江戸の『鬼』

小豆あずきーコマメアズキー

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似たもの家族

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「鈴!鈴!やべぇ!鈴!」

台所で叫ぶのは緑色が掛かった黒髪の、性的魅力に溢れた高身長の男。白鳥ナガレだ。

「いかがせる(どうしたの)?」

囲炉裏に座って洗濯物を畳んでいたブロンドの短い髪の、一度見たら頭にずっと残る蠱惑的な美貌の主、鈴は立ち上がり、台所へ行く。

「如何した(どうした)?」

行くと、釜の前で竹筒を手に火加減を見ながら米を炊いており、彼は顔を向けた。

「呼びけむ(呼んだでしょう)?」

「気のせゐでないのか(気のせいじゃないのか)?」

「呼びしぞ(呼んだよ)」

そんな会話を聞いていた、息を飲む程美しい女に育った、ナガレの要素が一つも無い娘、美鈴はこう、感じた。

さ言はば(そう言えば)。

母は父のいづこ恋しくなりけむ(ママはパパのどこが好きになったんだろう)?

いづちより申し込みしけむ(どっちからプロポーズしたんだろう)?

父と母に限りて(パパとママに限って)。

申し込みする思ひやりなし(プロポーズするイメージがない)。

「ふぅ」

やがて、五右衛門風呂に美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体になって浸かる鈴と、引き締まった43歳とは思えない裸体を晒して浸かるナガレ。そして、若々しい、母親譲りの美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体姿になって共に美鈴は浸かっていた。

「母(ママ)」

「なに?」

「母は、いかで父とあひし(ママは、どうしてパパと結婚したの)?」

「あぁ?そりゃ決まっとるであろ?それがしの事お慕い垂きからでござる(そりゃ決まってんだろ?俺の事愛してっからだよ)」

そりゃそうだ。愛し合ってなければ結婚など出来ん。

「ん~それもされど(それもそうなんだけど)」

「御母上はな。貴様と同じ歳の頃には、貴様が腹に居たんでござる(ママはな。お前と同じ歳の頃には、お前が腹に居たんだぜ)?」

「えっ!?それは(それって)…!」

瞳を揺らし、ふと、ママに顔を向けた。

「今の世、両親の選ぶ人とあひするが当たり前。十三に我はあへど、美鈴はいまだ疾ければぞ。されど、いかがすともナガレ良く。親に逆らひけり(今の時代、両親が選ぶ人と結婚をするのが当たり前。13で私は結婚したけど、美鈴はまだ早いからさ。けど、どうしてもナガレが良くて。親に逆らったんだ)」

囲炉裏に薪を焚べ、パチパチと燃え盛る。美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体姿になって仰向けになる鈴の上に覆い被さるのは、ナガレだ。筋肉で引き締まった裸体になって、人並み外れて大きな陰茎を差し込んだ状態で出し入れさせていた。

『んっ!ん、はぁ!はぁはぁはぁはぁ』

唾液を垂れ流し、快楽の海に溺れて這い上がる事が出来ず、体がバラバラになるほど愛され、一度からだにこびりついた快感はどこにも出ていかない。なかなかお目にかかれない綺麗な形のほっそりとした美脚を両肩に掛け、両方の手でカップル繋ぎして愛し合う。

『おぉ…………………ッ…く…あぁ』

彼は額から一筋の汗を流し、締め付けられたその快感にブルッと身震いをする。

『心地良し。ナガレ。心地良し(気持ち良い。ナガレさん。気持ち良い)』

ブルッと身震いをし、腰を痙攣させて軽く達し、トロォッ♡と愛液が糸を引く。ゆるんで少し開いた唇と、エロチックな視線とが射るように圧迫させられ、自分以外の男には見せない、そんな表情を見せられたものだから、愛おしくて、堪らない。

『それがしもこころもち良き(俺も気持ち良い)!鈴』

突き昇ってくる熱の魅力に抗えず、欲望を燃え上がらせどくどくと全身の血が滾り、太く猛々しくそびえ、びくんびくんと脈打つ陰茎から、我慢汁が溢れ、子宮を突き上げる。

『あっ!あっ!あぁっ!ん、はぁ!』

あまりの快感にぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、失神しそうな程のエクスタシーが体を駆け抜け、ビクビクと腰を痙攣させブシュッ!と、潮を吹き出し

『おぉ……………………ッ…ぐ、くぅ!』

彼も腰を痙攣させ、年甲斐も無く多量の精を放つ。射精は力強く、雄々しく、精液はどこまでも濃密だった。きっとそれは子宮の奥まで到達したはずだ。あるいは更にその奥まで。それは実に非の打ち所のない射精だった。膣に射精された精子が駆け抜け、子宮へと到達する。そして、卵管を通り卵子を待つ。卵巣から排卵が起こる。精子と排卵をした卵子が、卵管膨大部で出会い、受精をする。受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管を通り、子宮内へ移動する。子宮に到達した受精卵は、子宮内膜に着床し、妊娠が成立する。

『恋し。思へり。ナガレ(好き。愛してます。ナガレさん)』

まだ熱は下がらず、定期的にぴゅぴゅっ!ぴしゅっ!と潮を吹き続ける。

『それがしもお慕い垂き(俺も愛してる)。鈴』

ナガレは笑みを浮かべ、唇に唇を押し当てた。

「なれば、早く母のあふ人は、誰なりし(じゃあ、元々ママが結婚する人って、誰だったの)?」

「隣にゐたりし人に、かのすなはちに丗八の人なれば、今は、五十一(隣に住んでた人で、あの当時で38の人だったから、今はもう、51)?」

「五十一?!」

それを聞いて驚愕し、目を見張る。

「五十壱!?」

それにはナガレもびっくり。

「鬼賀乃仁導分かるぞかし(様分かるよね)?」

「えっ!?か(あ)の『鬼』!?」

鬼賀乃仁導と言って知らない人は居ない。居るとしたら余所者くらいだろう。冷酷非道で人間を人間扱いせず、自分の事を人間とは認めておらず、『生き物』と言い、凶悪犯を、村人が居る目の前で腕や脚を切り落とし、食べた事がある有名な人だ。

「貴様仁導と輿入れするでござる算段でござったとか(お前え仁導と結婚する予定だったのか)!?」

今の夫もびっくり。それは初耳だ。

「仁導ならぬ方、お兄。綝導とあふあらましなりし。されど、いかがすともナガレ良く。親に逆らひてあへど、綝導は人が良ければいなぶべけれど、仁導ならば今頃我、殺されたりもこそ(仁導様じゃない方、お兄さん。綝導様と結婚する予定だったの。けど、どうしてもナガレが良くて。親に逆らって結婚したけど、綝導様は人が良かったから断る事が出来たけど、仁導様なら今頃私、殺されてたかもしれない)」

瞳を揺らし、ふと、あの頃の記憶が浮かぶ。

『………………………………………』

布団の上に座る鈴は美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体姿になっている彼女は、薄い毛布を胸の前に引き寄せて震えており、俯いた状態でぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流していた。

『鈴氏(ちゃん)』

向き合って座る鬼賀乃綝導は笑みを浮かべており、頬に触れた。双子の弟、仁導とは違って性格がとても良くて優しく、それが顔に滲み出ていて笑顔がとても似合う人だ。

『!!!!!!!!!?』

ビクッとし、顔を向けた鈴は、ガクガクと震えてしまう。

『鈴氏は未だ若ゐ。ご両親が決めたとしてちょーだいも、お主が決めるべきであるとせっしゃ思うておる(鈴ちゃんはまだ若い。ご両親が決めたとしても、君が決めるべきだと俺は思う)』

そう、口にしてくれたのだ。

『申し訳さうらはず。我、恋しき人が(申し訳ございません。私、好きな人が)…』

その時だった。

『うあぁ!』

ドサッと前に倒れた彼女のその後頭部には脚が乗っていた。

『仁導!!』

『ほぉ。貴様の屋敷に参った甲斐があったでござる。良き女でないか(お前の家に来た甲斐があった。良い女じゃないか)』

黒髪で、高身長のイケメンの風貌の主である男、双子の弟。仁導。

『脚を退けろ!』

『愚民がそれがしに指図するでござるな(俺に指図するな)!』

脚を退けて鈴を乱暴に仰向けにさせ、両膝に腕を回して引き寄せた。

『うたてしっ!うたてし(やっ!いやぁ)!』

『食ゐ頃の処女臭ゐ御身じゃ。食ゐ散らかすには丁度良き(食い頃の処女臭い身体だ。食い散らかすには丁度良い)』

唾液を垂れ流し、アゴを掴んで上体を倒した仁導は舌を差し込み

『あぁっ!』

裾から大きい陰茎を手にして、亀頭を差し込む。

『うあああぁ!!』

『止めろ!』

彼女を抱き締めて守り、体に覆い被さり自分が盾になる。

『邪魔するでござるな!かのような食ゐ頃の良き女をいずこにて連れて参ったか是非に及ばぬが(邪魔するな!こんな食い頃の良い女をどこで連れて来たか知らないが)、女寄越せ!喰わせろ!』

刀を手に、自分の兄でありながらも彼は容赦無く突き刺した。

『ぐっ!!』

『綝導(綝導様)!』

鈴は、体育座りし、ナガレに寄り添う。

「などかしか父の良かりし(なんでそんなにパパが良かったの)?」

美鈴はそう聞くと、彼女は慣れ染めを話し出す。

「ナガレは、傘を売りに来る人なりけれど。接客けしきがいと良く、わらはのごとくいわけなく笑へる顔恋しく。『この人と暮らさば、日ごろが幸せにならむな』と思ひて、すがらに夢見たりき。されど、おのづから村にばったり会ひて、声を掛けし。そこより、まめやかなる行合ひが始まりて、あひき(人だったんだけど。接客態度がとても良くて、子供みたいに無邪気に笑ってる顔が好きで。『この人と暮らしたら、毎日が幸せになるんだろうな』って思って、ずっと夢見てた。けど、たまたま村でばったり会って、声を掛けたの。そこから、本格的な出会いが始まって、結婚した)」

出会いは、彼が傘を売りに来ていた時から始まっていた。もしもナガレが傘を売りに来てくれなければ、美鈴は居なかっただろう。この出会いが、どう人生を左右するのかが良く分かる。

「さりけり(そうだったんだ)」

我が生まれしひまは(私が生まれたきっかけは)。

父が傘を売りに来たればなり(パパが傘を売りに来てたからなんだ)。

行合ひは(出会いって)、不思議。

「なれど、あふ前に、ナガレにも居しぞかし?さ言ふ人(だけど、結婚する前に、ナガレにも居たんだよね?そう言う人)」

「えっ!?父(パパ)にも!?」

「あぁ~!掘り出すなで候。ま、それがしが好いておった訳ではないなれど(掘り出すなよ。まあ、俺が好きだった訳じゃねえんだけどよ)」

パシャッと腕を動かせば湯が軽く波打ち、前髪を掻き上げる。

『ナガレ(ナガレさん)!』

リヤカーに傘を乗せて売りに行く前に、近所の元服を迎えた15の女、大原芽衣が良く声を掛けに来てくれていた。あどけない愛らしい顔をしてスタイルが良く、自分に自信がある子だった。

『よぉ!けふも達者じゃな?それがしも達者に傘売りじゃ!行とは来る(今日も元気だな?俺も元気に傘売りだ!行って来る)!』

いつもの会話。この会話を済ませて傘を売りに行く。だが、今日は違っていた。

『ナガレ(ナガレさん)!』

その腕を掴んで、引き留めたのだ。

『ナガレ。芽衣、元服を迎へき。芽衣を、ナガレのお嫁にしたまへ(ナガレさん。芽衣、元服を迎えました。芽衣を、ナガレさんのお嫁さんにして下さい)』

頬を染め、上目遣いでそう口にした。

『あぁ?奥方(嫁)?ぶはははは!おゐおゐ冗談であろう?拙者独りにて、拾分(おいおい冗談だろう?俺は独りで、十分)!』

そう言って交わし歩き出すも、目の前まで来て引き留め、彼の頬に触れて背を伸ばし

『恋し。ナガレ(好き。ナガレさん)』

唇に唇を、押し当てた。

「!!!!!!!!!?」

美鈴は、カアァッと頬を染めてしまう。今の自分には刺激が強い。それが当時15の娘がするような行動ではない。大胆過ぎる。

「ふ~ん。接吻せるなり(キスしたんだ)」

それを聞くのは初めてであったのか、心に嫉妬がうごめき、ムスッとしてしまう。

「したでござる訳ではない。させたんじゃ。とはいえ、その後に鈴に出會とは、わらしが出来て、輿入れしてちょーだい。あの子とは其れっきり會とはなゐ。変に自信のあるでござる子でござったからで候。相当心外したんでないのか(したんじゃねえ。されたんだ。んでも、その後に鈴に出会って、子供が出来て、結婚して。あの子とはそれっきり会ってない。変に自信のある子だったからよ。相当ショック受けたんじゃないのか)?」

父と母が出会う前は、色々と大変だったようだ。

「なれば、父は母のいづこか恋しくあひし(じゃあ、パパはママのどこか好きで結婚したの)?」

それに対し、彼はこう口にした。

「存在」

「色(存在)?」

「存在自身愛おしくてで候!可愛くてで候!なんであろうな?心底にて好き!お慕い垂き(存在自体愛おしくてよぉ!可愛くてよ!なんだろうな?マジで好き!愛してる)!」

なんか、惚気られた気がする。とにかく父は、母にベタ惚れのようだ。そう思うと、お似合いの夫婦だ。

「ううううぅ~」

「ああああぁ~」

「うぅ~」

囲炉裏でタオルを巻いてうつ伏せになる鈴と、仰向けになって倒れるナガレ。そして、横たわる美鈴と、家族揃って裸のまま逆上せてしまい倒れている。似たもの家族だ。
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