江戸の『鬼』

小豆あずきーコマメアズキー

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〜人は皆、誰かに恋をする。それは手に届く存在であっても、手に届かない、近くて遠い存在であっても。愛し愛され生きて行く〜

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この小さき(い)村に(で)生まれ。

我は、其方と行合ひき(私は、あなたと出会った)。

冬の月が夜気を白刃のように凍らせる。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

布団の上で美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体姿になって仰向けになる、ブロンドの短い髪の、一度見たら頭に残る蠱惑的な美貌の13歳の少女。鈴の上に覆い被さるのは、緑色が掛かった黒髪の、性的魅力に溢れた43歳の男、白鳥ナガレは筋肉で引き締まった裸体になって、人並み外れて大きな陰茎を差し込んだ状態で出し入れさせていた。

「あぁっ!ん、はぁ!」

唾液を垂れ流し、なかなかお目にかかれない綺麗な形のほっそりとした美脚を両肩に掛け、両方の手でカップル繋ぎし、快楽の海に溺れて這い上がる事が出来ず、体がバラバラになるほど愛され、一度からだにこびりついた快感はどこにも出ていかない。

「あっ!あっ!あぁ……………ッ…はぁ!」

元々が、誰もが満足の行く大きさであり、それが興奮して勃起する事によって更に人間離れした大きさになる。それで突き上げられているので、大いに体が満足する。

「ぐ………………………ッ…ゔ、あぁ!はぁはぁ」

彼は、額から一筋の汗を流し、締め付けられたその快感にブルッと身震いをする。突き昇ってくる熱の魅力に抗えず、欲望を燃え上がらせどくどくと全身の血が滾り、ビュクビュクと我慢汁が溢れる。子宮が降りて来たいつでも妊娠が出来るように整えられる。

「鈴。お慕い垂(愛してる)」

「我も!思へ、り(私も!愛して、る)!ん、はあぁ!」

失神しそうな程のエクスタシーが体を駆け抜け、ビクビクと腰を痙攣させてブシュッ!と、潮を吹き出し

「ぐ…………………ッ…おぉ!」

夫も腰を痙攣させ、年甲斐も無く多量の精を放つ。飛び散る程の多量の精だ。射精は力強く、雄々しく、精液はどこまでも濃密だった。きっとそれは子宮の奥まで到達したはずだ。あるいは更にその奥まで。それは実に非の打ち所のない射精。膣に射精された精子が駆け抜け、子宮へと到達する。そして、卵管を通り卵子を待つ。卵巣から排卵が起こる。精子と排卵をした卵子が、卵管膨大部で出会い、受精をする。受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管を通り、子宮内へ移動する。子宮に到達した受精卵は、子宮内膜に着床し、妊娠が成立する。

「ーーーーーーーーーーーッ!」

その際に、余分の脂肪の無い痩せて凹んだ腹部がボコッ!と膨れ上がり、子宮に熱湯が注がれたように熱くなり

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

すべてが終わったとき、次第に遠のいていく恍惚の中で女がブルッと、身震いをする。

「どんな子が生まらるるであろうな(生まれんだろうな)?」

互いに体は汗ばんでおり、額から流れる汗を拭いながら彼は前髪を掻き上げ、子供のように無邪気な笑みを浮かべる。

「すくよかに養生やうなる子に、ナガレに覚えてヤンチャな男の子(元気で健康的な子で、ナガレに似てヤンチャな男の子)」

「貴様に似て美人にて、しかとしておるなれど、少し臆病なおなごかな(お前に似て美人で、しっかりしてっけど、少し臆病な女の子かな)?」

幸福で仕方が無かった。子供に恵まれるか恵まれないか分からないが、本当に幸福で、仕方が無い。

「お慕い垂き(愛してる)」

「我も思へり。いと恋し(私も愛してる。大好き)」

互いに唇に唇を押し当て、愛し合う。

河原で遊ぶ水色の長い髪をツインテールにし、あどけない顔をしながらも目付きがキッとしている低身長の女、朧月夢は、石文を踏んで歩く。

「夢!危ういから戻とはおゐにて(危ないから戻っておいで)!」

後ろで呼び掛けるのは鬼賀乃綝導だ。双子の弟、仁導とは違って性格がとても良くて優しく、それが顔に滲み出ていて笑顔がとても似合う人だ。

「とーく(はーやーく)ー!」

「早うと云われても(早くと言われても)」

彼は、先に行く彼女を追い掛ける為、慎重に石文を踏む。実は、バランス感覚が無く、下ばかり見て周りへの配慮が出来なくなってしまう。明かりは無くても月明かりさえあれば提灯など要らない。『(散歩がしたい)!』と、急に家に来て言われたものだから、最初は『(こんな夜に)?』と思ったが、彼は快く同意して川に来たと言う次第。

「とくとく(早く早く)~!」

「待たれよ。必ず参る(待ってくれ。必ず行くから)」

綝導は、慎重に慎重に石文を踏んで進む。

「キャハハ!遅し(遅~い)!」

「すまなゐ。釣り合いが無くて(すまない。バランス感覚が無くて)…」

夢を前に、やっと辿り着けて安心したのか

「!!!!!!!!!?」

ツルッと脚を滑らせてしまい、自分よりも小さい小さい12歳の女の子の後頭部と背中に腕を回して抱き締めてそのままバッシャーン!と、川に落ちてしまったのだ。今は霜月、つまり11月の牛の刻子の下刻(深夜2時)。川はもちろん冷たい。

「へぶし!」

夢は、くしゃみをした。

「すまなゐ」

五右衛門風呂に浸かる彼女は若々しい幼児体型の裸を晒しており、恥ずかしげも無く立ち上がれば、膨らみの暗示さえない胸に飾りのようにポチッと付いているその乳首が顔を出す。

「などかもろともに入らぬ(なんで一緒に入ってくれないの)~?」

「ほら。風邪引くと困るからしかと(しっかり)浸かる」

新しい衣を身に付けている彼は桶に井戸水を溜めて洗濯板で夢と自分の身に付けていた着物と衣をゴシゴシと洗っていた。昔から彼女は、不満を感じるとプクッと頬を膨らませる。五右衛門風呂から出るなり

「?」

濡れた体で綝導に抱き付いたのだ。

「あぁ~あ」

「夢いられたる(イライラしてる)今」

「全く」

後頭部と背中に腕を回すなり、彼は座るとその膝の上に座りギュッと抱き締める。

「夢が十三歳にならば、さらに花嫁にて迎へよ(夢が13歳になったら、絶対に花嫁として迎えてね)!」

「あはははは!其れまにて生きてるかの?それがし(それまで生きてるかなぁ?俺)」

「生きたるぞ!なんとなればあと八月に十三になるもの(生きてるよ!だってあと8ヶ月で13になるもん)!」

「ははは!存念しておき候(考えておきます)」

可愛い可愛い子供の言う事だが、夢は真っ直ぐだ。真っ直ぐな気持ちをしっかりと持っている。こんな、39歳も離れている娘から好かれる日が来るとは。まだまだ青春を謳歌出来ている。

「(あんたぁ!あんたぁ)!」

「ぐあぁ!ぎゃあああああぁ!」

縄で拘束させられた村の男は、外で燃やされていた。
可愛い可愛い子供の言う事だが、夢は真っ直ぐだ。真っ直ぐな気持ちをしっかりと持っている。こんな、39歳も離れている娘から好かれる日が来るとは。まだまだ青春を謳歌出来ている。

「………………………………………」

死ぬるなどな言ひそ(死ぬとか言わないでよ)。

をこ(バカ)。

瞳を揺らして頬を染める彼女は

恋し(好き)。

その瞳を閉じ、綝導を感じる。

「なんぢ!なんぢ(あんたぁ!あんたぁ)!」

「ぐあぁ!ぎゃあああああぁ!」

縄で拘束させられた村の男は、外で燃やされていた。妻である若い女は、愛する夫が燃やされているのを目に、何も出来無い。

「かはかは、丁度良き焚き火じゃ(これはこれは、丁度良い焚き火だ)」

その前で黒髪で、高身長のイケメンの風貌の主である男、鬼賀乃仁導は手を差し出して体を温めていた。

「この、化け物!」

怒りが激しい波のように全身に広がり、出刃包丁を手に走り出したその妻を、刀を抜いて首を刎ねた。スプリンクラーのように血飛沫を浴び、首が転がる。

「それがしを始末したいでござるのにてあらば、それがし以って上の力を得ろ。後ろから襲とは来ても、それがしには勝てなゐ。思ゐ知ったか(俺を始末したいのであれば、俺以上の力を得ろ。後ろから襲って来ても、俺には勝てない。思い知ったか)」

女の顔に唾液を吐き掛け、夫の側に顔と胴体を蹴って持って行き燃やす。刀を鞘に収めて銃を懐に仕舞い、歩き出す。

「んんー」

布団の上で仰向けになって寝る赤(せき)は、体中むしゃぶりつきたいくらい綺麗な裸体にタオルを巻いていた。普段は二つ結びに結えているそのブロンドの髪を下ろしており、夢とは違った美人系の顔をしているが目付きがキッとしていて、上品な女性の言葉遣いは一切使わず、口調はとても男勝りな女の子。ガタッ。

「?」

彼女は、片方の目を開けた。

「あぁ?」

戸が開く音がしたと思えば、廊下を歩く脚音が。

「なになり(なんだ)?」

上体を起こすと、部屋の襖を開けられた。

「!!!!!!!!!?」

ギョッと目を見張り、膝を立てて股を閉じる。

「なんぢ!おとな!血浴びたるならずや(おまっ!おっさん!血浴びてんじゃねえか)!」

顔は血飛沫が飛んでおり、仁導は何も言わずに入ると赤の細い両脚を束ねて掴めばそのまま持ち上げ

「だっ!」

彼女はドサッと後ろに倒れれば、閉じていても女性器は丸見えであり、彼は裾を捲って大きい陰茎を手にし向ける。太く猛々しくそびえ、びくんびくんと脈打ち、我慢汁がトプッと糸を引く。

「やよ止めよ!汚なしんぞ!消えよ(おい止めろ!汚ねえんだよ!消えろ)!」

そのままズブッと、差し込んだ。

「う、あぁ!」

濡れていなければ脚が上がっているので膣は閉まっており、差し込まれるとその形に広がっていく。

「あああああぁ!」

声を出さなければこの痛みに耐えきれない。

「狭ゐ!」

「なら抜けジジィ(なら抜けよジジイ)!」

ガバッと股を広げ、奥に無理に打っ込む。

「ぎゃああぁ!」

唾液を垂れ流し、布団カバーを鷲掴み、プシャアッと尿を漏らした。

「その歳にて漏らすとは、面目なくござらんとか(その歳で漏らすとは、恥ずかしく無いのか)?」

口のあたりに意地の悪い笑みを彫りつけたように浮かべる。

「うるさし(うるせぇ)!黙れ!」

「可愛げの無い」

ガッと、それなりに膨らんだ胸を鷲掴み

「あぁっ!!」

バコッ!バコッ!バコッ!バコッ!バコッ!と、子宮を何度も突き上げた。

「あぁ!ああああぁ!あっ!あっ!あっ!あっ!あっ!あっあぁ!」

止めよ(止めろよ)!

かく言ふほどばかり家に来て(こう言う時ばかり家に来やがってよぉ)!

「畜生!な舐めそ(チキショー!舐めんじゃねえ)ジジィ!」

この上ない快感にブルッと身震いをし、しっかりと締め付けて咥え込み、離さない。

「不満がござるのはそれがしの方じゃ!貴様はただに体をそれがしに授けてゐらば良き(不満があるのは俺の方だ!お前はただ身体を俺に授けていれば良いんだ)!」

「なんぢの不満すずろにいかがにも良きぞ!かかる時ばかり家に来ざらずや(お前の不満なんかどうでも良いんだよ!こんな時ばかり家に来んじゃねえ)!」

「道具が親方様に不満をぶつけるな!下半身さゑあらば良き貴様の体を使ひてやっとるんじゃ(道具が主人に不満をぶつけるな!下半身さえあれば良い貴様の身体を使ってやってるんだ)!」

額から一筋の汗を流し、締め付けられるその快感にブルッと身震いをし、突き昇ってくる熱の魅力に抗えず、欲望を燃え上がらせどくどくと全身の血が滾り、女を『物』にする。

「うあぁ!ああああぁ!あぁっ!あっ!あっ!く、はあぁ!」

元々が、誰もが満足の行く大きさであり、それが興奮して勃起する事によって更に人間離れした大きさになる。それで突き上げられているので、大いに体が満足する。

「なんじゃその声は?よも、感じておる、左様な事はござらんのう(なんだその声は?まさか、感じている、そんな事は無いよな)?赤姫」

「くふぅ!心地悪しよ呆けが(気持ち悪ぃんだよボケが)!」

畜生(チキショー)!

畜生畜生畜生畜生!畜生(チキショーチキショーチキショーチキショー!チキショー)!

心地良く、堪らず(気持ち良くて、堪んねえ)!

「くふぅ!んううううぅ!」

ギリッと歯を食い縛り、一度からだにこびりついた快感はどこにも出ていかず、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、腰を痙攣させて軽く達し、愛液が糸を引き、パタパタと滴る。

「あぁん!んはあぁ!」

身体は素直に聞き従う事によって、赤も素直になり可愛い声を出す。

「あぁっ!あっ!あっ!ん、あぁ!」

なんぢ(お前)の顔を見る度に。

口惜しきほどに(悔しいくらいに)。

我が体が、熱くなりぬるぞ(オレの体が、熱くなっちまうんだよ)!

「はぁ。ようやく素直に成り申したか。がきが云おりきゐ事ばかり云ゐおとは(やっと素直になったか。ガキが言いたい事ばかり言いおって)」

脚を肩に掛ければ膣が狭くなり、更に締め付けさけ

「ひぎゃあぁ!」

低ラインで突き上げればGスポットを直接擦られ、身体は彼を求め続ける。

「あぁん!あっ!あっ!あぁ!」

舌を出し、快楽の海に溺れて這い上がる事が出来ない。

畜生(チキショー)!

「ああああああぁ!」

達す!

「達しめてやらふ(達させてやろう)」

集中的に子宮を突き上げ続ければ

「あぁっ!ぎゃうううううぅ!」

この上ない失神しそうな程のエクスタシーが体を駆け抜け、ビクビクと腰を痙攣させ、体は快感のあまりにゾクゾクし、ブッシューーーーーーーーーッ!と、何メートルとも潮を吹き出し

「ーーーーーーーーーーーッ♡」

年甲斐も無く多量の精を放った。それは飛び散る程の多量の精。射精は力強く、雄々しく、精液はどこまでも濃密だった。きっとそれは子宮の奥まで到達したはずだ。あるいは更にその奥まで。それは実に非の打ち所のない射精。膣に射精された精子が駆け抜け、子宮へと到達する。そして、卵管を通り卵子を待つ。卵巣から排卵が起こる。精子と排卵をした卵子が、卵管膨大部で出会い、受精をする。受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管を通り、子宮内へ移動する。子宮に到達した受精卵は、子宮内膜に着床し、妊娠が成立する。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

我が体をな使ひそ(オレの体を使うな)!

我より外に体の縁を持てる女の居る(オレ以外に体の関係を持ってる女が居るの)!

知りたるぞ(知ってんだぜ)!

かかる時ばかり来るなんぢに(こんな時ばかり来るお前に)!

せむかたなくいまいましかりたるぞ(どうしようもなくムカついてんだよ)!

すると彼は、ガッとアゴを掴んできた。

「云おりきゐ事がござるであろう(言いたい事があるだろう)?」

赤は泣いており、ギリッと歯を食い縛る。

「ふーふーふーふーふーふー」

「それがしに申されたら、貴様は屈辱を受ける。貴様はそれがしに対してちょーだい『認め』ざるを得ござらぬなる(俺に言われたら、お前は屈辱を受ける。お前は俺に対して『認め』ざるを得なくなる)」

「恋し呆け(好きだボケ)!×ね!」

仁導に言われる程そんな気持ち悪い事はない。なら自分のプライドを捨ててまでもこっちから言った方がマシだと思い、彼女は言い放ったのだ。

「よも貴様から申して来るとはな。最も、それがしに申される以って上に、絶望的な事はござらんであろう(まさかお前から言って来るとはな。最も、俺に言われる以上に、絶望的な事はないだろう)?」

ニヤッとして言い、14歳の子をからかって遊ぶ。

「いぶせきぞ(きったねえぞ)ジジィ!」

まんまと食わされ、カアァッとホオズキのように顔を真っ赤にしてしまう。

「申したのは紛れもござらぬ貴様からじゃ。認めた貴様の、負けじゃ(言ったのは紛れもなくお前からだ。認めたお前の、負けだ)」

「なんぢなど(お前なんか)!」

すると彼は上体を起こすと、舌を差し込み絡ませて来たのだ。

「恋し、きには無し(好き、じゃ無い)!」

唾液を垂れ流し、彼の頬に触れる。

「んふぅ!んんっ!ん…………ッ…ふぅ」

その舌を包むようにして吸うと、赤も吸い、交互に吸い合う。

「はあぁ…。恋しと言へ(好きって言えよ)!」

認めている。認めざるを得ない。何を言っても説得力が無いことは分かっているので、この男の口からも聞きたかった。自分の事をどう思っているのか。ほんの少しでも良いから自分の事を思っていてくれていれば良いと言う僅かな期待があった。

「それがしががき相手に真剣になるか。この単細胞のめすがきが(俺がガキ相手に本気になるか。この単細胞のメスガキが)」

両手首を束ねて拘束し、頭上に押し付け額から一筋の汗を流し、身がゾクッとし、自分に恋をしている女の子を、心から翫ぶ。

「う、くふぅ!」

涙が止まらない。この男が好き過ぎて、どうにかなってしまいそうだ。

かくならば恋しと言ふまで(こうなりゃ好きって言うまで)!

帰らせねばぞ(帰らせねえかんな)!

人の心、もて遊びて(もて遊びやがって)!

そんな中、新婚夫婦も燃えていた。

「………………………………………」

布団の上で、女の子座りする雪は、引き締まったスタイルの良い裸体を晒して俯いていた。冴えないと言うか、大人しい、清楚系、だが、顔に対しての悪い印象はなく、どちらかと言えば美人系な顔をしている。

「………………………………………」

向き合って座る伊村尊も、筋肉で引き締まった裸体になって胡座をかいていた。黒髪で、25歳には見えない程童顔であり、仲間たちからは彼が子供っぽく、顔も可愛い印象であり、しかも身長が153センチ程しかない事から『可愛い』と、男性にとって屈辱的な言葉を浴びる事があり、いつも泣かされている。こんな男が、妻を娶る日が来たとは。

「準備は、万端?」

「え(は)い」

付き合っていたあの時の緊張感とは違う。自分は今、大切な『命』を授かろうとしているから。すると彼は近寄ると、頬を染めた状態でキスをし、押し倒した。自分なりに、妻の緊張を解す為にキスからし、腕を下に下ろして、中指を膣に差し込めば、奥まで挿入し第二関節を動かす。Gスポットの場所なんか分からない。しかも、初めて女の対決な場所に触れた。

うううぅ~。

かにて、正解だか分からなゐ(これで、正解なのか分からない)。

濡らさなゐと。

感受性じゃから痛ゐさながらじゃ(デリケートだから痛いみたいだ)。

頑張とは先ずは濡らしてちょーだいあげなゐと(頑張って先ずは濡らしてあげないと)。

「んんっ!」

軽くピクッと反応した雪は、下唇を噛み締めて頬を染め、細い脚が震える。

「い、痛ゐ!?平気?」

「心地良き。ゆゆしく、心地良き(気持ち良いの。すごく、気持ち良いの)」

顔を横にし、揺れる瞳でそう口にした。そんな事を照れながら言われたものだから、彼はゾクッとし、調子に乗ってしまう。

「こっち向ゐて」

彼女は顔を向けると、ゆるんで少し開いた唇と、エロチックな視線とが射るように圧迫させ、こんな顔をした妻を見るのは初めてであり、小指サイズ程しか無い陰茎が、突き昇ってくる熱の魅力に抗えず、欲望を燃え上がらせどくどくと全身の血が滾り、自分でも信じられない程ぐんぐん大きくなり、ビュクビュクと我慢汁が溢れる。

「!!!!!!!!!!?」

うわぁ!

かのような、面もするでござるんじゃ(こんな、顔もするんだ)!

すさまじ、可愛ゐ(すごい、可愛い)!

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

下半身が熱くなってきた。ジュンと濡れ出し、指を動かすと音が響く程に濡れて来た。

「あぁ…!」

みづからするよりも(自分でするよりも)。

男の人の指にさると(指でされると)。

心地良し(気持ち良い)。

「はぁ」

濡れてる。

ぐちょぐちょに、濡れてる。

それがしなりしがぎんぎんに勃起っとる(俺のもギンギンに勃起ってる)。

まふ、挿入れても良きかな(もう、挿入れても良いかな)?

「雪。挿入れる、で候(よ)?」

「!!!!!!!!!!?」

覚悟はしていた。夫に処女を授けて子を作る。それが理想で、今までこの17年間、誰とも性行為をして来なかった。未来の夫に、差し出すまで。指を抜くと、陰茎を手にして軽くまずは、差し込んだ。

「ふ、ぐうぅ!」

布団カバーをクシャッと、握り締めた。硬いものが入って来る。指以外に何かを挿入れた事が無かったので、異物感と痛みを感じてならない。

「アァッ!」

両膝を曲げれば脚が持ち上がる。だがそれは逆効果だった。と言うのも、脚を上げると膣が狭くなるから。なので、差し込む夫の陰茎を締め付け、だがそれに対抗して膣壁を広げていくので、痛みが増す。

「ふああああぁ!」

痛し(い)!

痛し!

痛し!!

「雪!」

ガッと両手で手首を掴んで押さえ付け、両肘を曲げる雪は、抵抗が出来ない。

かたじけない(ごめん)雪!

こころもち(気持ち)良くて!

止まらなゐんじゃ(だ)!

「あぁ!んあああああぁ!」

その時

「ーーーーーーーーーーーッッッ!」

処女膜が、切れた。どくどくと血が流れ、両目を見張り、全身がばらばらに砕けて勝手な方向に駆け出し飛び散っていくような、声も凍るほどの激痛が全身に駆け上がり地震があったみたいに足が震える。

「ゔううううぅ!ふぐうううぅ!」

唾液を垂れ流し、息が出来なくなる。

「はっはっはっはっはっはっ!」

これでは過呼吸を起こしてしまう。

「雪!しかと息してちょーだい!雪が長らく望みてたわらしをこしらえるには、挿入らるる必定がござるから!痛ゐのは今のみにてじゃから(しっかり息して!雪がずっと望んでた子供を作るには、挿入れる必要があるから!痛いのは今だけだから)!」

「はっはっはっはっはっはっはっ!」

陣痛の痛みは、こんなものでは無い。失神して、体内で窒息死させてしまわない為に、時にはビンタをされて失神しないように目を覚ましておかなければならない。だからこそ、処女膜が切れたこの痛みは、陣痛に比べたらなんて事無い。

「はっはっはっはっはぁっはっはぁはぁはぁはぁはぁ」

しっかりと、息が出来るようになった。

「はぁ」

気付いたら、奥まで差し込まれていた。繋がった。結婚をして愛し合い、夫婦として一心同体になったが、差し込まれた時、更に夫との『繋がり』を感じた。

「かたじけない(ごめん)。平気?」

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

雪は、何度か軽く頷いた。今はまだ喋る余裕がない。こんなにも痛い思いをしたのは初めてだ。

「未だ、痛ゐ(まだ、痛い)?」

彼女は、首を振った。

「良かった。では、動くで候(じゃあ、動くよ)?」

尊は、ゆっくりと、ゆっくりと、した事が無いので慎重に妻を扱う。

「んぅ!んっ!んんんっ!」

硬いものが、出し入れされる。確かに夫の言う通り、痛いのは差し込んだ時だけだった。だんだんと体が解れると、余裕が持てるようになった。

「アァッ!あっ!ん、あぁ!はぁはぁ!あぁん!あぁっ!あ……………ッ…はぁん!はぁ!」

感じた事もない快感が、体を燃やす。互いに汗ばんだ頃

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

彼も慣れて来て、ゆっくりだったのがだんだんと出し入れするスピードが強まる。

「あっ!あっ!あっ!あっ!あぁ!」

唾液を垂れ流し、ビクビクと腰が痙攣すれば軽く達し、愛液が糸を引く。

「雪…!」

後頭部と背中に腕を回して抱き締め、バコッ!バコッ!バコッ!バコッ!バコッ!と、何度も子宮を築き上げる。

「雪!雪!」

「んっ!んっ!んっ!んっ!んっ!」

夫の耳元が近かったので声を押し殺そうと配慮したのだが

「あぁっ!ん、はぁ!アァッ!」

声を抑える事など出来ない。気持ち良くて気持ち良くて、堪らない。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

ダメでござる(ダメだ)!

正室(妻)が愛おし過ぎて!

堪らなゐ(い)!

「雪!雪!好いておる(好き)!雪!お慕い垂き(愛してる)!」

「んっ!あっ!あっ!あっ!アァッ!はぁ!我も、恋し!思へり(私も、好き!愛してる)!ん、はぁ!」

快楽の海に溺れて一度からだにこびりついた快感はどこにも出ていかず、腰をビクビクと痙攣させて達し

「うあぁっ!はぁ!」

夫も腰を痙攣させ、多量の精を放った。射精は力強く、雄々しく、精液はどこまでも濃密だった。きっとそれは子宮の奥まで到達したはずだ。あるいは更にその奥まで。それは実に非の打ち所のない射精。膣に射精された精子が駆け抜け、子宮へと到達する。そして、卵管を通り卵子を待つ。卵巣から排卵が起こる。精子と排卵をした卵子が、卵管膨大部で出会い、受精をする。受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管を通り、子宮内へ移動する。子宮に到達した受精卵は、子宮内膜に着床し、妊娠が成立する。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

すべてが終わったとき、次第に遠のいていく恍惚の中で女がブルッと、身震いをする。

「はあぁ」

ヌプッと抜き、射精をしたら、小指サイズ程くらいに戻ってしまう。

「………………………………………」

か、片腹いたい(は、恥ずかしい)。

トンットンットンットンットンットンッ。床を裸足で歩くシルバーの髪が目立ったイケメンな風貌の38歳の男、大浦湊は、襖を、開けた。

「すーすー」

布団の上で、眩しいばかりに白く研ぎ澄まされた女体を晒して毛布を腰まで掛けて眠る、長い黒髪はバサッと解されてあり、凛としていて目鼻立ちのきりっとした高身長の女、八坂薌だ。

「………………………………………」

彼は笑みを浮かべ、襖を閉めようとした際

「などか触れぬよかし(なんで触れてくれないさね)」

「起きておったとか(起きてたのか)?」

「寝しふりせりよかし(寝たふりしてたさね)」

顔を向けると、彼女はニヤッとした。すると湊は部屋に入って襖を閉めると、毛布を捲って布団に潜り込んで覆い被さり、後頭部とスラリとしなやかな背中に腕を回して抱き締め、唇に唇を押し当ててキスをし、互いに舌を出して絡ませる。

「はぁ」

唾液を垂れ流し、彼は、撫でるようにして腿に触れる。

「なんぢが恋しさぞ(あんたが好きさね)」

「それがしも好いておる(俺も好きだ)」

明けたばかりの空が、朝の冷気とともに新鮮に輝く。

「あはははははは!」

井戸端で洗濯をする栗色のソバージュが毛先に掛けられた唇にさしている紅が良く似合う高身長の女、美嘉と、あどけない愛らしい顔をしたスタイルの良い女、大原芽衣。そして、色気のある顔をした胸の大きい高身長の女、大橋ミクは、朝から楽しそうだ。

「美嘉。奉公行とは来るで候(仕事行って来るよ)」

家から出て来たのは、黒髪の爽やか系な、顔が整った美形の、片方の前髪が長い男、夫の甲斐田純也だ。

「あぁ憂へて!行きておはせよ(気を付けて!行ってらっしゃい)」

「何時もありがたき幸せ。感謝しておるで候(いつもありがとう。感謝してるよ)」

「!!!!!!!!!!?」

それを、にこやかな笑みを浮かべて言われたものだから、不意にもカアァッと頬を染めてしまい、洗濯をしていた手が止まる。

「こ、こなたこそ(こちらこそ)…」

そして、大八車に積んだ野菜を売りに向かう。

「相変はらず恋恋(相変わらずラブラブ)~!」

それ言ったのは芽衣だ。実は、同い年である彼女が結婚をし、しかも雪も結婚をしてしまい、自分だけが取り残されたと感じ、僻んでいた。

「殊にさる。なのめなりよなべて(別にそんな。普通だよ普通)!」

照れてる照れてる。

「はやくさうらふ(おはようございます)」

そこへ鈴が歩いてやって来た。

「はやし(おはよう)!」

「あっ!鈴はやし(鈴ちゃんおはよ)~」

「はやく鈴(おはよう鈴さん)」

皆、手が悴んでいた。朝の井戸水は本当に冷たい。桶を置き、井戸水を汲み、洗濯板で洗濯を洗い出す。

「かの鈴。ナガレ。すくよかなりや(あのぉ鈴さん。ナガレさん。元気ですか)?」

それを聞いたのはミクだ。ふと、彼女は顔を向けられると、瞳が揺れ黙り込んでしまう。

「をひとはすくよかなり。家にけふは傘を作れり(夫は元気です。家で今日は傘を作ってます)」

彼は、傘を売って家計を営んでおり、その傘が売れるので暫くは仕事をせずずっと家にいた。

「さりや(そうですか)…」

ふと、彼女の目に浮かび上がるのは、あの時の記憶。

『ナガレ。あひ願望、ありや(ナガレさん。結婚願望、ありますか)?』

ナガレが独り身だった頃、同じ井戸端で洗濯をしていた。

『へへへ』

子供のように無邪気な笑みを浮かべて言い、洗濯板でゴシゴシと洗う。

『………………………………………』

いまだ恋しき人(まだ好きな人)。

居ずやな(居ないのかなぁ)?

これはようせずは(これってもしかして)。

たより(チャンス)?

淡い期待を持ったのも束の間、彼はこんなことを言って来た。

『実は、前から好きな子が居てよぉ。その子と輿入れするでござる日が漸く決まったんじゃ(その子と結婚する日が漸く決まったんだ)』

洗濯物を洗っていた手が、止まった。

『えっ?あひ、さる、や(結婚、されるんです、か)?』

『それがしが一つ方的に慕い申してしもうたなりしがあるでござるなれど。真剣にしめられたでござるのは、かが初の事じゃ(俺が一方的に愛しちまったってのもあんだけど。本気にさせられちまったのは、これが初めてだ)』

『………………………………………』

ドクッドクッドクッドクッドクッドクッドクッドクッ。と、ひどくゆっくりと鼓動する心臓。すると、彼女は腕を伸ばすと頬に触れ

「?」

彼はふと顔を向けた際、ミクは、キスをした。

「大橋…」

「恋し。ナガレ。なあひそ(好きです。ナガレさん。結婚、しないで下さい)」

一筋の涙を流し、そう口にした。と言う両目で見ているようかのように心の中に浮かび上がり、自分の気持ちを伝えられないまま、ナガレは他人の女の夫になってしまった。

「鈴!傘売りに行とは来る(行って来る)!」

傘が積まれたリヤカーを引いて来たナガレはそう言うと、ミクはドキッとし、今だに彼を見ると、めくるめく恋の炎に身を焦がしてしまう。それは全く鎮火されない。人の夫になってしまったが、諦める事が出来なかった。『次がある』と言う言葉はもちろん分かっているが、それが出来たら、こんなにも、落ち込まない。大事なものを抜き取られたような寂しさだ。

「売らば直帰り来(売ったら真っ直ぐ帰って来てね)」

「寄り道致さぬで候!其れにて、甲斐田の奥方にゐじめられるでござるなで候(しね~よ!それより、甲斐田の妻にいじめられんなよ)!」

「誰やさいなむ(誰がイジメるか)!」

甲斐田夫婦と白鳥夫婦は夫同士も妻同士も仲が良い。

「にっひっひっひっひっひっ!」

昔から変わらない。出会った時から変わらない。この、子供のように無邪気に笑うナガレの顔。それは自分の方が一番知ってる。出会ったのも先。なのに、何故愛道鈴と言う、自分よりも年下の子に奪われなくてはならなかったのか。ミクは、悶々としていた。

「鈴共に参ろうぜ(一緒に行こうぜ)」

「今洗濯すらむ(洗濯してるでしょう)?」

ゴシッゴシッゴシッゴシッと洗濯板で洗う彼女の手は、悴んで真っ赤になっていた。

「参ろうぜ?甲斐田の奥方がやとはくらるるであろう(行こうぜ?甲斐田んとこの妻がやってくれんだろう)?」

「やらぬぞ!などか他人の夫婦の洗濯を私こそやれべけれ(やらないよ!なんで他人の夫婦の洗濯を私がやらなきゃいけないんだよ)!」

「逆に何故でござるやとはれぬでござる(なんでやってくんねんだよ)!?」

「やるまじきなべて!などか逆ギレせるぞ(やらないだろう普通!なんで逆ギレしてるんだよ)!」

するとナガレはリヤカーを下ろすと歩いて来るなり、片方の膝をついて妻が持っていた洗濯板と衣類を取り

「あっ」

ゴシゴシゴシゴシゴシゴシと洗い出す。男の人の力は、女の人の力よりも強いので、おまけにスピードもある。

「をかしき男ぞな?妻は家事するがいとなみなれど、をひとが洗濯しするなど見しためしなきぞな(面白い男だよな?妻は家事をするのが仕事なのに、夫が洗濯をするなんて見た事ないよな)?」

男は仕事をし、女は家事をするのが一般的であるのだが、この白鳥ナガレと言う男が当たり前の事を覆してくるので、美嘉は面白くて、堪らなかった。

「悴むぞ(悴むよ)?」

「独身時代の慣れっこ」

しかも、楽しんでいる。独身だった時の方が長かった為、家事もお手のもの。

「おはようでござる(おはよう)」

その時だった。後ろから脚で後頭部を踏み付け、桶に顔を突っ込ませたのだ。

「ごぼごぼごぼごぼごぼごぼ!!」

「!!!!!!!!!!?」

鈴は、瞬時に夫が納めていた小刀を抜くなり、刀の先が喉元に。

「!」

「遅ゐ。遅ゐぞ白鳥の奥方(遅い。遅いぞ白鳥の妻)」

「………………………………………」

瞳を揺らし、下唇を噛み締める。すると彼はアゴを掴み、キスをしようとして迫って来た。

「止め、て!」

「おい!」

美嘉は咄嗟に立ち上がったものの

「ぶはぁ!」

ナガレは抵抗して上体を起こせば、仁導はバランスを崩したものの、しっかりと脚を地に付けて立つ。

「殺す気かあぁ!」

「あぁ。その所存でござったかが。じゃからせめて、最期に挨拶をしたでござるなれど、貴様の奥方を頂戴するでござるには、未だのごとし(そのつもりだったんだが。だからせめて、最期に挨拶をしたんだが、お前の妻を頂戴するには、まだのようだな)」

口のあたりに意地の悪い笑みを彫りつけたように浮かべ、挑発した。

「人の奥方を奪おうと致すな(人の妻を奪おうとすんじゃねえよ)」

彼はニヤッとして立ち上がり、額に欠陥が浮き出、ガッと仁導のアゴを掴む。

「我は誰の妻にもならず。ナガレばかりの妻なり(私は誰の妻にもならない。ナガレだけの妻です)」

「硬ゐ意志を持とはゐるごとしが、貴様の意思がどれ程まにて天下無双か、楽しみじゃ(硬い意志を持っているようだが、お前の意思がどれ程までに強いか、楽しみだ)」

ナガレの手を叩き、刀を鞘に納めて歩いてその場から去る。ミクと芽衣は、黙ったまま何も出来なかった。手も足も出なかった。

「悪しき仁導。鈴が慕っておるのは、それがしのみにてのごとし(悪ぃな仁導。鈴が愛してんのは、俺だけみてぇだ)」

妻の後頭部に腕を回して抱き、彼はニヤッとしてそう言った。

「人妻にも手をいだすとて、いかなる神経せりかの検非違使(人妻でも手を出すって、どんな神経してるんだあの警察)」

「絶えて持ちて、畏き人なり(全く持って、恐ろしい人です)」

ミクの瞳が揺れ、ふと、こう感じた。

我はいまだナガレの事思ひ絶えたらねど(私はまだナガレさんの事諦めてないけど)。

仁導のごとき片恋は(仁導様みたいな片思いは)。

すまじ(したくない)。

そんな中、夢と綝導では。

「起きなさい。退却する刻限でござる(帰る時間だよ)」

「帰るまじ(帰りたくない)」

布団の上でうつ伏せになる彼女の肩を揺さぶって起こすも、駄々をこねる。

「なら口吸ひせば帰る(チューしてくれたら帰る)」

顔を向け、夢はそう口にした。

「交換条件は、飲み込めなゐな」

優しい笑みを浮かべ、首を振った。

「なら帰らず(帰らない)」

枕に顔を押し付け、是が非でも帰ろうとしないので、綝導はこう口にした。

「壱参(13)歳になる子は、駄々を捏ねなゐ」

「なら駄々捏ねぬ代はりに、十三歳にならばあひて(駄々捏ねない代わりに、13歳になったら結婚して)」

「ははははは!存念しておき候(考えておきます)」

「そればかり(そればっかり)~!」

上体を起こすと枕を投げ付けた。

「おっと!」

それをキャッチすると投げ返し、枕投げが始まった。まだまだ子供だが、彼を一途に愛しているのは、一人の女として夢が大人の階段を登る一歩なのかもしれない。その一方、赤では。

「!」

ムクッと起き上がると、仁導の姿が無かったのだ。

「あぁ畜生!また逃しにけり(チキショー!また逃しちまったぜ)!」

枕に顔を押し付け、布団カバーをクシャッと握り、瞳を揺らす。

おどろくまで待て(起きるまで待っててくれよ)。

おとな(おっさん)。

「屈辱やうなる事も言はされよ!げにいまいましきぞ(屈辱的な事も言わされてよぉ!マジでムカつくんだよ)!あああああああぁ!!」

人は皆、誰かに恋をする。それは手に届く存在であっても、手に届かない、近くて遠い存在であっても。恋をして生き、愛し愛され生きて行く。
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