私は王子のサンドバッグ

猫枕

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 賑やかな通りを抜けて裏道にさしかかったとき、誰かにつけられているのに気づいた。
 急ごうとするがこの足では走ることもできない。
 必死で逃げようと引き摺る足で歩を速めるが背後の足音がどんどん近づいてきて、あっという間に口を塞がれて路地裏に引きずり込まれた。

 恐怖で声もだせない私が目にした相手はエリック王子だった。

 王子は私の両腕をぎりぎりと締め上げるように掴みながら、怒気を孕んだ声で言った。

「どうして!どうしてオレがこんなに苦しいのにお前は笑ってるんだ!」

 なんで王子がここにいるの?

 フードを目深に被った王子は最後に会った時より痩せたようで、頬はこけ目は狂気じみて光っていた。

 「痛い、痛い」

 私が振りほどこうとすると余計に力を込めた王子が私の左手首の傷に目を留める。
 そして暫く凝視したあと我に返ったように力を緩めた。

 「ねえ、帰ろう。一緒に帰ろう」

 急に優しい声で言う王子。助けを呼びたいのに声が出ないし足も震える。

 「い・・・嫌・・」

 途端に王子の顔が怒りに歪む。

「生意気な!口ごたえするな!お前はオレの言うことを聞いてりゃいいんだよ!」

 王子は私を壁に押し付けた。そしてガンガン揺さぶってくるので私はゴツゴツと後頭部を打ち付けられた。

 どうしよう、殺される。

 夕暮れの町には砂糖の精製工場から甘い香りが漂っていて、モスクから歌うような美しい祈りの声が聴こえる。
 絶対絶命の窮地に立たされながらも、どこか悪い夢でも見ているような現実感の無さだった。

 「あの赤毛の男が好きなのか?」

 ?赤毛?ロイのこと?
 そりゃアンタの数億倍好きだわ!って言ってやりたいけれども、そんな事言ったらロイに危険が及ぶ。

「・・・違います、ただのお友達です」


「だよな。お前が好きなのはオレだもんな。オレだけが好きなんだよな」

顔の筋肉が引きつってピクピクする。

「い・・・痛い・・・離して・・・ください」

するとまた我に返ったように優しくなった王子が私の肩を抱いてくる。コロコロ態度が豹変するのが怖い。

 「な、一緒に帰ろう。お前はオレと一緒にいるのが幸せなんだよ。」

 王子がかすれた声で耳元で囁く。気持ち悪くて全身鳥肌が立つ。

「欲しいもは何でも与えてあげる。世界一幸せにしてあげるから」

 「い、行きません」 

「お前は騙されてるんだよ。悪い奴等がお前を唆してオレ達を引き裂こうとしてるんだよ。」

「嫌です・・・私はここで勉強して自立した女性になるんです」

「は?お前みたいなバカが勉強するだけ無駄だろう?お前はな~んにもできないダメな奴だからなぁ。自立なんてできるわけないだろう?バカなんだから。
 無責任な奴等におだてられて勘違いすると痛い目にあうぞ。
 だ~れも責任取ってくれないぞぉ。
オレだけだから、無価値なお前と一緒にいてやれるのは。
 お前はオレの言うこと聞いてりゃいいの。
 お前はなんにもできない役立たずのバカなんだからオレがいないと生きていけないだろ。
 な、分かったら帰るぞ」

「何でもくださるんなら、自由をください。・・・殿下から解放してください」

「やっぱりお前は口で言っても分からないんだな!」

王子が顔を真っ赤にしながら腕を大きく振り上げた。

 殴られる!身構えたとき走ってきた人物が王子の腕を押さえた。
  
 アレクだった。細身のアレクが瞬時に王子を組敷いた。

 「離せ!不敬だぞ!」

「貴様こそ女の子に乱暴をはたらくとは何様のつもりだ!」

いつも無表情なアレクが怒鳴った。


 少し遅れて駆けつけたジェイムズが皮肉をこめたふざけた調子で言った。

「王~子様だよ~」

 

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