残影の艦隊~蝦夷共和国の理想と銀の道

谷鋭二

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【第四章】箱館戦争

甲鉄艦奪取作戦(アポルタージュ)

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(宮古湾海戦)

 三月を迎えた。極寒の蝦夷の地も次第に温暖となり雪もとけはじめた。それは同時に、戦いが間近に迫ったことをも意味していた。すでに榎本のもとには、新政府軍が三陸沖の宮古湾にまで進出してきたとの報がもたらされていた。
 いかにしてこれを迎撃するか? 五稜郭では幾度も軍議がおこなわれるが、中々作戦がまとまらなかった。最大の問題は、やはり開陽なき後の海軍力の弱さだった。
「船がほしい。せめてもう一隻、敵艦は聞くところによると八隻だそうだな。特に敵の主力艦甲鉄は、その名のとおり鉄ですっぽりおおわれているから、我々の大砲では命中しても穴もあかん」
 思わずうなり声をあげたのは、元幕府若年寄にして、かって榎本が学んだ長崎海軍伝習所で総監をつとめていた永井尚志だった。蝦夷共和国では箱館奉行に就任していた。
「そんなこといったって始まりませんぞ。現有戦力でなんとかする以外に道はない」
 と渋い顔でいったのは、やはり榎本にとり長崎海軍伝習所の同期生だった松岡盤吉だった。
「いや方法はあります」
 発言したのは、この席に特別に出席していたフランス人士官ニコルだった。軍議に参列した者の注目があつまる中、ニコルは驚くべき作戦を語りだした。
「敵の甲鉄をひそかに奪い、我らの船とすればよいのです。そうすれば海軍力五分と五分以上になります」
「そんなことができるわけがあるまい。一体どうやって甲鉄を奪うんだ?」
 苦笑しながらいったのは、松平太郎だった。
「敵の船に接弦して切りこみをかけます。機関部を占拠して船を奪うのです」
 しばし一同唖然とした。
「無茶苦茶だな。実現可能とは思えんが? 第一どうやって気付かれることなく敵艦に接近するんだ?」
 大鳥圭介もまた呆れた。
「いやそれなら手はあるぞ。どこの旗でもいい第三国の旗をあげて接近するんだ。戦闘開始直前に自分の国の旗をあげて、攻撃を仕かければいいというわけさ」
「さすがは榎本さんです。フランス海軍ではアボルタージュといいます」
「アボルタージュ? そんな卑怯な手を使ってもいいのか?」
 疑念をもったのは荒井郁之助だった。
「その件に関しては万国法で認められているんだよ」
 と榎本は即答した。
「しかし危険すぎるな。失敗する確率のほうが高いことは間違いないだろ」
 松平太郎はまだ半信半疑だった。
「しかし、我らここで敵の襲来を待っていても勝てる確率は極めて低い。わずかな可能性に賭けてみるのも悪くないのでは」
 と、この作戦に乗る気になったのは、甲賀源吾だった。
「斬りこみなら新選組にやらせてもらおう。俺たちは例え作戦が失敗に終わっても、戦って死ぬことは本望と思っている」
 と軍議の最中ほとんど口を開かなった土方歳三が、ようやく発言した。
 こうして蝦夷共和国の命運を賭けた甲鉄艦奪取作戦の計画が練られることとなった。
 

(甲鉄艦)

 甲鉄艦は実は木製であるが、文字通り甲鉄でつつまれていた。全長およそ六十メートル、排水量は千八百トンほどである。艦としてはそれほど巨大でもない。しかし馬力は千二百と榎本艦隊の回天の三倍はある。砲はまた四門と少ないが、三百斤のガラナート砲、七十斤の艦砲を備え一撃で敵艦を粉砕する能力があった。
 この船はフランスのボルドー社で建造され、最初デンマークに売却される予定だった。しかしデンマークに到着したときには価格も決定しておらず交渉が長引き、また装甲や速度に問題があることも判明し、デンマーク政府に購入を拒まれてしまう。
 おりしもアメリカ南北戦争最中で、北軍の注文がつき売却される予定であったが、ほどなく南北戦争終了。買い手がつかないまま放置されていたところを、幕府の役人がこの艦に目をつけ売買契約を結ぶ。しかし横浜に到着する頃には今度は幕府がなくなっていた。
 長時間におよぶ打ち合わせの後、指揮官には荒井郁之助、甲賀源吾、土方歳三等が選ばれ、他にフランス人ニコルも参加することになった。軍艦は回天、蟠龍、高雄の三艦である。ちなみに高雄は秋田藩から接収した船である。榎本はこれに第二回天と新たな名をつけたが、まぎらわしいので高雄とよぶことにする。
 その後、作戦に参加する者に榎本、そしてフランス人ニコルもまじえてささやかな酒宴となった。色々と昔話しなどした後、話題はフランスのナポレオンのこととなり、荒井郁之助がたずねた。
「度々噂にはきくが、何者なんですそのナポレオンというのは?」
「彼は、実はフランス人じゃありません。フランス領じゃないコルシカというひどい田舎出でした。フランスで彼は差別され、たくさんつらい思いしました。けれど負けませんでした。だれよりもフランス人になろうと努力して、ついにはフランスで一番強い人となりました」
「それで最後はどうなったんだ、そのナポレオンとかいう奴は?」
 口をはさんだのは土方だった。心なしか表情に陰があったが、ニコルは気付かなかった。
「最後は政争にやぶれて、セントヘレナ島というはるか絶海の孤島に島流しにあったはず」
 ニコルの代わりに答えたのは榎本だった。
「うむ、英雄豪傑なんてものはどこの国でもはかないものだな……」
 土方はため息をついた。
「そうだよな。俺たちだってこれから始まる戦に負けたら、ナポレオンと同じ運命が待っている」
 重苦しくいったのは荒井郁之助だった。
「私たちはもう行く場所ありません。戦争勝っても、負けても、国戻れば裁判待っている。下手すれば処刑される」
 ニコルは悲し気にいう。
「まったく俺たちは、後々の世に何を残すことができるんだろうなあ……」
 甲賀源吾もまたうつむき気味にいった。
 やがて酒宴はお開きとなった。夜十時頃のことだった。榎本と土方は以前のいきさつから、この酒の席でも親しく口をきくことはほとんどなかった。しかし去り際土方がいった。
「榎本さん、この前は言いすぎたな。というより言葉足らずだったかな。あんたは確かに実戦指揮には向いてないかもしれない。ただ優れた将というのは、座っているだけでも、配下の者を進んで死地に赴かせることができるものだ。あんたはそれができる人だ」
 そういうと土方は、足早にその場を後にしようとする。
「簡単には死ぬなよ土方君」
 榎本は思わず叫んだ。

 ちょうど日付が変わり三月二十一日をむかえる夜半、回天、高雄、蟠龍の三艦は相次いで箱館を出港。極めて天候もよく、航海は順調のはずだった。しかし二十三日、三艦はまたしても嵐にみまわれることとなる。この時、蟠龍には後に外交官として日英同盟締結に大きな役割をはたす林董三郎が乗船していた。その林董三郎が、嵐の中での蟠龍の様子を記録に残している。
「この夜、十二時頃より大風雨となる。翌日もなおやまず。蟠龍は元来小型の遊覧船なるため、大海にて暴風に遭遇すれば、秋の嵐に木の葉のただようごとく。みるみる激浪の中にまきこまれ、およそ二十四時間あまり也……」
 この嵐により、三艦のうち早くも蟠龍が脱落することになる。これで榎本艦隊は品川沖を出港して以来、三度までも嵐に遭遇し、その度に甚大な損失をだしたことになる。敵と戦う以前に天候に負けたといってもいい。荒井郁之助はそのことを悔み、後に日本国の初代中央気象台長に就任するのだった。

 残りの回天と高雄は宮古湾北側浄土ヶ浜沖合を通過して、細長い宮古湾に入った。右手、鍬ケ崎沖合のごく狭い海面に七、八隻の船が停泊している。すべて洋式船だった。甲鉄艦に春日、陽春、第一丁卯。運送船の飛竜、豊安、戊辰、晨風だった。
 しかし新政府側の海軍、陸軍共にこのような大胆な奇襲作戦を予想だにしていなかった。いや、一人だけ敵艦の接近をおぼろげながらつかんでいる者がいた。海軍ではなく、陸軍を束ねる薩摩人の黒田了介だった。
 黒田は宮古湾近くの名主の家を本陣としていた。相変わらずの酒好きである。榎本艦隊接近の前日も日没近くとなり、すでに黒田は飲んでいた。そこに鮫村方面からの伝令がはいってきた。
「何? 菊章旗をかかげた謎の船じゃと? そいは何者じゃ」
「しかとはわかりませぬ。船は三隻。もしやしたら敵艦かもしれませぬ」
「敵艦じゃとしたら一大事であるな。海軍にしらせにゃ……」
 黒田は重い腰をあげた。しかし足元がおぼつかない。かろうじて甲鉄までたどりつくも艦長の長州人・中島四郎は不在だった。艦長だけではない。ほどんどの士官は陸にあがり不在だった。
「あぁ! 敵がせまっとるちゅかもしれんに! 長州の馬鹿どもどげんなった!」
 無人の艦長室で黒田は机を蹴り飛ばした。
「おい! 誰ぞおらんのか!」
 今一度、黒田は大音声をあげた。
「一体何事です?」
 姿を現したのは艦隊参謀で肥前の石井富之助だった。
「何事? 敵艦が三隻迫ってるちゅういうちょろうが!」
 と黒田は呂律の回らない口調で、いきなり本題からはいるも石井には何のことかわからない。
「どうした、騒がしいぞ」
 と問題の中島が姿を現したが、軍装もしておらず袴姿だった。それがまた黒田の癇にさわった。
「敵艦が迫っとるんじゃ、菊章旗を掲げた船が三隻! それなのになんな、こん出で立ちは! ゆっさする気があるんか!」
 黒田はいきなり怒号をあげた。ひどい薩摩なまりのうえに、呂律の回らない口調。酒のにおいがする。その様子がおかしかったのか中島はカラカラと笑った。
「君のいってることはさっぱりわからんよ。敵がいる? どこにいるんじゃ? 箱館か、松前か、それとも薩摩にでもでたんか? とにかく君は酔っている。まず正気にもどってからゆっくり話しを聞こう」
「薩摩を愚弄すっか!」
 黒田は中島に体当たりをくらわせた。中島は壁まで飛ばされた。
「己! 無礼な!」
 一瞬刀の鍔に手がかかった。その時、長州人が数人かけつけてきた。
「一体何事だ!」
「さっきから敵が来ると、意味のわからないことをいうちょるんだ」
「酔った上での戯言じゃろ。確かこの人じゃなかったか? 昔、酒の席で山縣さんに実弾入りの鉄砲ぶっ放したというのは……」
 長州人たちが小声でひそひそと話す様子が、また黒田をいらだたせた。
「山縣がどうしたっち? あん腰抜けがどげんしたと? おまんら長州人などことごとく銃弾の餌食にしちゅう!」
 黒田は天井に銃口をむけると一発発射した。衝撃音に長州人たちは青ざめた。
「いかん! とにかく逃げろ!」
 長州人はことごとく逃げ去り、入れ替わりに若い海軍士官がはいってきた。
「黒田さぁ! しっかりしてたもんせ!」
「あぁ……東郷、おまんもおいも疑うか!」
 と黒田は怒りを露わにするも、かろうじて落ち着かせてその場から立ち去らせた。
 こうして敵艦接近の貴重な情報は海軍に伝達されることがなく、黒田が正気に戻るころあいには、宮古湾はパニックと化していたのだった。


 一方、榎本艦隊の不幸はさらに続いていた。残された二隻のうち、高雄までもがスクリューの不調で動かなくなり脱落してしまったのだ。
 残された回天のみで決行するか否か、荒井郁之助、甲賀源吾、そして土方の間で議論がかわされたが、最終結論は決行だった。
 三月二十五日の夜明け前、日の出までおよそ三十分といったところだろう。甲賀源吾を艦長とし、土方たちを乗せた回天丸は、かすかな陽の光の中、決して狭くない湾に停泊する八隻の船舶の影を見てとった。
「よいかお前たち、今回の戦いはわずかな遅れも命取りになると思え! 敵艦上陸の後はもはや命なき者と心得るがよい」
 土方は背後をふりかえり、砲甲板の右舷側に張り付いている新選組、彰義隊、神木隊の隊士たちに、いつになく厳しい表情でいった。
 一方、問題の甲鉄の乗り組み員たちは、まだ敵艦が迫っていることを察知していない。艦内では将棋を打つものもいれば、寝ている者もいる。中には明け方だというのに酒を飲んでる者もいた。
 やがて怪しげなアメリカ国旗を掲げた船舶を視界の彼方にとらえたのは、つい先ごろまで泥酔した黒田の身の回りの世話をしていた、あの若い薩摩人海軍士官だった。
 筆者は北海道の出身である。昨今のウクライナ情勢を見るにつけ、北海道がウクライナのようにならなかったことは、実に幸運だったとおもっている。ロシアという国は一度かじりついた領土は、まるでスッポンのように決してはなさない国である。まがりなりにも北海道が日本国の一部として今日まで存在しえたのは、二人の人物の功績が大きいと筆者は考えている。
 一人目は後に大国ロシアと堂々と外交を展開し、ついには千島・樺太交換条約の調印までこぎつけた本編の主人公榎本武揚である。今一人はこの若い薩摩人士官、後に日露戦争で日本海軍を勝利に導く東郷平八郎である。この時まだ二十一歳。
「ほうメリケンの船か?」
 最初、物珍しげに先進国アメリカの船舶を眺めていた東郷であったが、やがてそれが次第、次第にその影を巨大なものとし甲鉄に迫ってくる。何かが怪しいことを東郷は察しはじめていた。
「おかしかど! 直角にこちらに向かってくる!」
 東郷の背筋に冷たいものが走った。その時、するすると星条旗がおろされ旭日旗が風にはためいた。

 回天の甲板上の土方は、敵艦の船内がはっきり見てとれるほど接近したのを見計らって抜刀する。予期せぬ来客に混乱する敵艦内の様子がおかしかった。甲鉄艦の乗組員たちの中には、寝巻姿で甲板に飛び出してくる者までいた。
 やがて船と船とが追突する衝撃音が、決して広くない湾内に不気味に響きわたった。その瞬間激しい振動で、甲鉄の乗組員の多くが転倒した。一方の回天の斬りこみ隊の者もほどんとが転倒する。土方もまた必死に手すりにつかまり、体のバランスを保つのが精一杯なほどの揺れだった。
「よし行くぞ! アポルタージュ!」
 切りこみ隊の誰からともなく叫び声があがった。
 ところがである。ここですでに回天側には致命的なミスが生じていた。
 回天は舵の利きが悪かった。旋回のタイミングが遅れ、甲鉄の舳先に乗り上げるように回りこみ、甲鉄の艦首の右舷にヘッド・オンで接弦する形になってしまう。艦長の甲賀は蒸気を入れなおして後進をかけ、再度前進をやりなおし、こんどは甲鉄の左舷にT字形に舳先をおしつけた。
「これはいかん!」
 土方の表情がくもった。この状況では敵艦に舳先から一人、二人と斬りこんでゆくことしかできず、大勢が一斉にのりうつることは不可能である。しかも船と船との高低差ができていて、それが三メートルはあるだろう。これでは下手をすれば飛び降りたとたんに骨折しかねない。
 しかし躊躇していることは許されなかった。まず最初に飛び降りたのは回天一等測量役で大塚浪次郎という者だった。続いて新選組の野村利三郎が飛び降り、さらに彰義隊の者たちが飛び降りた。さしもの土方もしばし乗り移ることをためらったが、その時、遠くで銃声と共に悲鳴がした。さっそく彰義隊のうち一人が敵の銃撃により命を落としたのである。
 土方は意を決して飛びおりた。そして迫ってくる敵兵を当たるとさいわいに斬りまくった。この怜悧な頭脳を持った男は、接弦の失敗の段階で、すでに作戦が不成功に終わることを予期していた。それを忘れるためには、もはや敵を斬りまくるしかなかった。ここで死んでもかまわないとも思った。
 一方、艦長の甲賀源吾も必死だった。源吾は接弦と同時に五十斤砲を放ったが、甲鉄艦の装甲の前にはじきとばされた。かすかに煙があがっただけだった。
 やがて春日丸、戊辰、飛竜の各艦が回天を取り囲むように迫ってくる。まるで巨大な壁のようである。源吾は覚悟した。これに回天が大砲で応戦するも、やがて最悪の事態がやってきた。春日が小銃の届く至近距離まで迫り、艦橋で指揮にあたっていた源吾めがけて、嵐のように乱射したのである。源吾は最初、左股を撃ちぬかれた。かろうじて立ち上がったところを胸部に銃弾を大量に撃ちこまれた。
 死を前にした源吾の視界に、三陸の海の光景が幻想の風景のように広がった。
「美しい、俺が生まれた国はなんと美しいんだ……。せめて後一日でも生きることができたなら……」
  薩摩人海軍士官東郷平八郎は、この光景、源吾が血しぶきと共に絶命する様をはっきりと見た。その壮絶な有様は、終生東郷の脳裏から消えることはなかった。
 土方はなおも甲鉄の艦上にいた。我にもどったのは、すでに大量出血で虫の息と化した野村利三郎の姿を発見した時だった。
「野村しっかりしろ!」
 と体をゆさぶると、野村はかろうじて目を開いた。
「近藤先生……」 
 と一言いっただけで、ついに息たえた。
 この野村なる者は、流山での隊士募集に応じて新選組に加入した。近藤とともに新政府側の本営に出頭し、ついに正体が露見した近藤の必死の懇願により、殺されず放免された者だった。
 しかし土方には、野村の死を悼んでいる余裕はなかった。甲鉄にはさらなる恐るべき兵器が搭載されていたのである。ガトリング砲だった。ガトリング砲は六つの砲口を持つ砲で、一分間に百八十発もの大口径の銃弾を放つ。突撃隊の多くがこの新兵器の威力の前に、肉が弾ける音と共に血しぶきをあげながら命を落とす。
 ガトリング砲は見たところ三門、そのうちの一門は作動していなかった。砲をうごかしていた者が、斬られて死亡していたのである。
 土方はとっさにガトリング砲に手をふれた。最初操作法がわからなかったが、取っ手を引くと銃弾が嵐のように放たれた。
「こいつは面白い!」
 土方はガトリング砲を動かし、敵兵を次から次へと血祭りにあげる。しかしやがてラッパの音が高らかに聞こえてきた。
 戦闘開始から三十分あまり、回天の荒井郁之助はここを潮時とみて、撤退のラッパを吹いたのだった。ロープが垂らされ、土方はじめ生き残った突撃隊の面々はかろうじて九死に一生をへて回天へ戻ったのである。しかし何名かはロープにつかまっている段階で、敵の銃撃をうけ帰らぬ人となった。


(ガトリング砲)
 
 かくして、前代未聞の甲鉄艦奪取作戦は失敗に終わった。しかし失敗はしたものの、この宮古湾海戦は、世界の海戦史上にその名を永久に残すこととなった。
 やがて新政府側の陸海軍は続々と蝦夷めざして集結してくる。榎本にとっても覚悟の時が刻々と迫っていた。
 
 

 


 
 

 
 
 

 
 



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