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しおりを挟むその日は暑かったのでセレネは髪をアップにして朝食の席に現れた。
それを見た瞬間にゼファーが息を飲んだ。
「あ、これ変ですか?」
セレネがそっと手を頭に添えて首を傾けると、ゼファーが顔を赤くして、
「ダフネさんかと思った」
と口を押さえている。
「母とはどこで?」
「俺は子供の時から魔力が異常に高くて、制御できずに苦労したんだ。
自分で気がつかないうちに他人を傷つけてしまったりして、本当に自分でいることを持て余していたんだ」
「魔法が使えて便利だな~って思ってましたけど、そんなお気楽なものでもないんですね」
「皆が俺を怖がるようになって、メイドなんかも定着しなくて次々逃げていくわけ。
母親からも怖がられてさ。
そんな中で庇ってくれたのが兄貴だったんだよな。
兄貴だけは俺と一緒にいてくれていつも励ましてくれたんだ。
『ゼファーはすごい!ゼファーは天才だ』
って。
だけどいつものように遊んでる時に俺は兄貴に大怪我させちゃったんだ。
父上も母上もカンカンに怒って、王宮の中には危険な俺を殺すべきだって者もいてね、俺は遠くの辺境の地に幽閉されることになったの」
「そんな・・・」
「それを必死で止めてくれたのが兄貴だったんだ。
俺は敵だらけの王宮で肩身の狭い思いをして暮らすくらいなら、生きていくのも厳しい辺境の地で誰とも関わらずに生きていきたいって思ってた。
だけど兄貴は
『ゼファーはすごい魔法使いになる!将来絶対に国を救う英雄になるんだ!
』
って言ってね、俺は兄貴のお陰でそのまま王子としての地位を維持することになったんだけど、その代わり兄貴には会わせて貰えなくなった」
「どうして?」
「俺が兄貴に危害を加えないように」
「・・・そんな・・」
「それで俺は王城の端っこの、家族も寄りつかない離れで来る日も来る日も魔法と制御の訓練を受けてたの」
「寂しかったですね」
「そんな時にダフネさんに会ったんだ」
「あ、やっと出てきた。
もう母の話はどっか行っちゃッたのかと思いました」
「まあ、待てよ。・・・あれは俺がまだ6才の頃かな」
「そんな王城の端っこで母は何をしていたんでしょう?」
「道に迷ったんだな。必死に誤魔化そうとしてたけど」
「あー、壊滅的な方向音痴でした、確かに。
建物出た途端に自信満々に反対方向に歩き出す人でした」
「まず普通に話しかけられたのが嬉しかったんだけど、まあ、その時は俺もひねくれてたからさ、
『俺はゼファーだぞ!』
って叫んだんだ。怖がらせようと思ってな。
そしたらキョトンとして
『だれ?』って。
俺は恥ずかしくなって、
『俺はこの国で一番強い魔法使いなんだからな!!
象だって簡単に殺せるんだからな!!』
って言ったんだ。
そうしたらダフネさんはチッチッって人差し指を振って、
『そこは、象だって簡単に殺せるんだゾウ!!、でしょ』
って 」
「はぁ」
「スゴい人だって思ったね」
「なんで?」
「彼女はこんな端っこで軟禁されるように王子が魔法の教師と最低限の使用人と暮らしていることで何か悟ったんだろうね。
魔法を見せて欲しいって。
俺は怖かった。
また魔力が暴発してこの人を傷つけるんじゃないかって。
だけど、俺が池の水をビーズにして宙に浮かして踊らせると、弾けるように笑って
『ステキ!ステキ!』
って手を叩いて喜んだんだよ。
俺はもう有頂天になって、次から次に花吹雪を降らせたり、蝶を集めて舞わせたりしたよ。
魔法で人を喜ばせるって感覚を初めて知ったんだ」
ゼファーは記憶を懐かしむように笑顔で話していた。
「それからダフネさんは遠回しに俺から帰り道を聞き出そうとするんだが、俺も久しぶりの人間味のある触れ合いを手離したくなくて、わざと気づかないふりをして話を長引かせたりしてな」
「不憫ですね」
セレネは6才のゼファーを抱きしめてやりたい、と思った。
「で、『俺は第二王子ゼファー・コンスタントプロスだ!
そなた名をなんと申す?』
と聞いたら、美しいお辞儀をしてだな、
『申し遅れまして失礼いたしました。
私はペネイオス侯爵家のダフネと申します』
ってね、あれが俺の初恋だったな」
「なんか、ゼファー様ってちょいちょい惚れっぽくないですか?」
「それで俺は彼女に」
「スルーですか」
「『そなたを俺の妃にしてやる!』
って言ったんだ」
「うわっ!」
「そうしたら彼女は困ったような顔をして、
『なんという光栄でしょう。
しかしながら私は来月サマラス伯爵家に嫁ぐことが決まっております。
誠に残念でございます』
って言うんだ」
「秒で失恋してるじゃないですか」
「その頃は俺は既に瞬間移動ができるようになっていたからな。秘密だったけど。
だからそれからもちょくちょくダフネさんの様子を見に行ったりしていた」
「犯罪」
「淡い恋だった・・・」
「いや、犯罪だから」
「陰ながら彼女の幸せを見守っていたんだよ。
ダフネさんと会ってから、自分の心と折り合いをつけて感情をコントロールできるようになってきたんだ。
それからは飛躍的に魔法の制御ができるようになったんだ」
「それでご家族で暮らせるようになったんですか?」
「12才の時に穀倉地帯で大干魃が起こってな、その時、兄貴が俺を呼んで雨を降らせたんだ。
飢饉が回避できたことで一気に俺の株は上がった。
それで父上も俺を認めてくれて、また家族で暮らせるようになったんだが、何年も没交渉だったから両親は俺にどう接すればいいかわからなかったんだろうな。
結局は居心地が悪くてサッサと学校の寮に入ったよ」
「お兄様とは?」
「兄貴は何かと俺を気にかけてくれて、友達を紹介してくれたりして俺が孤独にならないようにしてくれたんだ。
兄貴には恩がある」
「なるほど、だからなんですね。
なんでやっちまわないのか不思議だったんですよ」
「まあ、血は争えないんだろうな。
優しい兄貴なんだけど、女のことになると譲れなかったんだろうな」
「・・・・きっとまた良い出会いがありますって。
・・・ファイト!」
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