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キャンピングカーで始める異世界スローライフ
第3話「転生車エクラ」
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どこまでも白い空間が広がっている。
病院みたいにまっさらですべすべの地面が、果てまでまっすぐに伸びている。
昔みた映画でこんなシーンがあった。銃火器の棚が空間を埋め尽くすようにズラッと現れるやつだ。
だが、いまはなにもない。空もなければ果てもない……というか本当になにもない。
空気は……あるのだろう、息苦しさは感じない。
でもわからない……海外旅行すらしたことない俺が、宇宙の真空状態を経験してるわけがない。
「スー……ハー……」
思わず深呼吸をする。
心を落ち着かせるために、子供の頃からずっと癖になってる行動だ。
てことは酸素はあるのか? てか、いっそ聞いてみるか?
ここはどこだって……目の前にいる――
「こんにちは。私は転生の女神です」
ああ、薄々そうじゃないかと思っていたが、異世界転生してしまったわけだ。
正確には転生前の儀式かなにかのシーンなんだろう……。
漫画はよく読むし、アニメだってたまにはみる。異世界転生の基礎知識は多少なりともある。
「おちつきなさい。死の間際、アナタの強い想いが異世界の扉を開いたのです」
取り乱しているように見えたのだろうか。
普段から冷静で、リアクションが薄いと言われるタイプなのだが。
「そうです……あなたは壊れたのです……元いた世界では……ですが」
壊れた……死んだってこと?
そうか、そりゃそうだよな。異世界転生だもんな。
死ぬのが怖いとか怖くないとか……これまで考えたこともなかった。
死にたいとはなんども考えてきたが、それは社畜の性《さが》だろう。
「あなたは新しい世界で、新しい道を走るのです」
わかってる。拒否権なんてないんだろう。
拒否する理由もないけどな。ただ、実家にいる家族に心配をかけるのだけが心残りだ。
それと……来週〆の案件が……いや、それはどうでもいいことだろう! ひゃっほうっ! ざまぁみろっ!
「世界の名はエルグランデ。あなたの居た地球よりも過酷な世界です。でも、安心なさい。創造神より力が授けられます」
いわゆる、転生技能って奴だろう。思いのほか楽しくなって来やがった。
「さぁ、覚悟はよろしいですか……転生車エクラよ」
ん?
「あ、あの……女神様に対して恐れ多いのですが………名前まちがえていませんか?」
俺は気を使いつつも、右手を上げた。
「あなたは、誰ですか?」
返答はあまりにも……な、内容だった。
「えっ? いや、九段下ですけど……転生者の……」
「はぁ?」
心臓が跳ねた。
この女神、地球では存在しないだろうってくらい美人なんだが、それゆえに無機質というか……妙に冷えてる。
その絶対零度の視線で「はぁ?」とか言われたら、死ぬだろ普通に……。
「あなたが何者か知りませんし、興味もありませんが。すくなくとも転生者ではありません」
「どういうこと!? 他に誰もいないじゃないですか!?」
自分でも驚くほどに狼狽している。
でも、だってそうだろ、この場所には俺と、この真っ白ワンピース青髪碧眼の女神様しかいないじゃないか!
「転生するのは、この車。エクラですよ?」
女神は俺の隣に指差しながら言った。その白魚みたいな指の先には、俺の愛車がある。
愛車といっても買ったばかりだ、愛着なんてまだ沸いてない。ずっと隣に鎮座していたが、女神の話に夢中で気にもとめてなかった。
「えっと、何を言ってるんですか……? 車ですよ?」
「車ですが? それが何か?」
それがなにか――リアルでそんな言い方されたのはじめてだ、エグイくらいに心に来る。
どうやったら話が嚙み合うんだ、俺が合わせに行かないのダメなのか?
「車も転生するんですか?」
「しますよ。転生車です」
「ダジャレじゃねーかっ!」
思わず全力でツッコんでしまったが、すぐに後悔した。
「あっ……すいません! すいません! 女神様っ!」
バカみたいに美しい顔が、鬼みたいに歪んだからだ。
「おまえみたいなクソオッサンにも一応説明しておきますが」
「クソオッサン!?」
この女神、若く見えるけど、どうせ何千とか何万歳のクソババアなんだろなと思いつつ、口はチャック。
話を大人しく聞くことにする。
「車だろうが、物だろうが、想いが本物であればゲートは開きます」
ますますわからねぇ! 犬猫ならまだわかるよ!?
「だから車ですよ!? 感情なんてある訳ないでしょう!?」
「……」
女神様は心底、かわいそうな奴を見るような……てか見下すような表情を向けてきた。
「やれやれですね……あなたの想いに応じて、このオッサンも連れてきましたが、本当に良かったんですか?」
この問いは俺に向けられてはいない。
女神の視線は隣に駐車する、キャンピングカーに注がれている。
「ふんふん……棺桶と呼ばれた自分だが、こんどこそ守護ってみせる……と、なるほど」
なんか車と会話してるんだけど、この女神。
「いいでしょう。では、あなたの転生技能は|《絶対守護《イージス》》です」
何か話が上手くすすんでいるようだ……もしかしたら、俺はいま悪い夢をみてるのかもしれん。
「さぁ、それでは旅立ちの時です! 転生車エクラよ! 行きなさいっ! 成すべきことを成すためにっ!」
俺の足元から(どちらかというとエクラの車体の下から)、青白いエネルギーが迸る。
たとえようのない感触と、嗅いだことのない匂いが鼻をつく。
何が起きるのかは見届けようと、俺は目を見開いているつもりだったが……。
「!?」
すぐに闇が訪れた。
病院みたいにまっさらですべすべの地面が、果てまでまっすぐに伸びている。
昔みた映画でこんなシーンがあった。銃火器の棚が空間を埋め尽くすようにズラッと現れるやつだ。
だが、いまはなにもない。空もなければ果てもない……というか本当になにもない。
空気は……あるのだろう、息苦しさは感じない。
でもわからない……海外旅行すらしたことない俺が、宇宙の真空状態を経験してるわけがない。
「スー……ハー……」
思わず深呼吸をする。
心を落ち着かせるために、子供の頃からずっと癖になってる行動だ。
てことは酸素はあるのか? てか、いっそ聞いてみるか?
ここはどこだって……目の前にいる――
「こんにちは。私は転生の女神です」
ああ、薄々そうじゃないかと思っていたが、異世界転生してしまったわけだ。
正確には転生前の儀式かなにかのシーンなんだろう……。
漫画はよく読むし、アニメだってたまにはみる。異世界転生の基礎知識は多少なりともある。
「おちつきなさい。死の間際、アナタの強い想いが異世界の扉を開いたのです」
取り乱しているように見えたのだろうか。
普段から冷静で、リアクションが薄いと言われるタイプなのだが。
「そうです……あなたは壊れたのです……元いた世界では……ですが」
壊れた……死んだってこと?
そうか、そりゃそうだよな。異世界転生だもんな。
死ぬのが怖いとか怖くないとか……これまで考えたこともなかった。
死にたいとはなんども考えてきたが、それは社畜の性《さが》だろう。
「あなたは新しい世界で、新しい道を走るのです」
わかってる。拒否権なんてないんだろう。
拒否する理由もないけどな。ただ、実家にいる家族に心配をかけるのだけが心残りだ。
それと……来週〆の案件が……いや、それはどうでもいいことだろう! ひゃっほうっ! ざまぁみろっ!
「世界の名はエルグランデ。あなたの居た地球よりも過酷な世界です。でも、安心なさい。創造神より力が授けられます」
いわゆる、転生技能って奴だろう。思いのほか楽しくなって来やがった。
「さぁ、覚悟はよろしいですか……転生車エクラよ」
ん?
「あ、あの……女神様に対して恐れ多いのですが………名前まちがえていませんか?」
俺は気を使いつつも、右手を上げた。
「あなたは、誰ですか?」
返答はあまりにも……な、内容だった。
「えっ? いや、九段下ですけど……転生者の……」
「はぁ?」
心臓が跳ねた。
この女神、地球では存在しないだろうってくらい美人なんだが、それゆえに無機質というか……妙に冷えてる。
その絶対零度の視線で「はぁ?」とか言われたら、死ぬだろ普通に……。
「あなたが何者か知りませんし、興味もありませんが。すくなくとも転生者ではありません」
「どういうこと!? 他に誰もいないじゃないですか!?」
自分でも驚くほどに狼狽している。
でも、だってそうだろ、この場所には俺と、この真っ白ワンピース青髪碧眼の女神様しかいないじゃないか!
「転生するのは、この車。エクラですよ?」
女神は俺の隣に指差しながら言った。その白魚みたいな指の先には、俺の愛車がある。
愛車といっても買ったばかりだ、愛着なんてまだ沸いてない。ずっと隣に鎮座していたが、女神の話に夢中で気にもとめてなかった。
「えっと、何を言ってるんですか……? 車ですよ?」
「車ですが? それが何か?」
それがなにか――リアルでそんな言い方されたのはじめてだ、エグイくらいに心に来る。
どうやったら話が嚙み合うんだ、俺が合わせに行かないのダメなのか?
「車も転生するんですか?」
「しますよ。転生車です」
「ダジャレじゃねーかっ!」
思わず全力でツッコんでしまったが、すぐに後悔した。
「あっ……すいません! すいません! 女神様っ!」
バカみたいに美しい顔が、鬼みたいに歪んだからだ。
「おまえみたいなクソオッサンにも一応説明しておきますが」
「クソオッサン!?」
この女神、若く見えるけど、どうせ何千とか何万歳のクソババアなんだろなと思いつつ、口はチャック。
話を大人しく聞くことにする。
「車だろうが、物だろうが、想いが本物であればゲートは開きます」
ますますわからねぇ! 犬猫ならまだわかるよ!?
「だから車ですよ!? 感情なんてある訳ないでしょう!?」
「……」
女神様は心底、かわいそうな奴を見るような……てか見下すような表情を向けてきた。
「やれやれですね……あなたの想いに応じて、このオッサンも連れてきましたが、本当に良かったんですか?」
この問いは俺に向けられてはいない。
女神の視線は隣に駐車する、キャンピングカーに注がれている。
「ふんふん……棺桶と呼ばれた自分だが、こんどこそ守護ってみせる……と、なるほど」
なんか車と会話してるんだけど、この女神。
「いいでしょう。では、あなたの転生技能は|《絶対守護《イージス》》です」
何か話が上手くすすんでいるようだ……もしかしたら、俺はいま悪い夢をみてるのかもしれん。
「さぁ、それでは旅立ちの時です! 転生車エクラよ! 行きなさいっ! 成すべきことを成すためにっ!」
俺の足元から(どちらかというとエクラの車体の下から)、青白いエネルギーが迸る。
たとえようのない感触と、嗅いだことのない匂いが鼻をつく。
何が起きるのかは見届けようと、俺は目を見開いているつもりだったが……。
「!?」
すぐに闇が訪れた。
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