やるの?やらないの?

猫枕

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おばあちゃんのセーター

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 待ち合わせ場所に現れたアベルは超絶ダサいセーターを着ていた。

 アベルは週日は仕事に打ち込んで休みの日にエリーとデートするというスタイルに落ち着いた。

「いわゆるお付き合いっていうのをやったこと無いのよね~。
 普通に映画観るとか食べ歩きするとか、学生カップルがするようなこと」

 エリーがそう言うとアベルが、ボクも、と言う。

「普通のお付き合いの経験も無い者同士がいきなり結婚って乱暴すぎない?そりゃ上手くいかないわよ」

「そうだな。ボクも皆みたいに手を繋いで街を歩いたりしてみたい」

 そんなわけで最近の二人は待ち合わせをして青春のやり直しをしているのだ。

 そして一週間ぶりにエリーに会ったアベルが嬉しそうに近づいて来てエリーと手を繋ごうとした瞬間、エリーがさっと手を引っ込めた。

「え?なんで?」

「・・・いや、なんとなく」

 アベルはエリーの視線が自分のセーターに注がれていることに気づいた。

「これ?気に入ってんだ」

「へ、・・・へぇ・・。
 でも、20才の男が熊ちゃんがデカデカと編み込まれたセーター着てるってのも」

「猫だよ」

「熊だろ」

「おばあちゃんの手編みなんだ。
 田舎に住んでる母方のおばあちゃん」

『おばあちゃん・・・そのパワーワードを持ち出されるとそれ以上突っ込めない』

「へ、へぇ・・・でも、ちょっと子供っぽくない?」

「おばあちゃんの中ではボクはいつまでも小さい子供なんだろうねフフッ。
 ほら、丈も少し短い」

 人気のカフェに誘うアベルに  

「今日は河川敷を散歩でもしてみない?」

 とエリーはやんわりと提案してみる。

「ダメだよ。寒いし。エリーが風邪ひいちゃう」

 半強制的に連行されるエリー。

 席に案内されるとアベルが紳士的に椅子を引いてエリーを座らせる。
 その流れるような動作と超絶イケメンの微笑に隣の席の若い女性二人組が息を飲んだのが伝わった。

 次に二人の視線はアベルの熊、じゃなくて猫に移動した。

「なにあれ?」

 二人のヒソヒソ声がエリーには聞こえていた。

「狙ってやってんのかな?」 

「普通、彼女が注意しない?」



 そうなのだ。

 華々しい結婚式を挙げたアベルとエリーは周囲からは正式な夫婦だと思われている。

 そして先日偶然街で会った元同級生から、

「この前アンタ達を見かけたけど旦那さんのファッション変わったダサくなったよね?
 他の女に取られたくないのは分かるけど、あれじゃアベルさんが気の毒じゃない?」

 と言われたのだ。



「彼女の手編みかな?」

 女子二人組はちらちらエリーを見ながらクスクス笑っている。

「でも、下手くそな彼女の手編みのセーターを堂々と着てくれる彼氏って、ちょっと素敵じゃない?」

「うん、何気に羨ましい」


『違いますよ~!違いますからお嬢さん達。
 私が編んだんじゃないですから!』


「おばあちゃんが編んだっていうセーターは今着ている一着だけなの?」

 エリーはわざと二人組に聞こえるように大きな声で言った。


「他にも沢山あるよ。
 去年のは真っ赤なセーターで胸に大きなクリスマスツリーが編み込んであるんだ。
 てっぺんの星は立体的になってるんだよ~」

 「へ、へぇ~」

「クリスマスデートの時に着てくるから楽しみにしといてね」


『確かクリスマスはクリスタル・キャッスル・ホテルのディナーを予約したって言ってなかったっけ?
 ドレスコードではねられるんじゃない?あ、自分ちのホテルだからいいのか』

 隣で二人組が軽くむせている。

 どうやらエリーの冤罪は晴れたようだ。

 するとアベルがニッコリ笑って唐突に、

「ボクは君に2回も一目惚れしたんだね」

 と言った。

 いや、発言はイケメンだけどセーターが!胸のブサイクな猫が!

 隣の二人組も悶絶している。





 カフェを出てから尚も街をぶらつこうとするアベルに、

「なんだか疲れたから部屋でゆっくりしたいわ」

 と言ったエリーに何か勘違いしたっぽいアベルが、

「じゃ、家に来る?」

 と言った。

 目が輝いている。


 初めて入ったアベルの部屋はエリーの部屋の3倍くらい広くて、続きの部屋はなんとアベル専用のミニシアターになっていた。

『やっぱり金持ちなんだなあ』

 お察し通り壁一面に設えられた棚にはアストロ・ライダーに関連したグッズがズラリ並べられている。

『ここはスルーしないと面倒なことになる』

 するとアベルが額に入った写真を持ってきた。

「これがボクの初恋の人」

 幼いエリーが大きな翠の目をウルウルさせてカメラ目線で写っていた。

 アベルは写真を棚に戻すとエリーに向き合い彼女の両の二の腕を優しく掴んだ。

 アベルの顔が近づいて来る。

 『あっ、来る』

 その瞬間アベルの喉が鳴った。

 『今、生唾飲んだよな?』

 アベルはエリーの唇にぶにゅっと自分の唇を押し付けた。

 それから興奮したように、

「やっぱり!やっぱりいつも通り柔い!」

 と言った。

「・・・いつも、通り?・・・って何?」

「あ、・・・フフッ、ボクはいつもエリーとキスしてるから」

「???なんのこと?」

「もうボクはエリーと何回キスしたかわかんないよぉフフッ」

「待て待て待て待て待て」

「ボクが『仕事が終わるまで待っててね』って言うのに、君はいつも待てないって、仕事中のボクの腕に纏わりついてキスをねだるんだフフッ」

「待て待て待て待て待て待て」

「ボクは何度もシミュレーションしてんの」

「それを世間では妄想っていうんだよ」

「フフフフン」

「フフフフンとか言ってんじゃねぇぞ」

 エリーは反撃に出た。

「こうか?こうか?」

 エリーはアベルの腕に纏わりついて上目遣いにアベルを見つめると、

「ねぇ、キスして」

 と言った。

 するとアベルが真っ赤になった。

「ヤバいヤバい!出る!出る!」

「何が出るんだよ?!」 

「ボ、ボクの、・・せ、」

「うわー!言うな!それ以上言ったら殺す!!」

 そのあと落ち着きを取り戻したアベルはもう一度エリーにキスをしてきた。
 ガバっとエリーに吸い付いたアベルはエリーの口に舌を差し込んできて猛烈な勢いでグルグル舐め回した。

「ちょ、ちょっと・・・」

 エリーが酸欠になってハーハーしていると、

「親密なキスは舌をいれるんだ。 
 いつもやってるじゃないか」

 と得意顔で言った。




 
  


 
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