18 / 40
18 売られた喧嘩は転売する
しおりを挟むニコとはもう暫く会っていない。
今や売れっ子になったニコはアングラ劇団の舞台に出ることもめっきりなくなって、主な活躍の場を映画に移し、雑誌の表紙を飾るようになっていた。
いつの間にかまた冬が来て、ラウラは27
才になっていた。
コートの襟を立て、白い息を吐きながら閉店間際の食料品店へと急ぐラウラを呼び止める者がいる。
振り向くと立っていたのは見覚えのない若い女。
20才くらいだろうか、女の子、といった方がしっくりくる可愛らしい容貌のその子は不機嫌を隠さない表情で言った。
「あなた、ラウラ・ヘミングさん?」
「そうだけど、あなたは誰?」
「いい加減ランディー・マークスさんのこと解放してあげてくれませんか?」
「?」
「あなた身の程を知った方がいいと思いますよ。
自分のこと美人だって思ってるんでしょうけど、確実に老けてますからね」
名前も名乗らずになんて失礼な人なんだろう。
さすが、ランディーの知り合い、と言うべきか。
「なんのことかさっぱり分からないわ」
そう言ってラウラが立ち去ろうとすると進路を塞ぐ。
「逃げないでください」
はあ?っと大声を出したい衝動を抑え、
「・・・あなた誰なの?自己紹介もしないで一方的に勝手なことばかり言って失礼じゃない?」
「アンタそうやって職場でも若い子をイジメてんでしょ?」
呆れた。
初対面の年上をアンタ呼ばわりとは。
「・・・いいから名前を名乗りなさいよ」
「ローリー」
「で?ランディーがなんだって?」
「アンタがいい年していつまでもフラフラしてるからランディーさんが面倒見なきゃいけないんでしょ?
いつまでもお姫様気取りで彼を束縛するのは止めてよ」
「・・・へー。・・・・そうなんだ。
それって、もしかしてランディーがそう言ったの?」
「・・・直接聞いたってわけじゃないけど、ランディーさんとデイビスさんが話してるところとか色々・・・」
「ふーん」
アイツら一度まとめて絞めとかないと。
「とにかく、今までも色んな女の子がランディーさんにアタックしたけどダメで、わたしなら簡単に落とせるって思ったのに。それもこれもアンタが迷惑かけてるせいなんでしょ?」
「ちょっと今から時間ある?」
多分今夜もカウンターで管を巻いているであろうあの男にご対面させてやろうじゃないか。
ラウラはローリーという娘を連れて今日は行かないつもりだったpanicに出向いた。
何処に連れていかれるのだろうかと若干不安げにラウラの後をついてきたローリーはpanicのカウンターにランディーの姿を見つけると、さっきまでとは全然違う声のトーンで、
「ランディーさん、会えて嬉しいですぅ」
と突進した。
ローリーを見てたじろいたランディーは彼女の背後にいるラウラを見て更に驚いた。
「ランディー。
さっきローリーさんから面白いお話を聞かせて戴いたのよ」
「えっ?なに?」
すっかりビビっているランディーを放置して、
「ローリー、まあ座って。何飲む?」
「えっと、こういうお店来たことないんです」
二人はランディーを両側から挟むように座った。
「キールロワイヤルとかどう?甘くて飲みやすいわよ」
ラウラは本題に入らずに、その後もパリジャンなどの甘くて飲みやすいがそこそこアルコール度数の高いカクテルを勧め、ローリーもすっかりいい気分になっている。
入店した当初はなんとなくギクシャクした雰囲気だった二人が打ち解け合って、真ん中のランディーをいないもののように二人で会話している。
『まずい。
ローリーを酔わせてペラペラ喋らせてオレに都合の悪い事を聞き出す作戦じゃなかろうか』
「えーっと、明日もあるし。
オレはそろそろ帰ろうかな」
カリスに目で訴えて、そうっと席を立とうとするランディーはラウラに腕を引っ張られてもう一度椅子に座らされてしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
296
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる