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手切れ金
しおりを挟む「アナタは一体何をしているの!?」
挨拶も無しにいきなり怒鳴り付けてきたご婦人を見て、その身なりからきっとジルベールの母親だろうと思ったクラリスは
「畑を耕そうと思いまして」
と答えた。
そっくりという訳ではないが、どことなくジルベールに似たご婦人は彼とはタイプは違うがとても美しく、少なく見積もっても50は過ぎているはずだが衰えを一切感じさせないのは一重に財力のなせる業なのか。
「そんなこと聞いてるんじゃないわよ!」
「えっと、春になったら大根を撒こうかなと思いまして」
「だからそんなことはどうでもいいのよ!」
「・・・ジャガイモ」
「アナタはどういうつもりで
ここに居座ってるのか?って聞いているのよ!」
『ずいぶん失礼な人だな~。
ま、私のことなんて人間だとも思ってないんだろうけど。
元お姫様だもんね』
どう答えるべきか考えあぐねていると、
「これだから無教養な貧民は困るわ!
まともな受け答えもできないんだから!」
『それは貴女様の息子様がいつまでたっても結婚しないから、この際跡継ぎさえ産んでくれれば誰でもいいからって私の様なものまで連れて来たのは貴女様の旦那様じゃないですか』
と言ってやりたいけど言えない。
「アナタなんかがジルベールと釣り合うとでも思ってるの?」
さっき迄黙っていたもう一人のご婦人が詰め寄った。
噂のお姉様なのだろう。
「いえ、全然釣り合ってません」
クラリスの返答に肩透かしを食らった二人は、
「じゃ、どうしてタレーラン公爵家の次期当主夫人が務まるなんて大それたことを考えられるの?」
「こんなあばら家を掃除してるくらいで公爵夫人が務まるなんて思ってるなら大きな間違いよ!
本邸を見たらビックリして腰を抜かすから!
なんなら本邸の何千枚もあるガラス窓を全部一人で拭かせてあげましょうか?」
お姉様がトンチンカンな援護射撃をする。
「アナタなんかねぇ、本邸の掃除が終わらない内に一生が終わるのよ!」
何か上手いことを言ったような気になったらしくフランシーヌは悦に入った顔をしている。
そういえばジルベール様にご家族についてお聞きした時に、
『プライドばかり高くて馬鹿な姉』
と吐き棄てるように仰っていましたが、この頓珍漢具合に確かな血の繋がりを感じるのは私だけでしょうか、とクラリスは思った。
「私に公爵夫人が務まるとは思っていません」
「じゃあ、どうしてさっさと出ていかないの?」
「・・・行く当てがないので」
「ホラ!お母様、本性を出したわよ!
行く所が無いからとジルベールの慈悲にすがって我が家の財産をくいものにしようとしてるんだわ!」
「アナタみたいなみすぼらしい女がジルベールの隣に立つだけで恥をかくというものよ」
『いや、だから隣に立とうなんて思ってませんて』
「そりゃあジルベールはアフロディーテも嫉妬するくらい美しいから、アナタが夢中になるのはわかるけど」
『ずいぶん大きく出たな。
タレーラン家の辞書には謙遜という文字は無いんだろうな』
「お金をあげるわ。
しばらく生きていくのに困らないくらいのお金を」
「ありがとうございます!!」
間髪入れずにクラリスが即答したのでマルティーナとフランシーヌは拍子抜けした。
半分冗談だったのだが、引っ込みがつかなくなった。
『渡りに舟じゃね?』
追い出されて出て行くのなら私悪くないよね。
お金を貰うのは忍びないけど、実際問題として新生活を始めるのに資金は要るものね。
期待を込めた目を向けられてマルティーナはハンドバッグから小切手帳を出してさらさらと書き付けると一枚の紙を切り取ってクラリスに差し出した。
「これ何ですか?」
「それは小切手!銀行に持っていけばお金に代えて貰えるから」
「ホントですかぁ~?」
クラリスに疑いの目を向けられてカッとしたマルティーナは
「小切手も知らないの?
銀行に行けばそこに書いてある金額と交換して貰えるから」
「いち、じゅう、ひゃく、せん・・・」
「数えないの!!」
「こんなに宜しいんですか?
助かります!」
「・・・いい?
明日よ。
明日中に出て行かなかったら、私からお金を騙しとった詐欺罪で逮捕させますからね」
二人はプンプンしながら豪華な馬車で帰って行った。
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