異世界でゆるゆる生活を満喫す

葉月ゆな

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【リーンハルト:11歳】

第507話 聞いておいたわよ

新街から領都に戻った夜、私はジェラ兄上の部屋を尋ねる。

「アイザック兄上たちはいないよね」

私は念のためジェラ兄上の部屋を見回した。

「ハルト、どうした?」

ジェラ兄上が怪訝な顔をするが、ソファーに座るように手でジェスチャーする。


「トーロスのお肉を持ってきました。今日の夕食に出すほどの量はないので王都の屋敷で食べてください」

私は誰も部屋にいないのを確認したが、小声で話す。

クリス兄上の分もあるので、それなりにあるが、アイザック兄上たちにまで、お土産として渡せる量はないのだ。

「トーロス、結構回収したが・・・・従業員分でないのか」

そうです、正直言って足りません。


料理長から試食用に一口もらって食べたが、お肉が口の中で溶け、甘さもちょっとあり絶品だったのだ。

もう一口食べたかったけれど、一緒に来ていたアトレやルーカスたち従魔の視線が鋭くて、彼らにあげたらなくなりました。

アトレたちも一口しか食べていないから、樹海のヴァーシュに会いに行った際は、トーロスを討伐して帰ると騒いでいた。


私から話を聞いたジェラ兄上は、部屋の宿り木に泊まっているリプカの方を向く。

「リプカ、俺よりも先に試食をして黙っていたのか!」

リプカはジェラ兄上からの追及に顔をそらしている。

兄上が今度は「トーロスの肉は、美味しかったのか?」と優しい声で聞くと、リプカは飛んでジェラ兄上の肩に止まり、羽を広げて何かを訴えていた。

美味しかったとでも言っているのだろうか?


「そうか、そうか、美味しかったか。王都の屋敷で食べる際は、リプカのトーロス肉は減らして出そう」

ジェラ兄上の言葉に、リプカの羽を広げたまま固まってしまい、しばらくしてうなだれた。

「冗談だ、悪かった。ちゃんとリプカの分も普通に出す。一緒に食べような」

ジェラ兄上は苦笑いしながら、肩にいたリプカを腕にのせて頭をなでている。

リプカが黙っていたことへの意趣返しをしたようだった。


ジェラ兄上の時間停止付きマジックバッグに急いでお肉を入れ替えた。

夕食はミノタウロスのお肉料理をラファエルたちに振舞い、美味しいと絶賛されるが少し心が痛む。

翌日、ジェラ兄上はじめ、ラファエルたちも一緒に王都へ行った。




母上にナナリーとオルガへ、縁談が殺到していないか確認してもらった件で、話を聞きに行く。

ナナリーとオルガにはすでに婚約者がいたらしい。

ナナリーは婿を取って、ナナリーが工房を継ぐらしく、親方の弟子との婚約が決まっていた。

ナナリーには兄がいるが、工房を継がないらしい。


オルガの方は、最近王都からやって来た、オルガの父の元部下というか元同僚らしい。

「オルガの相手の身元はしっかりしていて、人としても大丈夫な人物ですか?」

私はオルガたちが、私と知り合いということを知って、来た人ではないかと疑ってしまう。


母上から、オルガの父であるエバンズさんとその元部下は、あるものを作ろうとして研究していたが、工房主に研究する暇があるなら仕事しろ、勝手なことをするなと言われ、エバンズさんが責任を取って工房を辞めて我が領に流れ着いたと教えてくれた。


「エバンズさんというより、その元部下が研究していて、時々アドバイスをしてあげていたらしいの。それも仕事時間外にね」

エバンズさんと工房主はあまり合わなかったのかもしれない。

工房主は言いがかりをつけて、エバンズさんが仕事を辞めるように誘導していった気がする。


オルガがエバンズさんは職人気質で、人づきあいが上手くないと以前話してくれたのは、このことだったのかもしれない。

「その元部下がエバンズさんたちを追って、ウエスランドへ?」

「そのようね。ハルトからの依頼の目覚まし時計製作に参加していたそうよ」


「母上、オルガの婚約者は、もともと何を研究していたのですか?」

「うふふふ、ハルトが興味を持つと思って、ちゃんと聞いておいたわよ」

母上は私の質問が想像通りでおかしそうに笑っている。


「私をからかうのはいいので、もったいぶらずに教えてください」

「懐中時計よりも軽い時計?もっと小さくした時計だそうよ」

私は思わず心の中でガッツポーズだ。


「ふっ、ふっ、ふっ」

「ハルト・・・・おかしな笑いは気持ち悪いわよ」

「母上、私は急用ができました。失礼します」



私はエバンズ工房にアポなしで突撃をして、オルガの婚約者に会い、研究を進めるように研究費用を渡し、激励する。

オルガの婚約者ブライスさんは、20代後半で、少しやせ型の体型だった。

でも不健康な感じでもなく普通の青年だったが、エバンズさんたちを追いかけてくるくらい義理堅い人なのだろうと思う。

最初は疑ったけれど、母上のお眼鏡にかなった人なのだから大丈夫だろう。


私は最終目標を腕時計として、革バンドの腕時計のイメージ図を渡す。

オルガの婚約者はイメージ図を受け取ってくれるが、研究費用は固辞してきた。

「この研究が成功すれば、君にとっても、オルガにとってもいい話だよ」


私は今のままだとオルガのほうが有名過ぎて、彼にやっかみや妬みが向く可能性があることを説明したら、婚約者は苦笑いしていた。

もうすでに被害に遭っていたようだ。

エバンズさんとオルガは驚いているから知らなかったみたい。

オルガの婚約者は、できた人物のようで安心したよ。
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