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26 ニコの旅3
しおりを挟む港のワーフには夏場の海水浴客を当て込んだ海鮮を売りにしたお洒落な店が並んでいたが、真冬の波止場は閑散として冬季休業の貼り紙が目立っていた。
ラウラとニコは開いている店を見つけて入った。
名物だという魚介の煮込みで暖を取る。
「お客さん物好きだね」
店主はイマイチ関係性の掴めない二人組に興味を持ったように話かけてきた。
「こんな真冬に来たって見るとこないのに。
旅行かい?」
「ええ、まあ。
この辺りには名所みたいなものは無いんですか?」
「なんにもないねぇ。海水浴シーズンには出店もたくさん並んで賑わうんだけどね」
ストーブの前の敷物に伸びている犬にニコが目を遣る。
「夏が終わると観光客が連れて来た犬を置き去りにするんだ。
バカンスの間だけ無責任に可愛いがって夏が終わればさようならって。
そいつもその内の一匹さ」
「もうすぐクリスマスですね」
店内の隅に飾られたツリーを眺めてラウラがどうでもいい話題を振る。
「この町も冬に観光客を呼び込もうとして波止場に10メートルもある大きいツリーを立てたんだけどね、たいして話題にもならなくて3年くらいは続いたっけね、止めちまったよ」
いかにも馬鹿らしいというように店主は言ったがラウラはそのツリーが見てみたかったな、と思った。
ラウラが会計を済ませている間、ニコはしきりに犬を撫でていた。
「おじさん、この子の名前なんていうの?」
「そいつはニコってんだ」
翌日ニコとラウラは港近くの教会に行った。
ミリーの葬式を挙げてくれた神父様がまだ残っていた。
その時のお礼を言うと神父様が、身寄りを失くした君がどうなったのか心配していた、と目に涙を浮かべてニコを抱きしめた。
ニコはミリーの為にミサをあげて欲しいと献金した。
小さな礼拝堂に神父様の祈りの詠唱が響いた。
教会を後にするとき、ニコが振り返って神父様に問う。
「ミリーの人生を奪ったボクはどうやって償えるのでしょうか」
神父様は一瞬驚いたように目を瞠ったがすぐに優しく微笑んで、
「私はミリーさんの最期に秘跡を授けました。
その時ミリーさんは貴方のことだけを思っていました。
貴方は希望の光、貴方の幸せだけを願っている、とおっしゃっていましたよ。
あの時、貴方にその話はしたんですけどね、きっと悲しみが大きすぎて届いていなかったのですね」
ニコの目に涙が溢れてきた。
「貴方が幸せで笑っていることがミリーさんの救いになると私は思いますよ」
ニコは自分より背の小さい神父様にしがみつくようにして泣いた。
次の朝ニコは、
「ラウラ、まだ休みあるよね。
ボク、育った町に行ってみたいんだ。
ラウラにも見て欲しい」
と言った。
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