Frail/Little Assassin

新田朝弥

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第4章/千荊万棘 pointing towards us

4-①/霜は、刃に残る

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 澪尽町の外れ。
 街灯の届かない路地に、嫌な溜まり方をした霊力。

 重い。
 湿っている。

 こういうのは、だいたい──来る。

「……」

 短刀を掌の上で転がす。
 構えない。
 息も、そのまま。

「複数、だな」

 京二が言うと同時に、
 影が、動いた。
 人に近い形。
 でも、どこかが決定的にズレている。

 怪異。
 一、二、三……六体。
 囲まれた。

「手分け。
 俺は前の三体。
 後ろ三体は、任せたぞ」

 地面を蹴る音がした瞬間、私はもうそこにいなかった。
 半歩、横。
 それだけ。

 伸びてきた腕が、空を掴む。

 私は、右手を前に出す。
 振らない。
 叩かない。

 ただ──刺す。
 ──"霜月蜂そうげつほう"。

 刃が、影の中心に吸い込まれた。
 次の瞬間、霊力が霧みたいに散った。

 確かな手応え。
 以前は使えなかった"型"が、今は自然に出る。

 ……まず、一体。

 視線を動かす。

 背後で、霊力が弾ける音がする。
 京二も、戦っている。

 空気が、沈む。
 今度は上。

 屋根の縁から、重たい気配が落ちてくる。

 跳ばない。
 私は、壁に足を掛けた。

 一瞬だけ、視界が高くなる。

 短刀を逆手に持ち替える。

 落ちてくる影と、すれ違う、その瞬間。

 ──"雨露霜雪うろそうせつ"。
 刃を、落とした。

 上から、真っ直ぐ。
 叩いたわけじゃない。
 そこに在っただけ。

 影が、二つに割れる。
 地面に落ちる前に、消えた。

 ……二体。

 まだ、終わらない。

 路地の奥。
 左右。
 背後。
 気配が、一斉に膨れ上がる。

 囲まれてる。
 数で来る気だ。

 短刀を、もう一本抜いた。
 それを見て、影たちが距離を詰める。

 ──踏み込めない。
 正確には、
 踏み込んでいい"場所"が、ない。

 刃を、円を描くように動かす。

 ──"五色霜林ごしきのそうりん"。
 速く。
 でも、音は立てない。

 攻撃してるわけじゃない。
 でも、どこからでも斬れる。

 それを、向こうも分かってる。

 一瞬の、躊躇。

「──起きて」
 ──切り替わる。

『……少し、遅い』

 内側から、低い声。
 視界が、冷える。
 感情が、沈む。

 踏み込む判断が、速くなる。

 二本の刃を、重ねる。
 次の瞬間。

 ──"紫電清霜しでんせいそう"。

 一直線。
 稲妻のような感覚が、路地を貫いた。

 中心にいた影が、消える。

 残りは、もう動かない。
 静かだ。

 短刀を下ろす。

 息は、乱れてない。
 でも──

「……深く、入りすぎ」

 自分に言う。

『滑らかになっただろ』

 内側の声が、少し笑う。

『前は、無理やりだった』

「……自覚は、ある」

 路地の先。
 まだ、薄く残る気配。

 最後の一体。
 逃げるつもりらしい。

 追わない。
 一歩だけ、踏み出す。
 刃を、軽く振る。

 音もなく。
 影が、崩れた。

 派手さはない。
 ただ、終わった。

 短刀を収める。
 手が、わずかに震えている。

『……まだ、怖いか』

「……うん」

 正直に答える。

 慣れたくはない。
 でも、迷うのはもっと嫌だ。

 夜空を見上げる。
 霜が降りそうな、冷たい空気。

「……次は」

 誰に向けた言葉でもない。

 でも、視線は自然と──
 黒い塔の方角を向いていた。
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