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番外編 御厨夫人になりまして(温泉旅行編)
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しおりを挟む「さっきはお前……いいって言ったよな?」
「……え?」
突然、彼は眉を顰めて、抱いていた莉乃亜の肩をぐいと自分の方に寄せて、顔を彼の腕の中に落としてしまう。
「……子供だ。お前に俺の子供を産んでほしい」
さっき彼に抱かれながら言われたセリフを莉乃亜は思い出して、かっと熱がこみ上げてきた。
「お前の実家みたいに、家族仲良く暮らせるのがいい……」
きっと、そういう家庭に彼は憧れがあるのかもしれない。
「はい。私も樹さんとの赤ちゃん、産みたいです。樹さんと一緒に子供を育てて、泣いたり笑ったりして……」
ふっと素直な気持ちでそう答えていた。
「……言質は取ったぞ?」
にやりと耳元で笑う声が聞こえて、はっと莉乃亜は視線を上げる。そこにはいつもの意地悪な笑みを浮かべる樹がいて。
「え、あの?」
「お前の希望はわかった。じゃあ後で布団に入ってからたっぷりと……だな」
「え、あの。そんな意味で言ったんじゃ……」
慌てて否定しかかると、彼は楽しそうに言葉を続ける。
「子作りには、リラックスしている状態が一番いいらしいぞ。こっちで仕事の事も忘れて、お前とふたりで旨い物を食べたり、莉乃亜を食べたりしたら、きっと完全にリラックスして、いい子が出来るに違いない」
「……あの、私は食べ物じゃないですが……」
莉乃亜がそういうと、彼はカプリと莉乃亜の耳朶を甘噛みする。
「ひゃうっ」
「うん、やっぱり旨い。珍味だな」
「誰がお酒のつまみですかっ!」
「……後でこれをつまみに飲むか」
「もう、樹さん。冗談はいい加減にしてくださいっ」
くすりと笑ってお互いに顔を見合わせて笑う。自然と互いに手を伸ばして手を握り合う。
「風呂出たら一杯、飲むか? さっきいい日本酒を仲居に持ってきてもらったんだ」
「はい。ご相伴にあずかります」
くすくすと笑って莉乃亜は応える。
きっとこうやって自分たちは新しい家庭を築いていくのだ。そのうちきっと樹が望むように新しい命を授かって父と母になり家族になっていく。何年後かには子供たちを連れて一緒に旅行へ出掛けるようになるのかもしれない。
「明日はちゃんと観光もしますよ」
「……お前が明日起きれたらな」
「加減してください、加減!」
最初会った時にはこんな明るい表情で笑う人だなんて知らなかった。けど今は隣で笑う人を見ているだけで幸せな気持ちになれるのだ。
──縁は異なもの味なもの。
どこかで聞いた事のある言葉を思い出す。それでも縁があって出会ったのなら、二人で一緒に幸せになりたいのだ。
「……幸せに、なりましょうね」
莉乃亜の言った言葉に彼が思わず吹き出す。
そして後ろ手に彼女を連れて前を向いたまま、小さく呟いた。
「──俺はもう十分、お前のおかげで幸福なんだがな……」
【 完 】
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