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ソルアーサー家がプラクース国から連れ帰った菓子職人ドゥルケさんがチョコレートの作り方を教えてくれた。
ドゥルケさんは溶かしたチョコレートの温度を上げたり下げたりして滑らかにするテンパリングという技法を教えてくれた。
「えー、そんなの適当に溶かして固めればいいのに」
「それじゃ結晶化が均一にならなくて見た目や舌触りも悪くなるんですよ」
既にめんどくさそうなカトリーヌに対してキャサリンは、
「化学の実験みたい」
と興味津々だった。
『勉強のできる人は違うわね~』
とカトリーヌは感心した。
そうして出来上がったチョコレートは素人技とは思えない素晴らしい出来映えだった。
「これって自分達で作ったって言えるのかな?」
「・・・まあ、デザインは私達が考えたんだし」
二人は良しとした。
カトリーヌの部屋でキャサリンの本命チョコのラッピングをする、
「渡す時について来てくれる?」
「いいけど、私は隠れて応援してるからね」
「カトリーヌは渡さないの?」
「・・・誰に?」
「ヒース」
カトリーヌは明るいヒースにいつも助けられている、と感じていた。
友達の多いヒースは、なにもカトリーヌと昼御飯を食べなくても他の友達といくらでもワイワイやれるはずだ。
弁当を集るふりをして毎日一緒にいてくれるのはカトリーヌが孤独に成らないように。
キャサリンを連れて来たのも、彼女にご飯を食べさせたたかったのもあるだろうけど、カトリーヌが男の子と二人きりになって非難されるのを避けるため。
今ではカトリーヌは学校に行くとヒースの姿を探していることに自分でも気づいている。
「・・・一応私って、婚約者いるじゃない?
だから私達二人からの友チョコってことでダメかな?
アイツ期待してたし」
「私は別に構わないけど、ヒースはカトリーヌ一人だけからの方が嬉しいんじゃないかしら?」
「そんなことないでしょ。
アイツは食べられれば何でもいいんじゃない?」
カトリーヌはいつも、腹減った~、と言っているヒースの顔を思い浮かべて笑った。
そしてキャサリンが帰った後で、もう一度ドゥルケさんに手伝ってもらって特別なチョコレートを作った。
迎えたバレンタインデー当日、みんな朝からソワソワと浮き足だっていた。
机の中に可愛い包みを見つけて顔を赤らめて照れるのがいるかと思えば、その隣で羨ましさと妬みが混じりあった顔で冷やかしているのがいる、といった具合であった。
昼休みに裏庭にいくと、すでにヒースが来ていた。
「「いつもありがとう!」」
二人で箱を差し出すと、
「待ってました!」
とバリバリと包装を開ける。
「もう開けるんかい!!」
キャサリンのツッコミなど聞いてやしない。
「すっご~!これ手作りぃ~?
感激しちゃうな~!」
「・・・手作り・・ていうか、ちょっと菓子職人に手伝ってもらったっていうか・・・」
「ちょっと手伝ってもらった、・・ていうか、・・・ほとんど作ってもらったっていうか・・・」
「ま、その方が安心して食えるしな!
」
「「返せ!」」
授業終わりの教室では、何も貰えなかった男達が悲愴感を漂わせていた。
「皆様少しお待ちいただけますか」
カトリーヌとキャサリンがクラスメート全員にチョコレートを配り始めると皆が笑顔になった。
女の子達も友チョコを貰って嬉しそうだ。
ヒースが仲立ちしてくれて、最近ではクラスの皆とも仲良く過ごせるようになってきていた。
配られたチョコレートには
「仲良くしてくれてありがとう」
とメッセージが添えられていた。
放課後キャサリンとカトリーヌは地理・歴史資料室に向かった。
社会科系の先生の控え室も兼ねているこの部屋は、ほとんどヴィッラーニ先生の専用みたいになっているらしい。
コンコンコン。
「は~い」
キャサリンが声を出さずに
「どうしよう~」
と言う。
カトリーヌも頑張れのポーズをとりながら、
「行け!行け!」
と声を出さずに応援する。
「なんだ~?イタズラか?」
足音が近づいて来てドアが開く。
「なんだ君か。どうした?」
カトリーヌはドアの陰にいて、ヴィッラーニ先生からは見えない。
カトリーヌは口の動きだけで、
「ファイト!ファイト!」
とエールを送る。
キャサリンと先生が部屋に入った後、暫くカトリーヌはドアの外に立っていたが、
「え?これを作ってくれたの?
嬉しいよ」
「今、お茶淹れるから待ってて」
というヴィッラーニ先生の声が聞こえてきたところで静かにその場を後にした。
ロータリーに行くと、まだ多くの生徒達が帰らずにたむろしていた。
いつもは馬車に乗ってさっさと帰るスペリオールの男子が多いのは、オーディナリーの女子からのチョコレートを期待しているからだ。
カトリーヌが人混みの中に視線をさまよわせる。
するとヒースが駆けてきて、
「チョコうまかったよ、ありがとな!」
と笑った。
「もう全部食べたの?」
「他の奴らにも分けたんだよ。
中に酸っぱいのがあったんだけど」
「あれはラズベリーソースが入ってるのよ」
「なんだ、良かった。
痛んでるのかと思った」
「失礼ね~。美味しかったでしょ?」
ウマかった、ウマかったと笑うヒース。
「ところでキャサリンは?」
「フフフ・・・
彼女は本命チョコを渡しに行ったのよ」
するとヒースは少し不機嫌そうな顔になった。
「本命チョコ・・・。
お前は?お前も誰か(グレアム)にあげるの?本命チョコ」
するとカトリーヌは鞄から、手のひらに収まるくらい小さな箱を取り出して、ヒースの手を包むように、そっと載せた。
「内緒だよ」
※9話が消えてしまったので、書き直しました。
内容は大体同じですが、細かい部分が変わっていると思います。
教えてくださった方、ありがとうございました。
ドゥルケさんは溶かしたチョコレートの温度を上げたり下げたりして滑らかにするテンパリングという技法を教えてくれた。
「えー、そんなの適当に溶かして固めればいいのに」
「それじゃ結晶化が均一にならなくて見た目や舌触りも悪くなるんですよ」
既にめんどくさそうなカトリーヌに対してキャサリンは、
「化学の実験みたい」
と興味津々だった。
『勉強のできる人は違うわね~』
とカトリーヌは感心した。
そうして出来上がったチョコレートは素人技とは思えない素晴らしい出来映えだった。
「これって自分達で作ったって言えるのかな?」
「・・・まあ、デザインは私達が考えたんだし」
二人は良しとした。
カトリーヌの部屋でキャサリンの本命チョコのラッピングをする、
「渡す時について来てくれる?」
「いいけど、私は隠れて応援してるからね」
「カトリーヌは渡さないの?」
「・・・誰に?」
「ヒース」
カトリーヌは明るいヒースにいつも助けられている、と感じていた。
友達の多いヒースは、なにもカトリーヌと昼御飯を食べなくても他の友達といくらでもワイワイやれるはずだ。
弁当を集るふりをして毎日一緒にいてくれるのはカトリーヌが孤独に成らないように。
キャサリンを連れて来たのも、彼女にご飯を食べさせたたかったのもあるだろうけど、カトリーヌが男の子と二人きりになって非難されるのを避けるため。
今ではカトリーヌは学校に行くとヒースの姿を探していることに自分でも気づいている。
「・・・一応私って、婚約者いるじゃない?
だから私達二人からの友チョコってことでダメかな?
アイツ期待してたし」
「私は別に構わないけど、ヒースはカトリーヌ一人だけからの方が嬉しいんじゃないかしら?」
「そんなことないでしょ。
アイツは食べられれば何でもいいんじゃない?」
カトリーヌはいつも、腹減った~、と言っているヒースの顔を思い浮かべて笑った。
そしてキャサリンが帰った後で、もう一度ドゥルケさんに手伝ってもらって特別なチョコレートを作った。
迎えたバレンタインデー当日、みんな朝からソワソワと浮き足だっていた。
机の中に可愛い包みを見つけて顔を赤らめて照れるのがいるかと思えば、その隣で羨ましさと妬みが混じりあった顔で冷やかしているのがいる、といった具合であった。
昼休みに裏庭にいくと、すでにヒースが来ていた。
「「いつもありがとう!」」
二人で箱を差し出すと、
「待ってました!」
とバリバリと包装を開ける。
「もう開けるんかい!!」
キャサリンのツッコミなど聞いてやしない。
「すっご~!これ手作りぃ~?
感激しちゃうな~!」
「・・・手作り・・ていうか、ちょっと菓子職人に手伝ってもらったっていうか・・・」
「ちょっと手伝ってもらった、・・ていうか、・・・ほとんど作ってもらったっていうか・・・」
「ま、その方が安心して食えるしな!
」
「「返せ!」」
授業終わりの教室では、何も貰えなかった男達が悲愴感を漂わせていた。
「皆様少しお待ちいただけますか」
カトリーヌとキャサリンがクラスメート全員にチョコレートを配り始めると皆が笑顔になった。
女の子達も友チョコを貰って嬉しそうだ。
ヒースが仲立ちしてくれて、最近ではクラスの皆とも仲良く過ごせるようになってきていた。
配られたチョコレートには
「仲良くしてくれてありがとう」
とメッセージが添えられていた。
放課後キャサリンとカトリーヌは地理・歴史資料室に向かった。
社会科系の先生の控え室も兼ねているこの部屋は、ほとんどヴィッラーニ先生の専用みたいになっているらしい。
コンコンコン。
「は~い」
キャサリンが声を出さずに
「どうしよう~」
と言う。
カトリーヌも頑張れのポーズをとりながら、
「行け!行け!」
と声を出さずに応援する。
「なんだ~?イタズラか?」
足音が近づいて来てドアが開く。
「なんだ君か。どうした?」
カトリーヌはドアの陰にいて、ヴィッラーニ先生からは見えない。
カトリーヌは口の動きだけで、
「ファイト!ファイト!」
とエールを送る。
キャサリンと先生が部屋に入った後、暫くカトリーヌはドアの外に立っていたが、
「え?これを作ってくれたの?
嬉しいよ」
「今、お茶淹れるから待ってて」
というヴィッラーニ先生の声が聞こえてきたところで静かにその場を後にした。
ロータリーに行くと、まだ多くの生徒達が帰らずにたむろしていた。
いつもは馬車に乗ってさっさと帰るスペリオールの男子が多いのは、オーディナリーの女子からのチョコレートを期待しているからだ。
カトリーヌが人混みの中に視線をさまよわせる。
するとヒースが駆けてきて、
「チョコうまかったよ、ありがとな!」
と笑った。
「もう全部食べたの?」
「他の奴らにも分けたんだよ。
中に酸っぱいのがあったんだけど」
「あれはラズベリーソースが入ってるのよ」
「なんだ、良かった。
痛んでるのかと思った」
「失礼ね~。美味しかったでしょ?」
ウマかった、ウマかったと笑うヒース。
「ところでキャサリンは?」
「フフフ・・・
彼女は本命チョコを渡しに行ったのよ」
するとヒースは少し不機嫌そうな顔になった。
「本命チョコ・・・。
お前は?お前も誰か(グレアム)にあげるの?本命チョコ」
するとカトリーヌは鞄から、手のひらに収まるくらい小さな箱を取り出して、ヒースの手を包むように、そっと載せた。
「内緒だよ」
※9話が消えてしまったので、書き直しました。
内容は大体同じですが、細かい部分が変わっていると思います。
教えてくださった方、ありがとうございました。
応援ありがとうございます!
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