美味しくお召し上がりください、陛下

柊あまる

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番外編

秋晧月 其の二

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 蒼龍の見ている前で、白蓮は床に四つん這いになりながら小刻みに震えている晧月の側に寄ると、片膝をついてそっと彼の背中に指を滑らせた。
 軽く触れられただけなのに、晧月は全身をビクンと大きく弾ませて「はぁっ……あぅぅ……」と苦痛とも快感とも取れる喘ぎ声を上げる。

「あいかわらず、女の子みたいに可愛い声を出すのね、晧月は」
 そう言いながら、白蓮の指は晧月の背中から臀部にかけてをすうっと撫でていく。
「ふぁっ……あ、ああぁぁ……」
「まだ施術もしてないのに、晧月ったら、今にも達してしまいそう。恥ずかしい子……蒼龍さまの前で」

 蒼龍の名が出た途端に、晧月はハッと我に返ったように目を見開き、恥辱に悶えて身体を竦ませた。
 白蓮はそれを許さず、すぐに晧月の耳元に囁く。
「顔を上げなさい、晧月。蒼龍さまにちゃんと見て頂くのよ。晧月はこんなに恥ずかしい子ですって。だって……後ろのあなで気持ちよくなりたくて仕方ないんだものね?」
 白蓮の言葉に、晧月はその顔を恥辱に歪ませながら、ポロポロと涙を零した。

「言ったでしょう? 言うこと聞けない子はお仕置きよって。ちゃんといい子にできたら、恥ずかしい気持ちも何処かに消えてしまうくらい気持ち良くしてあげるのに」

 その快楽を――晧月は既に充分すぎるほど知っていた。
 そして晧月は気がついた。あの愉楽の底へ辿り着かない限り、自分がこの状況から救われる術は無いのだと――

 涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、晧月は蒼龍のいる方を見上げた。そして、喘ぐような声を漏らして先ほどの白蓮の問いかけに答えた。
「家で……湯浴みをしながら、しました。……母の、香油を塗って」
 白蓮は優しく問いかけた。
「そう……ちゃんとけたの? 何回できた?」
 晧月はもう抗わなかった。
「三回試して……でも達けませんでした。白蓮さまの……あの手がないとっ……!」
 泣きながら懇願する晧月に、白蓮はやっと満足したように微笑んでみせた。
「いい子ね。ちゃんと言うこと聞けた子には……ご褒美をあげなくちゃね」

   ***

「はぁっ、あぅ、ああっ……ひぃあぁぁぁっ!」
 晧月は、彼が持参した『土産』を後孔に埋め込まれ、白蓮の手によって刺激を送られている。

 それを言葉もなく見つめるしかない蒼龍は、無意識に歯を食いしばり、敷布を握りしめた拳は微かに震えていた。
 快楽に溺れ、恍惚に震える晧月の目に浮かぶのは、自らを愉悦の底に縛りつける白蓮を、今だけは自分が独占しているという優越感――

 その晧月の微笑みの意味を、蒼龍は敏感に正確に感じ取り、ギリギリと音がするほど強く歯を食いしめた。彼はすぐさま立ち上がると、まっすぐに白蓮の方へ向かった。
「――来い、白蓮!」
 突然、強い怒りの籠った声を響かせる蒼龍に、白蓮は驚いた表情を浮かべた。
 蒼龍はもうこれ以上我慢出来なかったし、する必要も感じていなかった。
 晧月は施術を中途半端に中断された状態で放置された。

 蒼龍は白蓮の腕を掴んで力任せに寝台へ引きずっていくと、そのまま放るように白蓮の身体を寝台の上に投げ倒して、その上に覆いかぶさった。
「蒼龍さま……?」
 蒼龍は晧月を振り返ると、低く底から響くような声音でこう言った。
「そこで見ていろ、晧月。白蓮が一体誰のものなのか、もう一度しっかりと確かめるがいい」

 白蓮は息を呑み、蒼龍の強い怒りと、これからしようとしていることを感じて身体を竦ませた。
 蒼龍は掛布を掴み、白蓮の肢体を晧月の目から隠すようにして覆いながらも、その掛布の下では白蓮の夜着を剥ぎ、滑らかな肌の上に手を這わせた。
「やっ……蒼龍さまっ」
 抵抗しようとした白蓮の腕を掴み、蒼龍は強引に唇を重ねてきた。
「んっ……む……」
 舌を痛いくらいに吸われ、絡めとられる。白蓮は息苦しさにうっすらと涙を浮かべると、目を見開いて蒼龍を睨んだ。
 蒼龍は白蓮の耳元に小声で、しかし強い意志を籠めた声で囁いた。

「目の前で晧月を殺されたくなければ……逆らうな、白蓮」

   ***

 予想もしていなかった蒼龍からの強い怒りの反応に、白蓮が感じたのは申し訳なさだった。
(蒼龍さまに、こんな思いをさせるつもりはなかったのに……)
 晧月に見せつける目的で、にも関わらず白蓮の裸体を晧月の目に晒さないよう配慮してくれている。
 なによりも、こんな怒りに囚われながらも、白蓮に触れる蒼龍の手はいつも通りに優しかった。
「ああ、ん……蒼龍さま……あっ……」
 白蓮は自分の膣内で蠢く蒼龍の指に翻弄され、絶えず甘い声を漏らし続けた。

 晧月の耳には、官能を滲ませた白蓮の高くて甘く蕩けそうな声が響く。
 先ほど感じた優越感は幻のように消え失せて、あの白蓮をこんな風に啼かせる蒼龍に強烈な嫉妬心が湧いた。
 同時に、今の自分の惨めな様態に敗北感を強く感じ、床に頭を擦り付けるようにして呻き声とも泣き声とも分からぬ声を上げた。

 そのうちに白蓮の声が止み、晧月がおそるおそる顔を上げると、蒼龍が怜悧な眼差しで寝台の上から晧月を見下ろしていた。
 掛布に隠されていて肢体は見えないものの、息を乱し早い呼吸を繰り返す白蓮の表情が切なげに蒼龍を見上げていた。

 蒼龍は晧月には何も言わないまま白蓮に向き直ると、そっと耳元に何かを囁いたように見えた。そして白蓮が蒼龍に大きく足を開かれたのが掛布の上からでも分かり、白蓮が背中を大きくのけ反るようにして声を上げ、蒼龍のモノをその身に受け入れたのが分かった。

「あっ、あ、やぁ、んんっ……そ、りゅうさまっ、ああ、やあぁぁぁっ」
 寝台を激しく軋ませながら、蒼龍が何度も繰り返し白蓮に腰を打ちつける音までが閨に響いた。
 その音は晧月の耳に強烈な官能を注ぎ込む。
 施術を途中で止められて、一度は萎えてしまった晧月のモノは、白蓮の甘過ぎる啼き声と二人が交わる音に強く反応して隆起した。

 気が付けば晧月は、自身の固くなったモノを右手で擦りながら、後孔に挿れられたままだった張り型を床に擦り付けるようにして自慰を行っていた。
 目は固く瞑り、晧月の頭の中では自分が白蓮の肉体を犯し、その甘く高い声で啼かせていた。

 蒼龍の責めは長く続き、白蓮が何度目かの絶頂を迎えたのに合わせて、ようやく白蓮の膣内に精を注いだ。
 そうして身体を離す前に蒼龍が晧月を振り返ると、晧月は身体を丸くして床に倒れ、うっすらと目は開いているが放心した状態だった。
 床には白い濁液が大量に吐かれており、蒼龍は顔を顰めるとようやく白蓮から身体を離して、呟くように言った。
「もう二度と白蓮がお前に触れることはない。もしお前から近づいたことが分かれば、今度こそ命はないぞ」

 晧月はノロノロと身体を起こすと、低頭して手を頭の前に組み、礼の形を取ってみせた。
 床の白濁を晧月は自分の衣服の一部で拭き取ると、残りの衣服を適当に羽織った状態で、黙って閨を出ていった。

 白蓮がそっと蒼龍の腕を掴み視線を交わすと、眉根を寄せて泣きそうな表情を浮かべてみせた。
「ごめんなさい……蒼龍さま」
 蒼龍は軽くため息を吐くと、顔を顰めたまま白蓮に覆いかぶさるようにして、その身体を強く抱きしめた。
 幼なじみの命をこの手で奪わずに済んだことに、少しだけ安堵しながら――

   ***

 その後何年かに渡り、晧月は蒼龍の側近の職を離れ、州の観察使かんさつしとして地方へ出た。
 その間に、蒼龍と白蓮の間には二人の子が産まれ、李汀洲が宰相職へと格上げされるのに合わせて、晧月は再び蒼龍の側近として都へと帰ってくることになった。

   ***

「晧月が戻ってくるのですか?」

 瑠璃殿の庭で遊ばせている子供たちの姿を眺めながら、白蓮は横に居る蒼龍に確認するように問いかけた。
「ああ。あいつは頭は固いが、官人として優秀なのは間違いないからな」
「そうですか、晧月が……」
 白蓮が複雑な表情を浮かべてそう呟いたのを聞き、蒼龍と白蓮の下の娘である鈴麗りんれいが、幼くまだよく回らない口で「こおげつ?」と不思議そうに白蓮の顔を覗き込んだ。
 白蓮は微笑むと、鈴麗を抱き上げて頷いた。
「そうよ鈴麗。こ、う、げ、つ」
「こおげつ、こおげつ」
 鈴麗は楽しそうに手足をバタつかせながらそう繰り返すと、地面に降ろされて、また元気よく庭を走り出した。

 秋晧月が残りの生涯を全て捧げて仕えることを決める、この小さな運命の主との出会いを果たすのは、ここからもう数年先の話である。

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