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新生活
しおりを挟むクラリスは荷物をまとめた。
ジルベールが買ってくれた高価なドレスやアクセサリーはすべて置いていくことにしたが、普段着と下着類は頂いて行くことにした。
さすがに今度はジルベールに手紙を残すことにしたが何を書いて良いか分からず存外に時間を食ってしまった。
翌朝、半年暮らした部屋を見回すと、あのまま実家で暮らしていたら経験できなかったであろう様々な事が思い返されて、嫌な思いもしたけど案外楽しかったな、と鼻の奥がツンとした。
シノと最後の朝食を摂って、
「シノさんが親切にしてくださったので毎日が楽しく過ごせました。
どうかお体に気をつけてお元気で」
と一切の疑いもなく親愛の眼差しを向けられると、
『坊っちゃまの結婚相手候補でさえなければ良い子だったんだけどねぇ』
と流石のシノも涙ぐんだ。
『今回は軍資金が豊富だからパンを盗まなくてもいいわね』
「元気でね。幸せになるのよ」
シノがぐっと両手を握って送り出してくれた。
クラリスは意気揚々とジルベール宅を後にした。
ボストンバッグとバイオリンケースを抱えたクラリスが徒歩で王都にたどり着いたのは夕方4時過ぎだった。
宿屋に泊まる方法も知らないクラリスは、とりあえず現金を得ようと銀行にいったが既に入口には鉄格子の扉が無情に立ちはだかっていた。
壁に埋め込まれたプレートにはよそよそしい文字で、
月曜日~金曜日 (祝日を除く)
朝8時30分~午後3時
※年末年始等、臨時休業有り
と刻まれていた。
『明日の8時30分までお金貰えないの?!
ってか、え?今日って金曜日じゃない!
月曜日まで一文無しなの?!』
クラリスは後悔した。
やっぱりパンを盗んでくれば良かった。
いや、それどころか今夜、野宿したら死ぬよね?確実に凍死するよね?!
『ボストンバッグの中には大金が入っているのに、安宿にも泊まれず、スープの一杯にもありつけず、凍え死ぬんだ・・・なにこれ、なにこの私の人生・・・』
クラリスはハハハハ・・・と笑い出した。
笑いながら涙が溢れてきた。
ハハハハ・・・
ハハハハ・・・・
道行く人達が異様な物を見る目で通り過ぎる。
すると、
「お前、クラリスだろ?
どうしたんだ?」
ジュールだった。
ジュールの顔を見た途端、ホッとしたクラリスは彼に抱きついて号泣した。
「一体何があったんだい?」
「うっ・・・・うぇっ・・・お・・・おぇ・・・お腹、・・・お腹すい・・・お腹すいたぁ~」
ジュールが連れて行ってくれた食堂で温かい食事にありついて人心地ついたクラリスに
「それで何があったか教えてくれる?」
とジュールは聞いた。
話があっち飛びこっち飛びするのを軌道修正しながら聞き出して現状を把握したジュールが、
「じゃ、とりあえず月曜日までの宿が無いって訳だね?」
と言った。
「・・・はい。
ご迷惑をおかけして申し訳ないのですが、少しお金を貸して頂けないでしょうか?
月曜日になれば必ずお返ししますので」
「それは構わないけど、君一人だと誰かに騙されたり泥棒に遭ったりしそうで心配だな。
銀行の手続きとか部屋を借りる時の保証人とか仕事探しとか手伝おうか?」
クラリスの目がうるうるした。
「本当ですか?!
私、本当はすっごく不安だったんです」
「まあ、一応親戚なんだし気軽に頼ってよ。
とりあえず月曜日まではウチに居たら?」
クラリスは急に暗い顔になって黙り込む。
「どうした?」
「ランベール家にお世話になれば実家に筒抜けだから・・・」
「大丈夫だよ。オレは町でアパート借りて一人暮らししてるんだ。
もう何年も実家には帰ってない。
部屋も余ってるし、大丈夫、鍵も掛かるから」
ハハッと笑ったジュールはジルベールの美しいけど冷たい顔と違って、すごく柔らかく暖かかった。
そしてその垂れ目気味の黒々とした瞳で覗き込まれるとドキッとしてしまった。
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