それは行ってから考える」
私の不安をよそに、神津さんは既に廃工場の方へと足を進めていた。意外と考え無しに突っ走る人か·········? 私は一抹の不安を抱きつつも、その後ろを追いかける。
廃工場に近づくにつれ、その不気味さが増してくる。日中にも関わらず、周囲には誰もいない。静寂が支配する中、風の音だけが耳に響く。
不気味さを紛らわす為、私は意を決して話題を振る。
「あ、あの。工場以外の手掛かりとかって何か聞き出せましたか?」
「いや、どの住人もあまり協力的じゃない。殆ど最低限の話しかしてくれないな」
「そうですか·········」
まさか、聞き込みの時もそんな仏頂面でやってたんじゃないでしょうね·········? めちゃめちゃ低姿勢聴き上手の私ですら成果無しなんだから、そんな態度の聴取で聞き出せてたまるか──と、心の声が漏れそうなのを察知されたのか、神津さんがふと、立ち止まる。
そして唐突に振り返る神津さんに、ビックリして肩の震えと共に変な声が出た。
「え、あ、いや、別に不満がとかそんな──」
「そういえば、名簿渡してなかったな」
「へ? 名簿?」
出てきたのは全然関係ない台詞で、またしても変な声が出た。
「行方不明の児童の情報だよ。さっき車内で見せてもらってただろ」
そう言って神津さんは、カバンからA4サイズの茶封筒を取り出す。でも、私には必要のない物だ。
「あー、大丈夫です。全部覚えてるので」
神津さんは資料を取り出そうとする手を止める。
「覚えてる·········?」
手にしてる資料は、およそ二十枚。
行方不明になった被害者は全部で五人。それぞれの世帯の家族構成、子供の通っている学校、学童、両親の勤め先の会社始め、家族全員の詳細な情報が書いてある。こんなに細かく、よく調べたものだ。
私は目を閉じ、車で見せて貰った資料の内容を思い返す。
「行方不明になった順番で、E棟一〇六号室の馬場 幸太郎くん、A棟三〇四号室の利原 愛生ちゃん、B棟二〇七号室の安東 汰玖海くん、同じくB棟四〇五号室の猪野 光晟くん。そして最後に──依頼者の乃村さんの一人娘、F棟四〇八号室の乃村 リコちゃん。被害者達の共通点は、親が共働きで帰りが夕方になる事。あ、乃村さん宅だけ一人親世帯でした。リコちゃんの母親の茉希さんが今回依頼に至った経緯が──」
「──もういい。充分だ」
神津さんの声に、我に帰り、ゆっくり目を開く。
「驚いたな。『カメラアイ』ってヤツか?」
カメラアイ──『写真記憶』や『瞬間記憶能力』とも言われるが、目を引いた情報を写真のように鮮明に記憶する能力のことである。
「えーっと、私の場合はそんな大層なものじゃなくて、ただ人より少し記憶力が良いぐらいのもんですよ」
「いや、それでも調査には充分過ぎるぐらい使える特技だ。後で聞き込み内容のメモも覚えておいてもらっていいか?」
「あ、はい。もちろん」
数秒の沈黙が流れ、神津さんが再度口を開く。
「·········悪い。正直、足手まといとしか思ってなかった」
バツが悪そうに、神津さんは目線を逸らす。
そんな事、気にしなくていいのに。足手まといになってるのは事実だし。
「いえ、たぶんこの後も迷惑かけると思うので、お気になさらず·········」
謝られると、逆にこっちが申し訳なくなる。
私が返答に困っていると、神津さんの口元が少し、緩んだ気がした。
「陸奥大学四年、神津 葵だ。改めて、よろしく頼む」
「あ、浅見 朱里です。時生大学二年です。よろしくお願いします·········」
改めての自己紹介に、少し照れる。
ただの感じ悪い奴だと思っていた反面、その律儀さに驚く。ますます、蒼空に似てるな。
ここまでずっと気まずい雰囲気だったが、これで少しは、溝が埋まっただろうか。
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