嘘つき女とクズ男

猫枕

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  グレアムはムカついていた。

  バレンタインデーの日、学校で一番沢山チョコレートをもらったのは間違いなくグレアムだった。

 一人では持ちきれないくらいのチョコレートを前にして

「さすがグレアム様」

 と羨望の眼差しを向けられても、彼の気が晴れることは無かった。

 本当に欲しかった一つを手にすることはできなかったからだ。

 あの感情に乏しい女はバレンタインデーなどという浮かれた行事に参加する人種ではない。

 それならそれで構わないのだが、他に貰ったヤツがいるのが気にくわない。

 あの日ロータリーに一人で出てきたカトリーヌが誰かを探すような仕草を見せた。

 『オレを探しているのか?』

 一瞬気分が高揚したグレアムが目にしたのは、駈けてくる赤毛のアイツに笑顔を見せるカトリーヌの姿だった。

 なにか言葉を交わした後、カトリーヌは鞄から取り出した何かをそっとアイツの手のひらに載せた。
 
 そして何か大切な物を渡すみたいに両手で包み込んで、そしてはにかむようにフッと微笑んだ。

 グレアムは、ぼおっと頭の奥が痺れるみたいな感覚で眺めていた。

 自分には絶対に手にすることのできない幻でできた砂糖菓子でも見ているようだった。

 
 それからグレアムは以前にも増して大っぴらに色んな女の子達と遊び歩くようになった。

 馬車を学校の外に待たせて、これ見よがしにご令嬢達との親密さをアピールした。

  カトリーヌが嫉妬すればいと思った。

  あの、いつかのカフェで見せたカトリーヌの傷ついた顔をもう一度見たいと思った。

 ところがカトリーヌはグレアムが何をしようと気にする様子は無い。

 ただただグレアムがとんでもない遊び人だという評判が学校中に広まっただけだった。

 グレアムの周りには遊びでもいいから相手にして欲しい女の子達が集まってきた。

 そして彼女達がカトリーヌの悪口を言うのに虚しい笑顔で頷いているうちに、本当に自分も彼女を嫌っているような気分がしてきた。

 グレアムはカトリーヌを欲しながら憎むようになっていった。

 だんだん自分の気持ちが分からなくなっていった。







「ホワイトデーというのがあるらしいんだ」

「「あるね」」

「なんでもバレンタインデーのお返しにクッキーをあげるそうなのだが」

 とヒースが言うと、

「一番メジャーなのがクッキー。
 他にキャンディーとかマシュマロとか品物によって意味合いが違ってくるという説もあるようです」

 とキャサリン。

「「へ~」」

「それでね、君たちにクッキーをあげたいんだけど作り方がわからんから困ってんのよ」

「・・・そういうのは、こっそり用意して喜ばせるもんじゃないの?」

「お母様に教えていただくとか?」

「やだよ。何の拷問だよ」

「・・・私は・・・お母さんとクッキーとか作りたかったな・・・」 

「ちょっ、キャサリン涙ぐむのヤメロ」

 
  そうしてカトリーヌの家で3人でクッキーを作る不思議展開になった。


 「焼き菓子は私じゃない方が・・」   

 と言いつつも、今回もドゥルケさんに教えてもらう。

 母ちゃんに借りてきた、というエプロンはヒースにはちょっと小さく、お腹のポケットからクマちゃんが顔を出しているデザインが可愛いかった。

「ヒース、三角巾が食堂のおばちゃんみたいで可愛い!」

 「ほら、大盛りにしといたから!
 
 若いんだからいっぱい食べんしゃい!!」

「似てる~」

「・・・私、食堂行ったことない・・・」

「・・・今度奢ってやるから・・・泣くな」


 3人は粉だらけになりながらクッキーを作った。

 焼き上がったクッキーにドゥルケさんがアイシングで絵を描くのを教えてくれた。

 「可愛い~。ヴィッラーニ先生に差し上げたら?」

「えっ?ホワイトデーなのに?」

「ただのクッキーの差し入れでいいじゃない」

 ヒースはつまみ食いばかりしている。

「キャサリン、なんだかんだ言ってしっかりハート描いてるじゃない」

「へへへ」

 女子二人が盛り上がっている間、ヒースはドゥルケさんとなにやらコソコソやっていた。

 カトリーヌの母と、たまたま在宅中だった兄も誘ってドゥルケさんも交えて皆でお茶にする。

 なんだか皆でクッキーを作って食べただけ、みたいになってしまったが。

 
さすがのヒースもカトリーヌの母親を前に緊張気味だったが、すぐに打ち解けた。

「カトリーヌのお母さんはステキだね。
 うちの母ちゃんとは大違いだよ」

「ヒースのお母様ってどんな方?」

「こえーゾ!
 箒持って追っかけてくるからな」

 皆が笑う。

「・・・私もお母さんに叱られたいな・・・」


「キャサリン・・・オマエ最近、芸風変えたな・・」




 ホワイトデー当日、早めにお昼を切り上げたキャサリンがクッキーの包みを持って、

「行ってくる!」 
 
 キリッ!と言っていなくなった。

 二人きりになると急にヒースが照れたような顔をして、

「これ・・」

 と小さな箱を差し出してきた。

「開けても?」

 中にはクッキーでできた指輪が入っていた。

 真っ赤なアイシングのハートと飴でできたエメラルドが載っている。

「可愛い・・」

「・・・ホントはダメだよな。

 どんなに悪いヤツだって、お前には婚約者がいるんだもんな・・・。

 でも、いつか・・・・今は食べたら失くなっちゃう指輪しかあげられないけど、
 いつかお前をアイツから自由にできたら、・・その時は本物の指輪を贈りたい」

 カトリーヌは鼻の奥がツンとした。

「・・・こんなの・・・もったいなくって食べられないよ・・」

 「・・・ごめんな・・・ボクに力が無くて」

 目に涙を滲ませるカトリーヌをヒースは抱きしめたかった。

 だけど彼女に罪を犯させるわけにはいかないから、ヒースはただ黙ってカトリーヌの隣に座っていることしかできなかった。

 



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