36 / 39
『歪んだ愛』
しおりを挟む
死刑執行人 聖人 愛着
『歪んだ愛』
彼女は、まさに聖人のような人だった。だからこそ、唐突で驚いたんだ。
――数日前、家に一本の電話が入った。何気なく取るとそれは悲報の電話で、頭が真っ白に陥った。
「――な、何かの間違いってことは……」
「……残念ながら、彼女自身の言葉です」
わらにもすがる思いで訊いたがその糸は簡単に切れてしまう。その時のことは衝撃過ぎて、ほとんど憶えていないが大体こんな感じの会話だったと思う。
どうにか、彼女と話す機会を作ってもらった。今日はその日だ。
留置場に着き、彼女が部屋に入ってきた。彼女の眼にハイライトは無く、落ち込んでいる。と言うよりはすべてが嫌になったかのような、まともな話が出来そうに見えない。
「えと……だい、じょうぶ?」
「……」
「なんか、嫌なことでもあった?」
「……」
話を聞いているのかすら怪しい。虚ろな目で焦点が合っていないような気もする。もしかしたら声が聞こえていないのではないかと思い、奥に居る監視役の係員に話しかけてみる。
「あ、あの……僕の声って聞こえてますよね?」
「……聞こえています」
一瞬間があったのが気になるが、聞こえてはいるのだろう。どうして返事をしてくれないのか。話したくないのだろうか。こんなにも心配しているというのに。その後も何を話しかけても全くもって反応がなかった。
「――時間です」
「ええっ。そ、そんな……」
何も話せていないのに時間が来てしまった。彼女は連れられ部屋を去った。僕も留置所を後にする。
彼女が犯した罪は重いが、聖人の権化のような人だ。そんなことするわけがない。絶対におかしいんだ。だから、個人的に裁判が始まるまでの間調べることにした。
――その日彼女が何をしていたのか。どこに居たのか。なぜそんなことをしようと思ったのか。点は点同士で繋がることはなかった。だけど、一つ分かったことがある。
彼女は僕に愛着を持っていたことだ。
言うなれば、ヤンデレだ。病んでいるような印象はまったく持ち合わせていないが、疑問に思うような点はいくつかあった。それに気付いていなかっただけなのかも知れない。
彼女は、僕への愛着が強すぎるあまり今回の犯行をしてしまった。
彼女は僕の親友を殺した。
彼女は僕より歳が一つ上で、一般的に大人と言われる年齢だ。少年院なんかで済まされる歳ではない。死刑または無期、もしくは懲役五年以上。こんなのはほぼ死と同義だ。人を殺したから当然の罪、だけど……大事な友達を二人も失うのは辛すぎる。
――結果から言うと裁判の判決は死刑だった。彼女は裁判官の質問に淡々と答えるだけで、否定も大声を上げることもなかった。ただ静かに時が流れた。
彼女はこれから殺される。いつ死ぬかは分からない。知る由も、術もない。僕の知らぬ間に死んでしまう。
僕は調べた。死刑を執行する人は誰でもできるわけではなく、ランクの高い人ではないといけない。執行人達はボタン三つを同時に押し、どれか一つが殺せるボタンであるため誰が殺したかは分からないようになっている。そして金が貰える。一日にその額以上は稼げない。
こんなことを調べたところで、彼女を助ける事なんて僕には出来ない。仲の良い友達はもう居ない。僕は生きている意味がない、いや無くなった。
彼女の笑顔にいつも助けられていた。
彼女の楽しそうな、可愛い仕草。
僕だけの、僕のためだけのかわいい天使。
でも、誰にでも優しくするし、困っている人が居たらすぐに僕の傍から離れて行ってしまうのはいただけなかったなぁ。僕だけを見てくれてれば良いのに。
だから、彼女と仲の良かった人達はみんな居なくなった。これでやっと二人だけになれたと思ったのに。彼女がいないと意味が無いんだよ。僕がここまでしたのに。全部お膳立てしてあげたのに。あれほど、痕跡は残すなって……
喉にカッターを突きつけると予備動作を入れず刺し切った。
「――先に待ってるね」
『歪んだ愛』
彼女は、まさに聖人のような人だった。だからこそ、唐突で驚いたんだ。
――数日前、家に一本の電話が入った。何気なく取るとそれは悲報の電話で、頭が真っ白に陥った。
「――な、何かの間違いってことは……」
「……残念ながら、彼女自身の言葉です」
わらにもすがる思いで訊いたがその糸は簡単に切れてしまう。その時のことは衝撃過ぎて、ほとんど憶えていないが大体こんな感じの会話だったと思う。
どうにか、彼女と話す機会を作ってもらった。今日はその日だ。
留置場に着き、彼女が部屋に入ってきた。彼女の眼にハイライトは無く、落ち込んでいる。と言うよりはすべてが嫌になったかのような、まともな話が出来そうに見えない。
「えと……だい、じょうぶ?」
「……」
「なんか、嫌なことでもあった?」
「……」
話を聞いているのかすら怪しい。虚ろな目で焦点が合っていないような気もする。もしかしたら声が聞こえていないのではないかと思い、奥に居る監視役の係員に話しかけてみる。
「あ、あの……僕の声って聞こえてますよね?」
「……聞こえています」
一瞬間があったのが気になるが、聞こえてはいるのだろう。どうして返事をしてくれないのか。話したくないのだろうか。こんなにも心配しているというのに。その後も何を話しかけても全くもって反応がなかった。
「――時間です」
「ええっ。そ、そんな……」
何も話せていないのに時間が来てしまった。彼女は連れられ部屋を去った。僕も留置所を後にする。
彼女が犯した罪は重いが、聖人の権化のような人だ。そんなことするわけがない。絶対におかしいんだ。だから、個人的に裁判が始まるまでの間調べることにした。
――その日彼女が何をしていたのか。どこに居たのか。なぜそんなことをしようと思ったのか。点は点同士で繋がることはなかった。だけど、一つ分かったことがある。
彼女は僕に愛着を持っていたことだ。
言うなれば、ヤンデレだ。病んでいるような印象はまったく持ち合わせていないが、疑問に思うような点はいくつかあった。それに気付いていなかっただけなのかも知れない。
彼女は、僕への愛着が強すぎるあまり今回の犯行をしてしまった。
彼女は僕の親友を殺した。
彼女は僕より歳が一つ上で、一般的に大人と言われる年齢だ。少年院なんかで済まされる歳ではない。死刑または無期、もしくは懲役五年以上。こんなのはほぼ死と同義だ。人を殺したから当然の罪、だけど……大事な友達を二人も失うのは辛すぎる。
――結果から言うと裁判の判決は死刑だった。彼女は裁判官の質問に淡々と答えるだけで、否定も大声を上げることもなかった。ただ静かに時が流れた。
彼女はこれから殺される。いつ死ぬかは分からない。知る由も、術もない。僕の知らぬ間に死んでしまう。
僕は調べた。死刑を執行する人は誰でもできるわけではなく、ランクの高い人ではないといけない。執行人達はボタン三つを同時に押し、どれか一つが殺せるボタンであるため誰が殺したかは分からないようになっている。そして金が貰える。一日にその額以上は稼げない。
こんなことを調べたところで、彼女を助ける事なんて僕には出来ない。仲の良い友達はもう居ない。僕は生きている意味がない、いや無くなった。
彼女の笑顔にいつも助けられていた。
彼女の楽しそうな、可愛い仕草。
僕だけの、僕のためだけのかわいい天使。
でも、誰にでも優しくするし、困っている人が居たらすぐに僕の傍から離れて行ってしまうのはいただけなかったなぁ。僕だけを見てくれてれば良いのに。
だから、彼女と仲の良かった人達はみんな居なくなった。これでやっと二人だけになれたと思ったのに。彼女がいないと意味が無いんだよ。僕がここまでしたのに。全部お膳立てしてあげたのに。あれほど、痕跡は残すなって……
喉にカッターを突きつけると予備動作を入れず刺し切った。
「――先に待ってるね」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる