美味しくお召し上がりください、陛下

柊あまる

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番外編

黄丕承 其の二「やっと……」

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 黄家が唯一全員揃う、朝食の席――
 妹の白蓮が姿を見せない。
 丕承ひしょうは不思議そうに「あいつは……?」と呟いた。

 母の春華しゅんかは目をパチクリとさせて「あら」と答えた。
「やだ、言ってなかった? やっと昨日後宮に帰ったのよ。んも~あの子ったら意外と愚図なんだから!」
 するとこれまた意外なことに、父の虞淵ぐえんもため息を吐きながらうなずいた。
「このまま帰らないと言い出したらどうしようかと思っていた」

 丕承は怪訝な表情を浮かべて、二人を見比べた。
「え、なんで? 家に居たほうが良いだろ。秘技の客も捌けるし」

 すると春華が「そっか」と呟いて何かを納得したかのようにうんうんと頷いてみせた。
「そういえば何も説明してなかったわねぇ」
「忘れてたな……」
 虞淵も呟いた。

「何? なんのこと?」
 眉間にシワを寄せた丕承は、じっと両親の顔を見て話の先を促した。
 すると春華がカラカラと笑って言った。
「あの子、陛下のお手つきになったクセに、帰ってきちゃったのよ」
「は?」
「お手がついたら、皇子が産まれる可能性があるでしょ? 普通、お妃さまって後宮を出たりしないもんだけど、あの子は出てきちゃったわけ」
「へ?」
「まずいのよ、早く帰ってくれなきゃ。下手したら反逆罪なんかもあり得るでしょ。あの子の場合、陛下とのことが周りに知られてなかったのが幸いしたけど。こっちはヒヤヒヤものよ~」

(白蓮に陛下のお手が……?)
 丕承はその事実にやっと頭が追いつくと、驚愕のあまり叫んだ。
「嘘だろう? うちは平民だぞ!?」

 すると春華と虞淵は目を見合わせて不思議そうな表情を浮かべる。
「別におかしくないだろう」
「そうよ。だって白蓮よ? できるだけ良い家に嫁がせようと思って大事に手塩にかけてきた娘よ? 当然の結果よ」
「ええ~?」
 丕承は自分の両親の考えていることが全く理解できなかった。

「じゃあもしかして、白蓮を最初に後宮にやった時から、そうなると思ってたのか?」

 丕承の言葉に、虞淵はふぅっとため息を吐くと、春華を見つめながら言った。
「陛下がうちの店に来たときからか?」
 すると春華も何かを思い出すかのように首を傾げる。
「最初に白蓮のことを娼妓と間違えて指名してきたとき、かしらね」

「それっていつだよ?」
 丕承が聞くと、春華はにっこり笑って「二年前よ」と答えた。
(二年前――?)

「やっとか……」
 虞淵がそう呟いてわずかに寂しそうな表情を浮かべたのを見て、春華は慰めるように虞淵の背中をポンポンと叩いて言った。
「本当に。やっとね」

 丕承が茫然としていると、春華は急に真顔になって丕承を振り返った。
「ちょっと丕承! 次はあんたよ! 白蓮の婿取りはなくなったんだから。早く跡継ぎ作ってくれなきゃ困るのよ!」
「え? 俺?」

 急に攻撃のお鉢が回ってきた丕承は、納得いかない気持ちを持て余しつつ、いつも白蓮が座っていた席を見る。
 丕承はそこにぽっかりと穴が空いたように感じて、長いため息を吐いた。

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