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番外編
黄丕承 其の一「男には秘密」
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黄家の長男、丕承は唯一家族が揃う朝食の席に座ったとき、ぼそっと呟いた。
「なぁ親父。白蓮、いつ帰ってくんの?」
すると黄一族の長であり、丕承と白蓮の父でもある虞淵は、妻であり二人の母である春華と目を見合わせてからこう答えた。
「もしかすると帰らんかもなぁ」
「そうねぇ。アレにかかっちゃひとたまりもないかもね」
丕承は両親の顔を交互に見比べて顔をしかめた。
「アレって……陛下のこと?」
春華は白蓮とよく似た妖艶な美貌に愉しそうな笑みを浮かべると「うふふ」と笑い声を漏らした。
「結構イイ男だったわよ。ウチに来たときは、娼妓じゃなくて私がお相手してあげようかと思ったわ」
普段は冷静沈着で、どちらかといえば寡黙な父が飲んでいた汁物を「ぐふっ!」と吹き出した。
「春華……おまえ……」
「やだあなた! 冗談よ、冗談」
迷人華館の経営者である父は、娼妓の仕込みや調達はもちろんのこと国一番の売上を誇る店ということもあって様々な女と接する機会が多い。だが、丕承の知る限りこの母――春華ひとすじである。
同じ場所で働いている丕承は後継ぎであるため、父――虞淵と常に行動を共にしているが、浮気しているような雰囲気がかけらもないことをよく知っている。チャンスはいくらでもあるのに、である。
「あの子初心だからねぇ。もし後宮入りするなんてことになったら、色々と教えてあげなくちゃね」
春華の言葉に、虞淵と丕承は揃って眉をひそめた。
丕承は母に問いかけた。
「色々って?」
「うふふ。男には秘密」
「は?」
丕承が父を見ると、素知らぬ顔をして食事を続けている。
(親父は『色々』の中身を知ってるのか?)
「あいつが帰ってこないと、秘技を希望する客がさばききれないんだけどなぁ」
その言葉に、春華が目を丸くして「あら」と顔を上げた。
「私が店に出ましょうか?」
すると虞淵が間髪いれずに「ダメだ!」と声を荒げた。
「白蓮と違っておまえでは施術に時間がかかりすぎる。そんな長い時間客と……ダメだダメだ!」
丕承は目を丸くして、苦笑を浮かべた。
「親父……どんだけ母さんのこと好きなんだよ」
すると春華がまた「うふふ」と笑った。
「黄家の女を嫁にしたんだから当然でしょ」
「え? なんで?」
眉根を寄せた丕承の顔を見て、春華は妖艶な微笑みを浮かべてみせた。
「だから、男には秘密、よ」
「なぁ親父。白蓮、いつ帰ってくんの?」
すると黄一族の長であり、丕承と白蓮の父でもある虞淵は、妻であり二人の母である春華と目を見合わせてからこう答えた。
「もしかすると帰らんかもなぁ」
「そうねぇ。アレにかかっちゃひとたまりもないかもね」
丕承は両親の顔を交互に見比べて顔をしかめた。
「アレって……陛下のこと?」
春華は白蓮とよく似た妖艶な美貌に愉しそうな笑みを浮かべると「うふふ」と笑い声を漏らした。
「結構イイ男だったわよ。ウチに来たときは、娼妓じゃなくて私がお相手してあげようかと思ったわ」
普段は冷静沈着で、どちらかといえば寡黙な父が飲んでいた汁物を「ぐふっ!」と吹き出した。
「春華……おまえ……」
「やだあなた! 冗談よ、冗談」
迷人華館の経営者である父は、娼妓の仕込みや調達はもちろんのこと国一番の売上を誇る店ということもあって様々な女と接する機会が多い。だが、丕承の知る限りこの母――春華ひとすじである。
同じ場所で働いている丕承は後継ぎであるため、父――虞淵と常に行動を共にしているが、浮気しているような雰囲気がかけらもないことをよく知っている。チャンスはいくらでもあるのに、である。
「あの子初心だからねぇ。もし後宮入りするなんてことになったら、色々と教えてあげなくちゃね」
春華の言葉に、虞淵と丕承は揃って眉をひそめた。
丕承は母に問いかけた。
「色々って?」
「うふふ。男には秘密」
「は?」
丕承が父を見ると、素知らぬ顔をして食事を続けている。
(親父は『色々』の中身を知ってるのか?)
「あいつが帰ってこないと、秘技を希望する客がさばききれないんだけどなぁ」
その言葉に、春華が目を丸くして「あら」と顔を上げた。
「私が店に出ましょうか?」
すると虞淵が間髪いれずに「ダメだ!」と声を荒げた。
「白蓮と違っておまえでは施術に時間がかかりすぎる。そんな長い時間客と……ダメだダメだ!」
丕承は目を丸くして、苦笑を浮かべた。
「親父……どんだけ母さんのこと好きなんだよ」
すると春華がまた「うふふ」と笑った。
「黄家の女を嫁にしたんだから当然でしょ」
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「だから、男には秘密、よ」
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