10 / 39
10
しおりを挟む
グレアムはムカついていた。
バレンタインデーの日、学校で一番沢山チョコレートをもらったのは間違いなくグレアムだった。
一人では持ちきれないくらいのチョコレートを前にして
「さすがグレアム様」
と羨望の眼差しを向けられても、彼の気が晴れることは無かった。
本当に欲しかった一つを手にすることはできなかったからだ。
あの感情に乏しい女はバレンタインデーなどという浮かれた行事に参加する人種ではない。
それならそれで構わないのだが、他に貰ったヤツがいるのが気にくわない。
あの日ロータリーに一人で出てきたカトリーヌが誰かを探すような仕草を見せた。
『オレを探しているのか?』
一瞬気分が高揚したグレアムが目にしたのは、駈けてくる赤毛のアイツに笑顔を見せるカトリーヌの姿だった。
なにか言葉を交わした後、カトリーヌは鞄から取り出した何かをそっとアイツの手のひらに載せた。
そして何か大切な物を渡すみたいに両手で包み込んで、そしてはにかむようにフッと微笑んだ。
グレアムは、ぼおっと頭の奥が痺れるみたいな感覚で眺めていた。
自分には絶対に手にすることのできない幻でできた砂糖菓子でも見ているようだった。
それからグレアムは以前にも増して大っぴらに色んな女の子達と遊び歩くようになった。
馬車を学校の外に待たせて、これ見よがしにご令嬢達との親密さをアピールした。
カトリーヌが嫉妬すればいと思った。
あの、いつかのカフェで見せたカトリーヌの傷ついた顔をもう一度見たいと思った。
ところがカトリーヌはグレアムが何をしようと気にする様子は無い。
ただただグレアムがとんでもない遊び人だという評判が学校中に広まっただけだった。
グレアムの周りには遊びでもいいから相手にして欲しい女の子達が集まってきた。
そして彼女達がカトリーヌの悪口を言うのに虚しい笑顔で頷いているうちに、本当に自分も彼女を嫌っているような気分がしてきた。
グレアムはカトリーヌを欲しながら憎むようになっていった。
だんだん自分の気持ちが分からなくなっていった。
「ホワイトデーというのがあるらしいんだ」
「「あるね」」
「なんでもバレンタインデーのお返しにクッキーをあげるそうなのだが」
とヒースが言うと、
「一番メジャーなのがクッキー。
他にキャンディーとかマシュマロとか品物によって意味合いが違ってくるという説もあるようです」
とキャサリン。
「「へ~」」
「それでね、君たちにクッキーをあげたいんだけど作り方がわからんから困ってんのよ」
「・・・そういうのは、こっそり用意して喜ばせるもんじゃないの?」
「お母様に教えていただくとか?」
「やだよ。何の拷問だよ」
「・・・私は・・・お母さんとクッキーとか作りたかったな・・・」
「ちょっ、キャサリン涙ぐむのヤメロ」
そうしてカトリーヌの家で3人でクッキーを作る不思議展開になった。
「焼き菓子は私じゃない方が・・」
と言いつつも、今回もドゥルケさんに教えてもらう。
母ちゃんに借りてきた、というエプロンはヒースにはちょっと小さく、お腹のポケットからクマちゃんが顔を出しているデザインが可愛いかった。
「ヒース、三角巾が食堂のおばちゃんみたいで可愛い!」
「ほら、大盛りにしといたから!
若いんだからいっぱい食べんしゃい!!」
「似てる~」
「・・・私、食堂行ったことない・・・」
「・・・今度奢ってやるから・・・泣くな」
3人は粉だらけになりながらクッキーを作った。
焼き上がったクッキーにドゥルケさんがアイシングで絵を描くのを教えてくれた。
「可愛い~。ヴィッラーニ先生に差し上げたら?」
「えっ?ホワイトデーなのに?」
「ただのクッキーの差し入れでいいじゃない」
ヒースはつまみ食いばかりしている。
「キャサリン、なんだかんだ言ってしっかりハート描いてるじゃない」
「へへへ」
女子二人が盛り上がっている間、ヒースはドゥルケさんとなにやらコソコソやっていた。
カトリーヌの母と、たまたま在宅中だった兄も誘ってドゥルケさんも交えて皆でお茶にする。
なんだか皆でクッキーを作って食べただけ、みたいになってしまったが。
さすがのヒースもカトリーヌの母親を前に緊張気味だったが、すぐに打ち解けた。
「カトリーヌのお母さんはステキだね。
うちの母ちゃんとは大違いだよ」
「ヒースのお母様ってどんな方?」
「こえーゾ!
箒持って追っかけてくるからな」
皆が笑う。
「・・・私もお母さんに叱られたいな・・・」
「キャサリン・・・オマエ最近、芸風変えたな・・」
ホワイトデー当日、早めにお昼を切り上げたキャサリンがクッキーの包みを持って、
「行ってくる!」
キリッ!と言っていなくなった。
二人きりになると急にヒースが照れたような顔をして、
「これ・・」
と小さな箱を差し出してきた。
「開けても?」
中にはクッキーでできた指輪が入っていた。
真っ赤なアイシングのハートと飴でできたエメラルドが載っている。
「可愛い・・」
「・・・ホントはダメだよな。
どんなに悪いヤツだって、お前には婚約者がいるんだもんな・・・。
でも、いつか・・・・今は食べたら失くなっちゃう指輪しかあげられないけど、
いつかお前をアイツから自由にできたら、・・その時は本物の指輪を贈りたい」
カトリーヌは鼻の奥がツンとした。
「・・・こんなの・・・もったいなくって食べられないよ・・」
「・・・ごめんな・・・ボクに力が無くて」
目に涙を滲ませるカトリーヌをヒースは抱きしめたかった。
だけど彼女に罪を犯させるわけにはいかないから、ヒースはただ黙ってカトリーヌの隣に座っていることしかできなかった。
バレンタインデーの日、学校で一番沢山チョコレートをもらったのは間違いなくグレアムだった。
一人では持ちきれないくらいのチョコレートを前にして
「さすがグレアム様」
と羨望の眼差しを向けられても、彼の気が晴れることは無かった。
本当に欲しかった一つを手にすることはできなかったからだ。
あの感情に乏しい女はバレンタインデーなどという浮かれた行事に参加する人種ではない。
それならそれで構わないのだが、他に貰ったヤツがいるのが気にくわない。
あの日ロータリーに一人で出てきたカトリーヌが誰かを探すような仕草を見せた。
『オレを探しているのか?』
一瞬気分が高揚したグレアムが目にしたのは、駈けてくる赤毛のアイツに笑顔を見せるカトリーヌの姿だった。
なにか言葉を交わした後、カトリーヌは鞄から取り出した何かをそっとアイツの手のひらに載せた。
そして何か大切な物を渡すみたいに両手で包み込んで、そしてはにかむようにフッと微笑んだ。
グレアムは、ぼおっと頭の奥が痺れるみたいな感覚で眺めていた。
自分には絶対に手にすることのできない幻でできた砂糖菓子でも見ているようだった。
それからグレアムは以前にも増して大っぴらに色んな女の子達と遊び歩くようになった。
馬車を学校の外に待たせて、これ見よがしにご令嬢達との親密さをアピールした。
カトリーヌが嫉妬すればいと思った。
あの、いつかのカフェで見せたカトリーヌの傷ついた顔をもう一度見たいと思った。
ところがカトリーヌはグレアムが何をしようと気にする様子は無い。
ただただグレアムがとんでもない遊び人だという評判が学校中に広まっただけだった。
グレアムの周りには遊びでもいいから相手にして欲しい女の子達が集まってきた。
そして彼女達がカトリーヌの悪口を言うのに虚しい笑顔で頷いているうちに、本当に自分も彼女を嫌っているような気分がしてきた。
グレアムはカトリーヌを欲しながら憎むようになっていった。
だんだん自分の気持ちが分からなくなっていった。
「ホワイトデーというのがあるらしいんだ」
「「あるね」」
「なんでもバレンタインデーのお返しにクッキーをあげるそうなのだが」
とヒースが言うと、
「一番メジャーなのがクッキー。
他にキャンディーとかマシュマロとか品物によって意味合いが違ってくるという説もあるようです」
とキャサリン。
「「へ~」」
「それでね、君たちにクッキーをあげたいんだけど作り方がわからんから困ってんのよ」
「・・・そういうのは、こっそり用意して喜ばせるもんじゃないの?」
「お母様に教えていただくとか?」
「やだよ。何の拷問だよ」
「・・・私は・・・お母さんとクッキーとか作りたかったな・・・」
「ちょっ、キャサリン涙ぐむのヤメロ」
そうしてカトリーヌの家で3人でクッキーを作る不思議展開になった。
「焼き菓子は私じゃない方が・・」
と言いつつも、今回もドゥルケさんに教えてもらう。
母ちゃんに借りてきた、というエプロンはヒースにはちょっと小さく、お腹のポケットからクマちゃんが顔を出しているデザインが可愛いかった。
「ヒース、三角巾が食堂のおばちゃんみたいで可愛い!」
「ほら、大盛りにしといたから!
若いんだからいっぱい食べんしゃい!!」
「似てる~」
「・・・私、食堂行ったことない・・・」
「・・・今度奢ってやるから・・・泣くな」
3人は粉だらけになりながらクッキーを作った。
焼き上がったクッキーにドゥルケさんがアイシングで絵を描くのを教えてくれた。
「可愛い~。ヴィッラーニ先生に差し上げたら?」
「えっ?ホワイトデーなのに?」
「ただのクッキーの差し入れでいいじゃない」
ヒースはつまみ食いばかりしている。
「キャサリン、なんだかんだ言ってしっかりハート描いてるじゃない」
「へへへ」
女子二人が盛り上がっている間、ヒースはドゥルケさんとなにやらコソコソやっていた。
カトリーヌの母と、たまたま在宅中だった兄も誘ってドゥルケさんも交えて皆でお茶にする。
なんだか皆でクッキーを作って食べただけ、みたいになってしまったが。
さすがのヒースもカトリーヌの母親を前に緊張気味だったが、すぐに打ち解けた。
「カトリーヌのお母さんはステキだね。
うちの母ちゃんとは大違いだよ」
「ヒースのお母様ってどんな方?」
「こえーゾ!
箒持って追っかけてくるからな」
皆が笑う。
「・・・私もお母さんに叱られたいな・・・」
「キャサリン・・・オマエ最近、芸風変えたな・・」
ホワイトデー当日、早めにお昼を切り上げたキャサリンがクッキーの包みを持って、
「行ってくる!」
キリッ!と言っていなくなった。
二人きりになると急にヒースが照れたような顔をして、
「これ・・」
と小さな箱を差し出してきた。
「開けても?」
中にはクッキーでできた指輪が入っていた。
真っ赤なアイシングのハートと飴でできたエメラルドが載っている。
「可愛い・・」
「・・・ホントはダメだよな。
どんなに悪いヤツだって、お前には婚約者がいるんだもんな・・・。
でも、いつか・・・・今は食べたら失くなっちゃう指輪しかあげられないけど、
いつかお前をアイツから自由にできたら、・・その時は本物の指輪を贈りたい」
カトリーヌは鼻の奥がツンとした。
「・・・こんなの・・・もったいなくって食べられないよ・・」
「・・・ごめんな・・・ボクに力が無くて」
目に涙を滲ませるカトリーヌをヒースは抱きしめたかった。
だけど彼女に罪を犯させるわけにはいかないから、ヒースはただ黙ってカトリーヌの隣に座っていることしかできなかった。
82
あなたにおすすめの小説
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない
有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。
魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。
「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。
ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~
水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。
婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。
5話で完結の短いお話です。
いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。
お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
チョイス伯爵家のお嬢さま
cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。
ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。
今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。
産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。
4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。
そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。
婚約も解消となってしまいます。
元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。
5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。
さて・・・どうなる?
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる